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第1話 出会い(1)

(び、美人さんだ)


 パッと目を引くような可憐で清楚な若い女性。黒髪に色白の肌。二重で切れ長の目と通った細い鼻筋。小さめの口。あどけなさを残すような顔つきながら、どこか物憂げで大人びた表情で佇んでいる。


 美人だと印象付けるのは何も顔だけでの話では無い。


 細くて折れそうな腰に、適度な大きさの胸。細身のジーンズから、はっきりと解る足の細さ。身長はやや高めながら、そのバランスの良さからモデルと言ってもいいような、生身(・・)の女性。年は二十歳前後だろうか。


 早朝からの仕事のため、いつもよりもずっと早い時間に家を出て、一駅先にある職場へ出勤しようと地下鉄に乗り込んだコウの心に、同じ車両に乗っていた女性の姿が一瞬にして焼き付いてしまった。


(本当に綺麗な子だ!)


 幸いにも、早朝の地下鉄であり、同じ車両に乗っている人影は無い。その女性は、空いている車内にも関わらず、扉にもたれかかり、窓の外を眺めていた。コウは彼女の存在を強烈に意識しつつ、少し離れた扉に立った。


(この位置からさり気なく観察しなきゃ。生身の若くて綺麗な子なんて、最近は出会えないからな……この目にしっかりと焼き付けて……)


 などと、間違いなく脳内を覗かれたら通報されてしまうような気持ち悪さ満点の事を考えながら、さりげなく……あくまでも、本人としてはさりげなく、女性へ視線を送っていた。


 だが、そんな至福の時間も、あっさりと終わってしまう。無情にもたった一駅という短い区間の通勤経路。もし、今日が休日だったら、あるいは、通常の勤務日であっても、多少の遅刻なら許してもらえるような日だったならば、コウは間違い無く、もう少し先の駅まで彼女と同じ車両に居座り続け、万に一つのチャンスを待ち続けていただろう。しかし、この日は年に一回しか行えないセキュリティ設備のメンテナンス日。その作業の立会担当という現実の前には、諦めざるを得なかったのである。


(こ、声をかけてみるか?)


 残された時間は数十秒。


(無理だな……)


 そんな葛藤を繰り返しているうちに、地下鉄は減速を始め、コウの勤務先がある駅へ進入した。


(うん、次にチャンスがあったら。次に会える事があったら声をかけてみよう!)


 こんなチャンスもう無い事はどこかで理解していたが、声をかけるという度胸が無い以上、そこには蓋をするしかない。後ろ髪を引かれる思いで、彼女から視線を逸らし、もうすぐ止まろうとしている誰もいないプラットホームに意識を向けた。


 だが、運命は、ほんの少しだけコウに味方をした。


「え? あ……」


 何かが落ちる音でコウが振り返ると、女性は地下鉄の進行方向へ転がる白いケースに手を伸ばそうとしていた。どうやら、彼女の持っていた布製のカバンから何かを取り出そうとしたようで、その弾みで落ちてしまったのだろう。


 彼女の手が、もう少しで届くという所で、地下鉄が停止した。これまで進行方向へ向かっていたベクトルが停止した反動で逆向きの力を生み出し、白いケースは伸ばされた手を逃れるように、コウの方へ向かってきたのだ。


 そして、そのケースは、ちょうどコウの足元で止まった。


『第十六区画 電子移行オペレーションセンター前、電子移行オペレーションセンター前』


 無機質なアナウンスが響き、電車のドアが開く。コウは慌てて白いケースを拾い上げ、女性の所まで小走りで移動し、差し出した。


「ど、どうぞ」


 コウの差し出したケースを、女性は気恥ずかしかったのか、目を泳がせながら、うっすらと顔を赤く染めて受け取った。


 若さだけが理由じゃ無いだろうが、色白の肌はまるで陶器のようにきめ細かい。なんだか、近づいただけで良い匂いがしたような気がした。


 コウはほんの一瞬のうちにそこまで考えると、慌てて踵を返し、再び小走りで開いた扉から、地下鉄を降りた。この時間帯は乗降客が少ないため停車時間が短い。


 地下鉄を降り、振り返ってもう一度、女性の姿を目に焼き付けようとしたコウのすぐ前には、


「あ、あの……」


 彼女が立っていた。


「ありがとうございました」


 そして、律儀にもコウに向かってペコリと頭を下げた。咄嗟にお礼を言えなかったことを気にしての事だろう。そして頭を下げたその後ろで地下鉄の扉が閉じた。


「あぁ!」


 その瞬間、コウが声を上げ、頭を抱えてしまった。


「え? え?」


 予想外の反応に女性が驚く。そして、振り返り動き出した地下鉄を見て、曖昧な微笑を浮かべる。


「あ、ああ、大丈夫です。次の電車で……」


 その言葉をコウは頭を掻きながら、


「しばらく来ないんですよ」


 と、優しい口調で遮った。


「えっ?」

「この駅は、オペレーションセンターの専用です。営業がはじまっていないので、

次は……」


 そこでコウは、携帯端末を操作し、


「……四時間後ですね」


 次の電車の到着時間を告げる。


「えー!?」


 女性は驚愕の表情を浮かべ、自分でも携帯端末を操作して状況を理解したのか、がっくりと肩を落とした

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