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第1話 世界の真実(4)

「隊長! 準備完了しました!」

「ユキナ班はどうだ?」

「問題ありません」


「デートコース、想定漏れは無いな?」

「はい、昨日、さりげなくデートプランを特集した雑誌をシライの席に置いておきました」

「よくやった」

「携帯端末から、昼食で使うカフェの場所と予算を確認しています!」

「よし、店側へ交渉。二人を案内する座席を予約させろ!」

「了解!」


「ユキナちゃんの方はどうだ?」

「昨日、メッセージを受信したようです」

「中身は?」

「発信元、送信先の情報は偽装でした。海外のサーバーをいくつも経由している上、本文は暗号化されているので、解読と送信者の特定に数週間から数ヶ月は要します」

「やむを得ない。解読は『最優先』という熨斗(のし)をつけて情報局へ回せ。天井からの視認は?」

「胸元を覗くセクハラだと言われたので、配置していません!」

「そりゃそうだ。そんな羨まし……非常識なことを許すものか! 例の教授は?」

「動きは無いと連絡が入っています」


「よし、そろそろ時間だ。デートが成功するよう、各員、集中せよ!」

「「「「「了解!」」」」」


***


「シライ班、状況を送れ!」

「シライ班、現在、駅前の喫茶店でコーヒーを注文している事を確認」

「念のため注文を取った店員の身元照会中……出ました……問題ありません!」

「シライ、携帯端末をいじってます……あー、ターゲットの笑顔が可愛い!」

「余計な情報はいらん」

「店員、コーヒーを持ってきました……持ってきた店員の身元照会中……出ました。総務部部長のご令嬢です。アルバイトの履歴書を手に入れました。どうやら部長にサプライズのプレゼントを……はい? はっ、解りました。この情報は破棄します」


「ユキナ班! 状況送れ!」

「ユキナちゃん、可愛いー」

「ユキナちゃん、最高ー」

「ユキナ班! 大至急写真送れ!」


「シライ班、ユキナ班と人員の入れ替えを進言します」

「自分も同意見であります」

「私はシライ班のままがいいです!」

「あー却下な」


「シライ、ユキナを視認した模様!」

「シライ班からもユキナちゃん視認! 可愛いであります!」

「可憐だ……」

「シライさん、キュート……」


「ユキナ班、こちらからも視認!」

「ユキナちゃん、シライに向かって最高の笑顔です!」

「シライ死ね!」

「シライ羨ましすぎる!」

「シライ爆ぜろ!」

「もう帰ってもいいですか?」


 カラン!


 喫茶店のドアが開く音にコウは視線を上げる。その先には白い清楚なワンピースを着たユキナがいた。その可憐な姿にコウは一瞬意識を奪われたが、声をかけるには少し距離があった。ユキナはコウに気が付いていないようで、そのまま立ち止まり、キョロキョロとコウを探している。その姿を録画して家でじっくり見たいという気分に襲われながらも、じっと耐え、コウはユキナに手を振った。


 なお、実際に録画した者がいたのだが、それは取り上げられ、情報分析後、念入りに破棄されたのは、余談である。


 店に入ったユキナの顔がパッと明るくなった。どうやらコウに気が付いたようだ。


「シライさん!」


 それほど、大きな声ではなかったが、店内にいた客が一瞬顔を上げ、入り口の方を見る。そして、視線を戻し、再び入り口へ。二度見したくなるような美しい女性がそこにいたのだから仕方が無いだろう。男性客がユキナを確認した後に、ユキナの視線の先にいるコウをちらりと見る。


(釣り合わないと思われているだろうなぁ……)


 コウ自身、その自覚があるから、そこは仕方無い。頬を掻きながらも、羨ましいだろう、妬んでおけと、コウは心の奥で念じる。そもそも、ほとんどの席はカップルで埋まっていて、文句を言われる筋合いなど無いのだ。



「お待たせしました。待たせちゃいました?」

「大丈夫、さっき僕も着いたばかりだから……ほら」


 そう言って、コウはユキナにまだ湯気が出ている飲みかけのコーヒーを見せる。


「よかった……前回の事もあったから、早く来ようと思ったんですけど……服とか選んでいるうちに、ギリギリになっちゃって……」

「まだ時間前じゃん、この間の事も全然気にする事ないよ」


(そんな事より、僕とのデートで服を悩んでくれてたんだ。それは、なんだか嬉しいな)


 コウは、そのまま言葉にしようとも思ったが、気障な気がして臆してしまった。グループ交際といった甘酸っぱい経験すら無いコウにとっては、普通を装っていても、それなりに一杯一杯だった。


 デートの約束をしてから今日まで、ネギ先輩の協力と誰かが机に置いてくれたデートマニュアル本を使って、受け答えを何度もシミュレーションしてはいた。だが、現実はマニュアル通りにいかない。どこかで失敗してしまうかもしれない――


 そんな意識がコウの動作を少し不自然にする。


 一方のユキナは、組織から届いたメッセージが心に引っかかっており、コウのように素直に楽しむという心情ではなかった。そのため、コウの動きの不自然な部分には気がつけていない。


『行動せよ』


 この言葉の意味する先には、コウと親しくなれという意味が籠められているのだろうか。具体的に、何をどう……という指示では無いのが、余計にややこしい――


 ユキナ自身が、コウにお詫びをしよう、少しでも楽しんでもらおうという、言い換えれば『親しくなる』行動を、まさにしようとしていたため、このままでは、組織の思惑に沿った形になるという事が、今日のデートに暗い影を落としてしまっていたのだ。


 それでも――


(今日は、先日の約束のやり直し。組織は関係無い。だいたい、私じゃシライさんをどうにかしようなんて、出来る訳無い)


 自己評価がそれほど高く無いユキナは、そう自分に言い聞かせていた。


「コーヒー頼む? お昼にユキナちゃんの言っていたカフェに行こうかと思っているんだけど、その後の時間って大丈夫なのかな? 一応、行けそうな場所の候補はいくつか考えてきたんだけど、まずはここでお茶をしながら、どこに行くか決めない?」


「時間は遅くならなければ大丈夫です。それで、お願いします」


(うん。今日はシライさんエスコートしてくれるなら任せちゃおう。せっかくのデートだし楽しまなきゃ。組織なんて関係無い)


 楽しむ。その一点を強く思う事で、心にのしかかる暗い影を打ち消そうとしていた。

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