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花守りの蝶  作者: 花言葉
陽太の事情
3/33

1

 次の日、今日から、蝶としての勤務が始まる。

「今日は、陽太さんから文が届いていらっしゃいますわ」

「本当」

 開けてみると。

『今日は、僕があなたの蝶です。迎えに参ります』

「なんだか、恋文みたいだわ」

「まあ、恋文ですって」

 乙は興奮していた。

(迎えに来ると言ったって、男性は、この別邸に、許可が下り無いと立ち入れないはずよね?)

 不思議に思っていると。

「花様、お仕度中でしょうか?」

 陽太の声がした。

「なっ、ここは、男性禁止区ですよ、許可が下りたなんて聞いてないわ」

「蝶は、入ってもいいのですよ」

「えっ……」

 ――蝶は、入ってもいい。

(それって、危ないのでは?)

 陽太の事だ。既成事実の一つぐらいは作りそうだ。

「あっ、昼間、侍女さん達がいるときだけですよ」

「そうよね」

 ほっとした。

「さあ、今日は、何をしましょうか?」

「一緒に遊びましょう」

 花がそう言って取り出したのは、すごろくだった。

「あっ、良いですね」

 陽太は、ニコッと笑っていた。

(すごろくなら、良い雰囲気にならないでしょう)

 花は、心の中でそう思った。

 そう言うわけで、陽太と向かい合って座ることになった。

「では、私から」

「はい、どうぞ」

 サイコロを転がすと、畳の上をコロコロと転がった。壁にぶつかってひっくり返ると、三つの黒い模様が描いてある、三が出た。

「一、二、三」

「僕の番ですね」

 サイコロを転がす。五つの黒い模様が描いてある。五の様だ。

「一、二、三、四、五」

「やるわね」

「これからですよ」

 陽太は、ニコニコしてそう言う。

(その笑顔には、騙されませんから)

 花は、心の中でそう思った。

「次は、花様ですよ」

 陽太は、サイコロを手渡してきた。

「あ、ありがとう」

 陽太は、眩しいくらいの笑顔を影させる事は無く、終始ニコニコしていて、ペースが狂ってしまう。

「陽太……、ニコニコしていて、顔が疲れない?」

「えっと、何で疲れるんですか?」

「だって、私、公の場で笑顔を作っているの、とても大変だから」

「それは、わかります。笑いたくない時に笑うのは、辛い物ですよね。でも、僕は、今、とっても楽しいのですよ。花様とすごろくすることが」

 陽太は、笑顔を浮べているが、少しさびしそうでもあった。

「もしかして、すごろくした事が無い?」

「いいえ、僕に遊んでくれる人は、もういないですから」

(もう? と言うことは、昔はいたのね)

 花は、もういないと言う陽太の言葉に、その人物は、死んでしまったのだと思ってしまっていた。

「僕は、いつも一人ですから」

「陽太……」

 花は、陽太が可愛そうになり、優しく肩に手を置いた。

「陽太、あなたは、蝶になってうれしい?」

「はい」

「それは、王に成れるから?」

「そうですね、それもあります。でも、一番は、もう、一人じゃなくなるかな? と思ったからかもしれません」

「さびしいから?」

「はい」

 陽太は、花の手を握った。

「花様だけでも、僕を信じて友達になってくれませんか?」

「いいわよ」

 花は、優しく陽太の手を握り返した。

「友情の握手よ」

「うれしいです」

 陽太の輝くような笑顔に心が安らいだ。

(なんだ、いい子じゃない)

 その後は、すごろくを楽しみ、とても仲良くなった。

「陽太、寂しい時は、また来てね」

「はい」

 陽太は、ふんわりと笑い外へ出て行った。

(蝶は、いい人ばかりなのかもしれないわね)

 花は、心の中でそう思った。


 ● 〇 ●


 乙が入って来たので、すごろくを片付けた。

「すごろくですか、いいですね」

「蝶の一人とやっていたの」

「陽太さんですね、どんな方でしたか?」

「とても、寂しい人みたいだったわ」

 乙は、笑い出して。

「花様、あなたはだまされていますわ、陽太様は、実は、賭け事でいかさまをして、皆に嫌われたそうですよ」

「えっ!」

(確かにそれなら、遊んでくる人は、もういないわ)

 騙された。

 花は、そう思った。

「陽太様は、野心家でらっしゃいます。王の座が欲しいのかもしれませんね」

(あんなにさびしいと言っていたのに……)

 陽太は、うそつきなのだろう。


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