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第3話 すれ違い(4)

(さすがに遅い……)


 時刻はすでに午後一時を回っていた。待ち合わせ時間を一時間経過しても、ユキナが現れる気配が無い。いい加減、「さり気なく待っている」風の姿勢も疲れた。というか、三十分程前に一回、背中が攣ったので、行儀が悪いけど、だいぶダラけた感じになっている。


 昨日も『楽しみです』とメッセージをくれたユキナだったが、『遅れる』といった連絡も入ってこない。待ち合わせ時間を三十分程過ぎたあたりで一度『今、どちらでしょうか?』といったメッセージを入れてみたが、そのメッセージが既読になる事もなかった。


 不安になって、ネギ先輩にも電話をした。


「出ない」


 しつこく鳴らしてもネギ先輩は忙しいのか、出てはくれなかったので、メッセージで『すっぽかされたかも。心が折れそうです。明後日、ネギ増しラーメンを奢ってください』と送ってみた。それには既読がすぐ付き、『四時間までは、すっぽかされたとは言わない』と心温まるメッセージが返された。


(とりあえず、あと一時間は待ってみるか……)


 さすがにせっかくの休みをこれから三時間もここで過ごすのは寂しいので、あと一時間だけと区切りを付けて、コウは待ってみる事にした。そして、携帯端末で事故のニュース情報や、完全に公私混同ではあるが、オペレーションセンターの業務上、警察消防といった行政との連携を行うために作られたシステムを検索したが、これといった事件、事故の情報も上がっていなかった。


 メッセージシステムの通話機能にも反応が無く、再度送ってみたメッセージにも、既読マークすら付かない。


 あと一時間と区切った時間は、結局ユキナから何の連絡も無いまま、あっさりと経過してしまい、コウは、この時点で、すっぽかされたという事実を受け入れた。

 

『すっぽかされた模様。一縷の望みをかけてユキナちゃんと出会った一般開放エリア(PA)を覗いてみます』

『了解。ネギ増しニンニクトッピングまで、奢ってやる』

『(TOT)』


 最後に涙マークのスタンプを送信し、コウは歩き始めた。

 

 もしかしたら、何か携帯端末のトラブルで連絡が取れず、こっちへ来ることが出来なかったんじゃ無いか――


 その上、何とか自分に会いに来ようと、一般開放エリア(PA)で待っているんじゃないか――


 恋愛経験の少ない男ならではの、自分に都合の良い妄想を重ねた最後の望みを頼りに、コウは自分の職場へ行ってみる事にしたのだ。


***


 コウからの最初の連絡は、バッグの中の振動で把握していた。だが、その僅かな音に誰かが気が付き、ここへ来るんじゃないかという恐怖から、ユキナは内容を確認する事なく携帯端末の電源を切ってしまったのだ。


 あれからユキナは廊下に隠れたまま、三時間近く、身動ぎもせず固まっていた。頭のどこか理解していた。自分は見つかっていない。見つかっているなら、すでに警備の人間がユキナを取り囲んでいるはず。よく考えれば、あれは人の動きを感知して点灯するライトだったに過ぎない。


 どこか冷静な部分も残しつつも、ユキナは壁に身体をぴったりとくっつけたまま、ただひたすら通路を凝視し続けていた。


(私、なんでこんな所にいるんだろう……今日は何しに来たんだろう……シライさんを待たせちゃ……シライさん⁉)


 シライというキーワードで、身動ぎすら出来なかったユキナの身体の呪縛が解けた。ふっと力が抜け、壁にピタリと張り付いていた身体が動くようになったため、その場にへたり込んでしまう。


(そうだ、シライさんと約束を……今、何時?)


 それでも、その姿勢のまま、持っていたバッグの中から慌てて、携帯端末を取り出し、起動をする。そして、時刻を確認して絶望をする。


(もう二時間も過ぎてる……あ……)


 電源が入り、通信が確立された事で未受信だったメッセージが立て続けに入った。


『今どちらですか?』

『何かありましたか? 大丈夫でしょうか?』

『今日どうします?』


『ユキナ、デート中? どう? 安売りは駄目よ』


 コウのメッセージに混じって、セリのメッセージも入っていた。


『通話』

『通話』

『通話』


 通話機能での連絡もあったみたいだ。そして、最後に――


『もしかして、僕の職場に行っていたりしますか? とりあえず、僕は一般開放エリア(PA)に向かいます。もし、そちらにいるなら待っていてください』


(えっ? ここに来るの? えええ! どうしよう、まずい。どう考えてもまずいでしょ!)


 ユキナは、自分がテロリストとしてコウに捕まり、手錠をかけられている姿を想像してしまった。


 一般開放エリア側(PA)から立ち入り可能な場所であるので、みつかっても注意程度であり、そもそも移行オペレーターのコウには逮捕権は無い。ましてや何の爆発物も持っていないユキナがテロリストとして扱われる可能性も低かったのだが、この数時間で心身ともに疲れきってしまったユキナは、自分が所属している組織の事もあって、悲惨な未来像について妄想を膨らませていた。


(は、早く……こ、ここから……逃げないと……)

 

 そして――

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