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花守りの蝶  作者: 花言葉
蝶を辞めたいって本当ですか?
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2

 次の日も、また次の日も、「おはよう」とあいさつに行った。

「花様、あんな男放っておきましょうよ」

 陽太は、花に向かって不満げにそう言う。

「でもね、一応蝶だから」

「花様は、優しいですね」

 才我も褒め称えるが、内心では。

(早く和解しないとめんどうくさいのよね~)

 と思っていたのだ。

「類は、蝶を辞めたいって言ったそうだな」

 才我が顔をしかめてそう言う。

「そうなの、嫌な人よね」

 花は、それでも類の所へ会いに行っていた。

「おはよう」

「あなたもしつこいですね」

 類は、初めて口をきいてくれた。

「悪かったわね」

「……何が目的なのかはわかりませんが、君は、私の事を良い人物だとは思っていないのでしょう?」

「ええ、まあ、そうね」

「上層部が何か言ってきたのですか?」

「ええ、そうよ」

「蝶と言う物は面倒な仕事だ」

 類は、そろばんをはじきながら言った。

「それで、私と話す気になった?」

「はい、あなたも嫌々だと言いながら、私と話して見たかったのでしょう?」

「まあね」

「では、何を話そうかな?」

「類は、商人だもの国の外に出たことがあるのよね?」

「ええ、もちろんですよ」

「それは、どういう所だった?」

 類は花を見つめて、少し考えた。

「一体どこから話せばいいんだろうか……?」

「そうね、私、よくもらう掛け軸に、雲海と言う物が描いてあるのよ、でも、実物を見たことがないの、どんな物だった?」

「あれは、滅多にみられないものですし、この国では、見られませんよ」

「じゃあ、類は、見たことあるの?」

「ええ、もちろんです」

 類は、偉そうに言った。

「いいな~」

 花がうらやましそうな目で見ると。

「雲海と言う物は、本当に雲の海ですよ、白い雲が一面を埋め尽くして、とてもきれいなのです」

 類は、目を輝かせてそう言った。

「何だか、とても楽しかった様ね」

「ええ、商談のついでに、早朝の山登りをしたのですが、私が圧倒されるほどの風景が広がっているとは、夢にも思いませんでした」

 花は、類の様子を見て、ごくりと唾を飲んだ。

「そんなに素敵なの?」

「一生に一度は、見るべきです」

 花は少ししゃがみこみ。

「私は、屋敷から出る事は、出来ないから無理ね」

「蝶である、私が同行すると言うのは、どうですか?」

「でも、それは……」

「私を選んでください」

「あなたは、もしかして、私を利用しているの?」

「ばれましたか、せっかく王に成れるチャンスだったのに」

 類がそう言うと、花は構えた。

「何もしませんよ」

 類は、手を挙げて微笑んでいる。

「そうね、一応訊いておかなければいけないわよね」

 花は、ハーと息を吐き。

「あなたは、どんな王に成りたいの?」

「商業的な街にこの街を改造する王、そして、花様を色々な所へ連れて行って差し上げましょう」

「……色々な所……」

「外国との流通もよくして、花様は、私と世界を飛び回るのです。そうすれば、雲海どころか、世界中を見れます」

「それは、楽しそうね」

 花は、少しばかり不安を抱いた。

(私、海外でやって行けるかしら?)

 花は、根からの箱入り娘だ。急に外など刺激的すぎる。

「私が、王に成ったら、この国は、活気づきますよ」

「あなたにとって、この国の王に成る事は、手ごまの一つなんじゃないの?」

「そう思う所もありますよ、だって自由に使えるお金も増えますし、権力だって手に入りますからね」

 類は、悪びれることなくそう言った。

「類は、本当に商業が好きね」

「そうですね、商業と言うのは、物心ついたときから勉強させられていたので、空気のような物ですからね」

「そう、私が、生まれた時から姫だったように、当たり前の事なのね」

「そうです」

 しばらく、二人であさっての方向を見た後。

「違う人生だったら、どうなっていたんでしょうね」

 類は、気重くそう言う。

「たぶん、その人生は、その人生で満足していたと思う」

「私達は、親にレールを敷かれて、それに従っているだけなのかもしれませんね」

「そうね」

 少し考えたが。

「でも、私、今の人生けっこう好きよ」

「実は、私もです」

 二人で笑い合ったら、ぐっと距離が近づいた気がした。

「私達、今のままでいいみたいね」

「そうですね」

 類は、微笑んでいる。そして、話を変えて来た。

「他にもですね、雪が四メートル以上も積もるところにも行ったのですよ」

「四メートル、どうやって歩くの?」

「外出は、厳禁とされました」

「それは、そうよ」

「寒い所でして、涙が凍るほど冷え切っていました」

「……すごい、私、雪って、パラパラ降るのしか見たことないわ」

「一面雪景色でしたよ」

 類は、それからも、沙漠に行った時の話や、密林などに行った時の話をしてくれたのだった。

「おもしろ~い」

 花が、わくわくした瞳で、食い入って聞いていると。

「花様は、吟遊詩人と言う物をご存知ですか?」

「いいえ」

「その方は、とてもしゃべるのがうまくて、私以上におもしろい話をたくさん知っているんですよ」

「そんな人がいるのね」

 花は、外の世界が見たくてうずうずしだした。

「私も、いつか、外へ出たい」

「私を選んでください、花様」

 優しく、頬に手を掛ける類、その瞳は少し潤んでいて、乞うようだった。

「ななな、騙されないんだから」

 花は、熱くなった頬で、手を振り払った。

「花様、本気だと言っても、選びませんか?」

「ええ、まだ、誰か一人に絞るわけには行きません」

「花様、私は、かごの鳥のあなたが愛おしくなった。私の話を喜んで聞いてくれる、あなたの目は、私の心から離れないでしょう」

「類ったら、冗談が上手ね」

 笑顔でそう言うと、類は、額に手を当て。

「あなたは、いじわるな人ですね」

 そうつぶやいた。

(ええ、本気だったの)

 つい、動揺してしまった。

「花様、あなたは、一つ誤算があったようですね、それは、男と二人きりになった事、私は、蝶だ。あなたの唇を奪う権利を持っている」

「いいえ、誤算じゃないわ、類は、嫌がる女の子にそんなことしないわ」

「!」

 類は、また額に手を当て。

「そうですね、私は、しませんよ」

 少し悩ましげにそう言った。

「私は、孤独な人間なのです。世界中を飛び回ると言う事は、一か所にいられない、友人の一人も出来ません」

 類は、花の様子を見ながら続けた。

「待っているのは、商談の相手のみ、つまり、お金が目当てです。私を心から信頼しているのではなく、お金を信頼しているのが丸わかりです」

 類は、苦しそうだった。

「だから、あなたの様に、私を心から信頼して、話を聞いてくれた方は、初めてなのですよ」

 花は、少し、ポカンとして。

「類って、意外とさみしい人生を送っているのね」

 優しく類を抱き寄せた。

「花様?」

「大丈夫よ、これからは、私が友人だから、あなたを待っているから、もっと、色々な話を聞かせて」

 優しく、頭をなでると、類は、悲しみを追い出すように、顔をしかめた。

「ありがとうございます」

「いいえ」

 類は、花の手を優しく握った。

「花様、明日から、蝶として、護衛をしっかりやりますね」

「本当、やる気になってくれた? そうなると私も助かるわ」

「花様が助かるのなら、何でもします」

「ありがとう」

 窓を開けると、才我が門の前に立っていた。

「今日は、門番なのかしら? 才我――」

 急に後ろから引っ張られた。

「何で、才我を呼ぶんですか、せっかく二人きりなのに」

「類は、蝶と仲良くしなくちゃ」

「できません、花様を奪い合うライバルなのですから」

「類ったら、きっと話をしたら仲良くなれるわ」

「なれません」

 類はそっぽを向いた。

「才我がいいのなら、行けばいいじゃないですか」

「そう、それなら、私、才我の所に行ってくるわ」

 外に出ようとしたところ。

「鈍感なお姫様ですね。本気で私を置いて出て行って、才我と会おうと言っているのですか?」

「うん」

 類に強く手を握られても、何も考えていなかった。

「わかりました。私も行きましょう、才我にあいさつします」

「本当~!」

 花が喜ぶと、類は、ため息をついた。


 ● 〇 ●


 外に出ると、才我は、すぐに花に気が付いた。

「花様!」

「才我、お仕事ご苦労さま」

「い、いえ」

 才我は、体はでかいのだが、心は、ヒヨコ並の様だ。すでに心配している。

「久しいね、我が名は、類だ。よろしく」

 才我に握手を求めると、握り返して来たらしく。

「いたっ!」

 類は、手を引っ込めようとした。

「才我、力を入れ過ぎよ」

「すみません」

「絶対、わざとだろう、これだから、蝶同士は、仲良く何てなれないって言っているんですよ」

 類がそう叫んでいると、才我が。

「何かされませんでしたか?」

 心配そうに訊いてくるので。

「何もないわよ、色々な国の話を聞かせてもらっていたの、類は商人だから、世界中の事を良く知っていて面白かったわ」

「そうですか」

 一応、二人きりだったので、色々あったのだが、言うと余計な心配をされかねないと思い、ニコリと笑った。

 そこに、陽太も現れた。

「中々、戻らないから心配したのですよ」

 陽太が人懐っこくきいてくる。

「大丈夫よ、心配するようなことは何もないわ。類の話が面白くて、つい時間を忘れてしまっていただけですから」

 笑顔でそう言うが、三人の雰囲気が重たい気がする。

「みんな仲良くしてね」

「「「はい」」」

 三人が、目から火花を出しつつ返事した。

(みんな、どうしたのかしら)

 不思議に思って、乙の所へ戻った。


 ● 〇 ●


「乙、男の方達が、女の前で、もめるのはどういう時だと思う?」

 乙は、まあ、と口を押え。

「三人とももめていらっしゃるの?」

「ええ」

「男の方が、女の方の前でもめるのは、その人が好きだから、奪われないようにするためでしょうね」

「ええ! まさか、王の座を争っているのね」

 乙は、ため息をつき。

「やっぱり、鈍感ですわ」

 花を憐れむように見つめた。


 ● 〇 ●


 夕日が陰る中、花は類が帰りに渡してくれた本を手に取った。

(私、本って苦手なのよね……)

 そう思い、ぺらっとめくった本は、主に絵本の様に絵が大半を占めている物だった。

「ステキな絵」

 描かれている雲海も、沙漠も、密林も生き生きとした絵で驚いた。

「誰が描いたのかしら?」

 鈴蘭国では、本は、手描きであったので、写し本はあるが、二冊と同じ物は無いのだ。

「う~ん、名前が書いてない、明日類に聞こうと……あれ、でも、これ、類の字だ。と言う事は、類が描いたの?」

 布団の中で、ロウソクの火を頼りに読んでいた。

(あ~面白かった)

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