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王宮からでると、街は、店であふれていた。
「わ~私、外に出るのって初めてなの」
花は、大喜びでそう言った。
「初めてって、おい」
走って、道の真ん中に出て行こうとしたところ、才我が花の肩をつかんだ。
「危ないから、俺から、離れるなよ」
「はい」
手を握って歩くことになり、少しばかり恥ずかしかった。
(才我の手は、大きいな)
ゴツゴツしている武官の手だった。
「才我、こう言っては難なのだけど、私は、今回は、少し、あなたを利用させてもらったのよね」
「?」
才我は、?マークを飛ばしている。
「城下町、見てみたかったの」
柔らかい笑顔を才我に向けた。才我は、少し赤くなっていた。
「さて、どこから行きましょうか?」
才我を見上げると、才我は、花を見つめて、少しばかり固まった。才我は、背が高いので、見上げる形になってしまう。
「あれは、どうですか?」
才我がそう言って前を指差した。
「あら、いろいろぶら下がっているわ」
そこは、色とりどりの丸い装飾が飾られていた。小さい物から大きい物まで、さまざまであった。
「こういう小さい物は、何に使うのかな?」
チリンチリンとなる丸い鈴を持ってそう言うと、若い女の店員さんが出て来て。
「着物の帯に付けるのが、流行っているんですよ」
そう言って、帯の所に吊るしてくれた。
「どうかしら?」
才我に訊くと、照れたように頬を掻きながら。
「かわいいんじゃないですか」
そう言って、目を逸らした。
「大きい物は、毬に使ったりするんですよ」
若い店員が、七色模様が円形に入った物を持って言った。
「かわいい、ね、才我」
「ああ」
チリンチリンと帯につけた鈴が、動くたびになっている。
「お買い上げですか?」
「この鈴を一つ」
「はい」
銅貨を出す才我を見て。
「そういえば、お金! 持って来るのを忘れちゃった、才我、お金を使わせてしまってごめんなさいね」
花は、悪いと思ってそう言うと。
「謝らなくていい」
そっぽを向かれた。
「あの、でも、武官のお給金は、王族と比べたら少ない物でしょう、後で、父様が払いますから」
「確かに、武官の給料は、王族と比べると少ないが、鈴一つ買ったくらいで、生活苦になる程、安くもない」
「そうなの、それじゃあ、ありがとう」
花は、笑顔でそう言った。
「……」
少し、頬を赤らめている才我に。
(照れ屋なのかしら? ありがとうと言われたのが、うれしかったのかしら?)
少し、イライラしているふりをしようとしているが、照れ隠しなのだとわかると、かわいい物である。
「才我って、かわいいね」
「えっ?」
才我は、不思議そうな顔をしている。才我にしてみれば、才我は、ただの筋力のある大男、かわいいなどと言われると思いもしなかったようだ。
お店から出ると、安い物に見える着物を着た子供達が、キャッキャッと走り、騒いでいる。
「これが、城下町ね」
初めての事にワクワクしていた。
「花様! 手を離さないでください」
「はーい」
才我の手をぎゅっと握った。
「ねえ、才我、あなたは、蝶になって、どう思った?」
「そのですね。身に余る光栄ですかね」
「うれしかったんだ」
「はい」
花は、うれしくなって。
「私の事、花として見ているとは、思うけど、才我は、私の事を好きになれそうだと思える?」
「も、もちろんです」
才我は、口を滑らせてと思い、口を押えた。
「本当?」
「はい」
才我は、赤くなり返事した。
「才我は、女の子ってどう思う」
「弱くてうるさい」
誰の事を言っているのか、思い浮かべていると。
「ああ、母の事ですよ、武官は男ばかりですから、女の子と言うイメージがそもそもないので」
「才我のお母様ってうるさいの?」
「おせっかい焼きですかね」
「才我が心配なのよ」
「そうですか? もう、一人前のつもりでしたが……」
「お母様にしてみれば、大きくなっても子供でしょうから」
才我は、腑に落ちないと顔で言っていた。
「お団子食べませんか」
客引きの人に声をかけられた。
「良いですね」
そう言い、歩いて行くと、途中に団子屋があったので、前で立っていた。
「お客様、中へどうぞ」
中へ入る様に言われたので、中に入った。
「逢引き中ですか?」
女用の白いかっぽう着をつけている、女の人が笑顔でそう言う。
「いいえ」
「はい」
二人で同時に違う答えを言ってしまった。
「まあ?」
店員さんは、笑い。
「照れ屋さんなんですね」
才我の方を見てそう言った。才我は、赤くなっていた。
団子屋の中は、にぎやかで、昼から酒を飲んでいる者もいた。店の中の女達は、その男を避けて通っている。
「才我、私と逢引きだと思われるのは、嫌だった?」
「いいえ」
「じゃあ、なんで、「いいえ」なんて言ったの?」
才我は、赤くなり。
「恥ずかしかったからです。女の方と一緒にいた事が無いので……」
「そう」
才我を見て思わず微笑むと、店内に悲鳴が響いた。
「キャー」
どうやら、酒飲みが女の子のお尻を触ったらしい。
「お嬢ちゃん、いい体しているね」
酒飲みは、女の子の手を握って離れない。
「ちょっと、行ってきます」
才我が立ち上がり、女の子を下がらせて、酒飲みの手を持ち、ボキッと音がするまで、強く握った。
「ぎゃっ」
「酒は、ほどほどにしてくださいね」
才我は、そう言って手を離した。
「ありがとうございます」
女の子は、頭を下げて持ち場へ急いだ。
「才我、あの人大丈夫よね?」
「大丈夫です。みねうちですから」
「でも、ボキッって鳴っていたよね」
「一時的に関節を外しました」
酒飲みは、痛そうに顔をゆがませて団子屋を出て行った。
(一時的?)
才我の強さに驚いていた。
お団子を食べ終わると、足が痛くなってきた。少し、足を引きずって歩いていると、才我は、手を差し伸べて来た。
「抱えてあげましょうか?」
「えっと……」
(お姫様抱っこって事よね?)
花は、心の中で、少し恥ずかしくなったが、足が痛いので、抱えてもらう事にした。
「では」
すっと手を伸ばして、軽々と花を持ち上げた。
「えっと……重くない?」
「軽いですよ」
才我の顔がとても近い、ドキドキしてしまう。
「あ、あの才我」
「何ですか?」
「ありがとう」
「はい」
やさしい笑みを返す才我に、またドキッとした。
才我は、文句の一つも言わずに、花を抱えて歩いていた。
「才我は、何で、武官になったの?」
「力しか取り柄が無いからですかね?」
「才我って、人を殴る時ためらわない?」
「はい」
「私は、才我が、自分のせいでけがする人を見ても完全に平気だとは思えないのよね」
「どうしてですか?」
「優しいから」
才我は、苦笑して。
「初めは、嫌でしたよ、でも、慣れました」
「そう」
才我の手は、人を殺す手、それなのに、今、私の体を支えている手は、とても温かく優しい。
(才我……)
「最初に殺した人の顔は、一生忘れませんね」
才我は、小声でそう言った。
才我だって、平気なふりをしているのかもしれない。
「才我……苦しくなったら、私を頼る気はある?」
「ないです」
「そう」
「ただ、花様とお話が出来たら光栄です」
才我は、顔を少しばかりゆるめた笑みを見せた。
「いいわよ」
才我の顔がほころんでいくのを見ていると、心が安らいで行く。
「才我、蝶に選ばれた人には、訊いているの、もし、あなたが王になったら、どんな国にしたい?」
「そうですね、戦いの無い国にしたいですかね」
「うん、いいわね」
武官である才我が戦いを好まない人間であることを知って、戦いと言う物は、甘くないのだと再認識させられた。
「才我、別邸が見えたわ」
「そうですね」
才我は、少し止まった。
「花様が腕から出ていくのは、さびしいですね」
「才我ったら」
才我は、花を手放した。
「また、近き日に会いましょう」
「はい」
才我と別れ、乙の所へ向かうと、乙は、心配していた。
「花様~」
「何? 乙」
「心配なさっていたんですよ」
乙は、崩れ落ちそうになりながらそう言った。
「才我様に、変な事はされませんでしたか?」
「されていないわよ」
「あなたを王にすると言っていませんね」
「言っていないわよ」
乙にとって、花は信頼に値しないのだと思われているような気がして、つい、不機嫌になってしまった。
「乙! あなた、私の事をもう少し信頼してくれてもいいんじゃないの?」
「花様の事は、信頼なさっていますよ、ただ、間違いがあった時、取り返しがつかなくならないように、確認するのも侍女の仕事なのです」
「そう、それなら仕方ないわね」
乙は、安心した様に息を吐き。
「何にもなくてよかった」
やさしい顔でそう言った。
「奏太様が、外で待っておられますわ」
「本当!」
花は、駆けだして言った。
「奏太~」
「花!」
奏太は、驚いている様だった。花は、自分の恰好を見下ろして、村娘の恰好だったことを思い出した。
「あっ、これは、才我と二人で村に行っていてね……」
「二人で出かけた!」
奏太は、目を見開いた。
「変な事されなかったか、いくら蝶でも、何かしたら許さない」
「奏太ごときで勝てる相手じゃないわ」
「ちっ」
奏太は、つまらなさそうだった。
「蝶制度は、私、大分好きになったわ」
「何で?」
「実際、蝶制度って、恋を実らせるのは、女の子役目でしょう。蝶がどんなに声を掛けて来ても決めるのは、女の子の方ですもの、選んでいる感じがするの」
「そうか」
奏太は、残念そうな顔をしていた。
「俺が、蝶だったら、花を手に入れられるのにな」
頬に手を掛けられた。
「ちょっと、奏太」
バチンと手を叩いた。
「冗談は、その辺にして」
「ああ」
「蝶は、悪い人ばかりでもないわ、陽太も才我もいい人だった」
「絶対、騙されてるって……」
奏太が面白くなさそうに言う。
「奏太は、二人に会ったことないでしょう」
「ああ」
「最後の類って人は、どんな方なのかしら?」
「がっかりするぞ」
「どうしたの? 奏太は、憎まれ口ばかりね」
花は、奏太を不満そうな目で見つめて言った。
「はいはい」
奏太は、立ち上がって去っていった。
「何なのかしら?」
花は、不自然な奏太が気になった。
「乙、奏太は、私に何を言いたいのかしら? 何かを言おうとしているのは分かるのだけど、何なのかしら?」
「それは、奏太様の名誉のため言えません」
「そう」
花は、その事は、あまり気にかけず、明日は、どうするか考えていた。
(陽太は、また来るかしら?)
空を見つめて、二人の事を考える。
(花として、二人を見極めなくてはいけないわ)




