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第1話 世界の真実(3)

 コウが居酒屋の外に出ると、店から少し離れた場所でセリがユキナに追いついたらしく、腕を掴みながら、何かを話している所だった。


「あー、すみません。いいですか?」


 少し早歩きで二人に近づくと、コウは声をかけた。

 ユキナはビクッと肩を震わせ、顔を下げてしまう。それをセリが庇うようにコウの前に立ち、


「あなた、誰? ユキナに何かしたの」


 セリの声に、


(僕がいる方が、ややこししいか……)


 コウは顔をポリポリと書きながら、


「いえ、何もしていないとは思うのですが……そうですね、失礼しました。どうぞ、先輩の所へ行ってあげてください。あと、僕は先に帰ると伝えてください」


 と言って、財布から自分の分のお金を出して、セリに握らせた。

 

「え?」


「それじゃ」


 そう言って、足早に立ち去ろうとすると――


「あ、ま、待って…待って……ください」


 ユキナが掠れた声を出す。


「ご、ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい!」


 そして、最後は叫ぶように謝罪の言葉を口にし、思い切り頭を下げた。


「え、ユキナ?」


 ユキナのその動きを見て、セリは慌ててユキナの肩を抱き、どうしたのかと聞いている。コウは、ようやく聞けたその言葉に、強張っていた身体の力を抜き、柔らかい微笑みを浮かべ、ユキナに優しく語りかけた。


「ユキナちゃん、大丈夫だよ。何かあったんじゃないかと心配していたけど……今日は、先輩のお祝いで飲んでいたんだ。えーと……先輩の彼女さんですよね?……」


 セリが頷く。


「折角なんで、もし良ければ店に入らない? あっ、僕がいても平気?」

「……はい。お願いします……ちゃんと、お詫び……しない……と……」


 ユキナの表情は固く、目には涙が浮かんでいたが、なんとか掠れた声でコウに返事をした。


***


「へー、こんな偶然もあるんだ……」

「やっぱり、縁があったのねぇ」


 コウと、ポツリポツリと話すユキナの説明に、ようやくネギ先輩とセリは合点がいったようだ。そして、偶然にも二人をつなぐミッシングリングとなった役割に、酒の力もあってか、お互いがお互いを惚気けるような状況になっていた。


「それじゃ、俺達二人の門出と、すっぽかしたユキナちゃん、すっぽかされたコウの二人の再会を祝して……」

「ばか!」


 調子にのったネギ先輩がセリに殴られるが、笑ってやり過ごす。

 ユキナも一瞬、顔がひきつったが、その様子をみて微笑む。


「先輩! もう甘くてベトベトしてきました」

「ふふ」


 ユキナが笑ってくれた事で、コウもすっかり気を良くして、


「それじゃ! 二人の門出を祝して、万歳斉唱で!」

「いや、それはいいから」

「そうですか? じゃあ、本当におめでとうございます!」



 最後にもう一度乾杯して、その店を出る事になった。

 店を出た後、もう一軒行くという恋人同士は、そのまま寄り添って繁華街に消えていった。


「本当にごめんなさい」

 

 二人が去ったのを見て、ユキナがもう一度、コウに頭を下げる。


「本当にごめんなさい。あの時、急に大学に呼び出されてしまって、教授室で缶詰になって指導を受けていたので……それからバタバタしちゃって……」


(なんで嘘を()くのだろう……)


 オペレーションセンターにユキナが来ていた事は、警備部に事情聴取を受けた事から確定しているとコウは考えていた。


 普段の姿じゃ想像できないけど、うちの警備部、世界でトップレベルらしいし――


 そういった信頼感もあったので、監視システムを持っている警備部が間違う可能性は低い。


 そのため、明らかな嘘とわかる説明にコウは、戸惑ってしまった。だが、その表情からは、悪意をもって誤魔化したり騙そうとしている感じは汲み取れなかった。


(何か、言えない事情があるのかな……)


「もういいよ。本当に気にしていないからさ」


 コウは自分の胸を刺す懸念に蓋をして、ユキナに精一杯の笑顔を見せた。


 一方、ユキナはコウの一言で、一ヶ月前から抜けなかったトゲが突然消えたような気がした。このトゲは警備員に見つかり逮捕される恐れが生んだものではなく、頼りないけど優しい笑顔の青年を裏切ってしまったという思いからだったのかもしれない。そう思った瞬間、ユキナの目から涙が溢れ出てきた。


「ごめんなさい。本当に。連絡するのも、どうして謝ればいいか解らなくて……親切にしてもらったはずなのに……それを裏切るような事を……」


(ああ、ダメだ。この可愛さ、反則すぎる)


 ボロボロと泣きながら謝る姿に、コウは心臓が大きく跳ねるのを自覚する。抱き寄せれば泣きやむのか……そう思い、手を伸ばしかけたが、結局、


「ユキナちゃん、もう一回最初からやり直そうか。甘いもの食べに行こうって誘ってくれたよね。それ、ちゃんとやってみない? ね?」


 コウの言葉に、ユキナはただ頷くだけだった。


***


(ひどい姿をみせちゃった)


 帰宅したユキナは大泣きしてしまった自分のダメさ加減に膝を抱えていた。


 泣けば許してもらえると思っている女……そんな風に思われたんじゃないだろうか…そもそもは自分が悪いだけのはずなのに、コウに慰めてもらい、もう一度、街を案内してもらえるという約束までしてくれた。


(私って、ずうずうしい女なんじゃないだろうか……)


 そして、


「これって、やっぱり、デートなのかな……」


 思わず声に出して呟き、顔を真っ赤にしてベッドの枕に顔を伏せる。


 お酒の影響もあってか、ユキナは自分がコウの勤務するオペレーションセンターとは相容れない組織の一員で、結果的にコウのカードを盗み、オペレーションセンターに侵入したという事実が頭から抜け落ちていた。


 だが、現実はそれを許さない。


 不意に携帯端末からメールの着信を告げる通知音が鳴った。

 そのメールには――


 送信者: (なし)

 件名:(なし)

 本文: 行動せよ


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