第2話 動き出す(6)
「へー、優しい男だったのね」
ユキナはセリに学食の中に引きずり込まれ、コーヒーを片手に今朝からの出来事を細かく話す羽目になった。勿論、セキュリティカードの事は隠してあったため、単なる男女の出会いという話になってしまったのだが――
「なんか、運命感じるじゃん」
「そ、そう?」
「ユキナも、そんな気持ちなんじゃない?」
「ま、まさか。そんなんじゃないわよ」
「いい人だな」と感じる事と、恋愛感情には大きな隔たりがある。ユキナにとってコウは、今日はじめてあった「いい人」でしかなく、恋愛に発展するとは、とても思えなかった。
「それに、シライさんも、そんな目で私の事を見ていないって」
「そんな訳無いでしょ。あんたは、これだけのスペックを持っているんだからさ。どんな男も、『そんな目』で、あんたの事を見ているって」
「やめてよ」
思わず、男の視線を気にして学食の中を見回してしまう。幸いにも、まだ昼時には早い時間だったため、人もまばらにしか座っておらず、ユキナに熱い視線を送っている男はいない。
「そんな事を言われたら、変に意識しちゃうでしょ。自意識過剰な気持ち悪い女って思われたら、どうするの」
「少しくらい自意識過剰の方が、彼氏が出来るって」
「そんな事を言って、セリだって」
「私は私で、ボチボチやっているわよ」
「えー、何かいい話でもあったの?」
ユキナのモヤモヤした気持ちも、セリとの会話で少し晴れて来た。
「で、実際の所、シライさんの事、どう思っているのよ」
「どうって、今日会ったばっかりだし、本当に何も考えていないわよ」
「でも、連絡先を教えたんでしょ?」
「それは……その時の流れっていうか、雰囲気っていうか……」
「少なくとも、もう1回連絡を取ってもいいっていう相手だったって事か」
「お仕事なのに、やらかした私の事を助けてくれたし、ちゃんとお礼も言わなきゃって思っただけ」
「へー、お礼にデートでもって、ユキナもやるね!」
「やだ、そんな事、一言も言ってないじゃない!」
ユキナは思わず、大きな声を出してしまい、慌てて辺りを見回す。今度は、学食中からユキナに視線が集まっていた。
「ばか、変なことを言うから……」
「ごめん、ごめん」
セリが両手を合わせてユキナに謝る。
「でも、デートくらいはしてもいいって考えているの?」
「誘われてもいないのに、そんな事、考えるわけないじゃない」
「誘われたら?」
「その時に考えるわよ」
そう言ったユキナの目は少し泳いでいた。その表情にセリは満足したように、
「そっか、そっか。私の可愛いユキナにもようやく春が……」
と、優しく笑った。
「本当にそんなんじゃないから。それよりも、セリも何かあったんでしょ。さっきのボチボチはどういう事?」
「んー、まだ内緒。どうなるか解らないもん」
「えー、私にだけ言わせて、それは無いでしょ」
「ボチボチは、まだボチボチなのよ。もう少しはっきりしたらでいいかな。ごめんね」
真剣な表情のセリに、ユキナはそれ以上、言えなくなってしまった。
「うん、解った。なら、今日は聞かないでおく」
「ありがとー、さすが私のユキナ!」
「もう、人が見てるから、抱きつくのは……」
「こんな可愛いユキナをデートに誘うシライという男! 気になるねー」
「だから、誘われていないって!」
再び、学食中にユキナの声が響いた。
***
その日の夜――
『こんばんわ。シライです。今朝は大丈夫でしたか?』
最初のメッセージは、短いものだった。
いよいよ物語が動き始めます。
続きは明日以降、投稿予定です。




