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部屋に戻ると、才我が待っていた。
「花様」
「才我、やっぱり、あの二人は、忘れているようで、忘れていなかったわ」
「そうだろ、呪いが全てではなかったんだ」
「二人を婚礼の儀に招待したわ。それが、私から、二人にできる最後の事だから」
才我が腕を絡めて来て、花は、才我の腕の中でそう言った。才我のゴツゴツした腕と胸板に安心していた。
「それでも、あの二人より愛しているよ」
耳元で、そうささやかれ、顔が真っ赤になる。
「才我、恥ずかしい」
「花様は、かわいいですね」
頭を優しくなでられる。そこに乙が入って来て。
「お邪魔でしたね」
急いで出って行った。
「乙! あっ……才我、離してもらえる?」
才我の腕がゆるむ。
「花様は、婚礼の儀の準備は終わった?」
「まだよ」
「乙は、準備の手伝いに来たんだよ」
「じゃあ、撒いちゃだめだったんじゃない?」
「ごめんね、離れたくなくて」
才我が、にやりと笑った。
(はずかしいよ~)
花は、心の中でそう思っていた。
しばらくして、乙がもう一度訪ねてきた。辺りを警戒している様だったので、何事だろうと思っていると。
「才我様は、おかえりになった?」
「才我を警戒していたの?」
「ええ、仲睦まじいのは結構ですが、婚礼の儀に間に合わなくなってしまったら行けないですから」
「そうね」
ため息をついた。
「婚礼の儀で着る、お着物ですが、鳳凰、鈴蘭、無地と決まっておいでです」
「それなら、私が意見するところがある?」
「はい、同じ模様でも、似合うかどうかは、着て見ないとわかりませんからね」
「はーい」
そして、着物を試着するため、何着も何着も着せられた。
「めんどうくさい」
着物を着るのは、大変なので、疲れ切ってしまった。
「でも、どれを着るか、決まりました。もう下がっていいですよ」
侍女達を下がらせた。
「乙~、私、もう無理」
「今日は、休みましょうか」
寝間着に着替えて、布団に入った。
● 〇 ●
次の日、婚礼の儀まで、三日となった。
「今日は、手紙を書きましょう」
才我と乙と、一文を添えた招待状を書くことになった。
「俺は、字を書くのは、得意じゃないんだけど、いいのかな?」
才我が困っていた。
「いいのです。直筆かどうかが大事なのですから」
字を間違えると、乙が紙を替えてくれる。
(助かるわ~)
花は、心の中でそう思っていた。
数時間書いてかき上げた。才我も花もへとへとだった。
「肩が痛い」
花は、涙目でそう言う。才我にマッサージしてもらって、一段落した。
「才我は、肩がこらないの?」
「ああ、鍛えていますからね、こりませんよ。陽太と類のも招待状を出しておいたので、安心してください」
「あの二人、来てくれるかしら」
「さあ」
● 〇 ●
婚礼の儀まで二日となった。式の段取りの説明を受けていた。
「ここで、こうして、こうです」
色々、指示されて、パニックを起こしそうになる。
「ああ、それは」
仕切り役の大臣は、辺りの人達の動き一つにも厳しい。
「花様の婚礼は、盛大にして差し上げましょう」
マニュアル版を持ち歩いてそう言っていた。
(いい人なのよ、いい人だけど……)
「花様、今、間違えましたね」
(いい人だけど、厳しい!)
花は、心の中で、泣いていた。才我も困っていた。おぼつかない足取りで儀式の一式を取り行ったのだが、大臣は不満の様で。
「もう一回」
結局、あと三回やらされた。終わったころには、疲れ切っていた。
「そうね、乙、少し体を伸ばしましょう」
乙に体をもんでもらいながら、その日は終わった。
● 〇 ●
婚礼の儀の一日前、ここまで来ると、みんな休みにしてくれた。
「才我様とお過ごしください」
侍女は、そう言って去って行った。
「愛、おいで」
「うん」
才我の腕の中で、優しくされていた。
「才我、私、幸せ者よね」
才我は、ただ頷くだけ。
「才我、私……」
才我が急に頬にキスしてきたのだ。
「えっ!」
「愛は、不安なんだろう、俺が王に成るのが」
「少しね、だって、才我は武官だから、戦の時、上に立つことになるでしょう。先陣を切るか、命を狙わると言う事だもの」
「そうですね、でも、俺が負けると思う?」
「……だって、うまくいかないときだってあるわ」
「そうですね」
才我は、遠くを見つめて。
「それでも、信じて欲しいなんて、わがままですか?」
「……いいえ、私、信じるわ」
才我は、愛おし気に抱きしめてくれた。




