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花守りの蝶  作者: 花言葉
陽太の事情
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2

 花は、気になって、陽太の様子を見に行った。

 陽太は、机に向かって、書類を書いている様だった。顔は笑顔ではなく、普通の顔をしていた。

(あの笑顔だって、陽太は、心の奥では、騙されている私を笑っていたのかもしれないんだから!)

 ふつふつと怒りがわいてくる。

(陽太の奴)

 しかし、帰りの時間まで見張っても何もなかった。

「おい、しょう、酒のみに行こうぜ」

 上司が、長身の部下を誘っている。

「陽太、お前は、飲めないもんな」

「いやですね~、僕は、こんな顔でも一七ですよ、酒くらい飲めるに決まっているじゃないですか」

「陽太ちゃんは、いかさまするからな~、今から、俺達賭け事もするからよ~」

「そうですか」

「いかさまの陽太ちゃん」

 陽太は、手をぐっと握りしめて、堪えている様だった。

「大丈夫ですよ、僕は、行きませんから」

 陽太は、書類を整えて、部屋を出て行った。

(陽太って、いじめられているの?)

 意外だった。案外寂しいと言うのは、本音なのかもしれない。

「花様」

 陽太が後ろから声を掛けて来た。

「ぎゃっ!」

「「ぎゃ!」ってひどいですね~、丸見えだったと言うのに」

「えっ!」

「ごめんなさい、嫌な所見せてしまいましたね」

「陽太、あなたは、うまく行って無いの?」

「ええ、そうでしょうね。一五の時、いかさまをしたのは、本当です。でも、まさか、ここまで言われ続けるなんて思いもしなかったのです」

 陽太は、壁に背を付き話し出した。

「実際、いかさまは、結構な人がやっているのですよ、むしろ、やらない人の方が少ないのかもしれませんね」

「じゃあ、なんで、陽太だけ、言われ続けなければいけないの?」

「身分が低いからですよ」

 陽太は、何でもない事の様に言った。

「所詮、ここは、身分の差が埋まらない王宮です。花様、蝶に選ばれたら、一人じゃなくなると思ったのは、本当です。みんなが仲良くしてくれるんじゃないかって、淡い期待を持っていました」

 花は、崩れそうになる陽太の肩を支えた。

「ありがとうございます。花様」

 陽太は、体制を戻して、話を続けた。

「何も変わりませんでした。いかさまの陽太ちゃん、そう呼ばれるだけです。もう、嫌なんです」

 陽太は涙を流していた。

「陽太、あなたは、苦労していたのね」

「どうですかね? 農民の出でいじめられている子などたくさんいますよ、珍しい事ではありません」

「陽太は、文官になる時、何を夢見たの?」

「誰かを力で救う……かな?」

 陽太は曖昧に笑う。

「陽太って、努力家でしょう、何でも知っているもの」

「書庫が好きなんです。何でも書いてありますから、本は、貴重なものです。農民の家には、ほとんどありませんもの」

 陽太は、優し気な表情でそう言う、本当に本が好きなのだろう。

「陽太の上司は、陽太にものすごく助けられていると思うわ」

「どうでしょう?」

 陽太は、そんな事があるはずないと顔で言っていた。

「はずかしながら、私は、勉強が苦手なの、本を開くと眠くなるわ」

「花様は、姫ですから、勉強なさらなくてもいいのではありませんか?」

「それは、まあ、政治の世界に女の口出しはいらないって教育されているわ」

「それなら、いいじゃないですか」

「でも、私、知らない事があると、人に聞くのだけど、知っている人がいないととても困るのよね」

「僕だって、何でも知っているわけではないのですよ」

「う~ん、でも、初めて会った時、他の二人を知識で言いくるめるのを見て、この人って、すごいって思ったわ」

 花は、前に会った時の事を思い出しながら言った。

「そんなことありませんよ」

 陽太は、照れたように頬を染めた。

「陽太は、立派な人になるわ、それも、あのいじわる上司よりずっと上の位にのし上がるわよ」

 花は、陽太の手を握ってそう言った。

「花様、あなたって、本当に面白い人ですね」

「そうかしら」

「あと、ちゃんと、隠れるつもりがあるのならば、そんな立派な着物を着て来ては、行けませんよ」

「ああ、それで、丸わかりだったのね」

 花は、着物を見下ろして、いつもの着物なのだが、普通の人から言えば、立派過ぎる品だと思った。

「侍女だって、そんな立派な着物着ませんよ」

「そうなの~」

 花は、恥ずかしくなった。頬も少し紅潮していた。

「花様、本当に可愛らしいお方ですね」

 陽太は、ニコニコ笑顔を向けてくる。

「また、ばかにして」

「えっ? ばかにしている?」

「だって、そうやってニコニコしているのは、ばかにしているからなんでしょう? わかっているんだから」

 陽太は、花の両肩を持って。

「あなたが、かわいいから笑っているんですよ」

 目を見てそう言って来た。

(逃げられない)

 花も動揺していた。

「花様は、見ていて飽き無い方の人間ですからね」

 そう言い、手を離した。

(ドキドキしたじゃない)

 花は、頭の中に陽太の優しい顔が焼き付いてしまった。

「陽太……」

「安心してください、僕とあなたは、蝶と花、そして、婚約者だ。ゆっくりしていられる時間がありますから、急ぎませんよ」

 それは、宣戦布告の様だった。

(それは、私が、陽太を選ぶようにするって事?)

 花は、パニックを起こしていた。

「花様、また、遊びに行きますね」

 陽太は、笑顔でそう言った。

「うん」

 花は、自分の部屋に向かい歩き出した。

(陽太の力には、なれたのかしら?)

 花は、心の中でそう思い、部屋を目指した。


 ● 〇 ●


「乙~!」

 すぐに乙を見つけて、飛び付いた。

「私、何だか変かも……」

「何事ですか?」

 乙は、驚いて、花を見た。

「だってね、陽太がね、あんなこと言うんだもの」

 あったことを全部話したところ。

「良く考えてみてください、花様! あなたは、蝶にとって花、捕まえなければいけない相手なのですよ。口説き落としのうまい蝶だって、いらっしゃるかもしれないのですから。騙されては、いけません」

「そうね~」

(口説き落としのうまい蝶ね……)

 少し考えていた。

 ――でも、ウソをついている様には、見えなかった。

 乙を見つめて、そう言おうとしてやめた。

(どうせ、信じてもらえないか)

「陽太様は、元から、腹黒いと言っておいででしたでしょう。きっと、騙しに来ると思っていましたのよ! 花様!」

 花は、空に浮かぶ月を眺めていた。

(陽太の心が、この空の様に晴れますように)

 雲一つない空に浮かぶ半月、まるで、陽太の欠けた心の様で、見ていて、不思議な気持ちになった。

「花様、まだ、話は続いております」

「はいはい、乙ったら」


 その夜は、とてもいい夢を見たような気がした。


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