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次の日、今日から、蝶としての勤務が始まる。
「今日は、陽太さんから文が届いていらっしゃいますわ」
「本当」
開けてみると。
『今日は、僕があなたの蝶です。迎えに参ります』
「なんだか、恋文みたいだわ」
「まあ、恋文ですって」
乙は興奮していた。
(迎えに来ると言ったって、男性は、この別邸に、許可が下り無いと立ち入れないはずよね?)
不思議に思っていると。
「花様、お仕度中でしょうか?」
陽太の声がした。
「なっ、ここは、男性禁止区ですよ、許可が下りたなんて聞いてないわ」
「蝶は、入ってもいいのですよ」
「えっ……」
――蝶は、入ってもいい。
(それって、危ないのでは?)
陽太の事だ。既成事実の一つぐらいは作りそうだ。
「あっ、昼間、侍女さん達がいるときだけですよ」
「そうよね」
ほっとした。
「さあ、今日は、何をしましょうか?」
「一緒に遊びましょう」
花がそう言って取り出したのは、すごろくだった。
「あっ、良いですね」
陽太は、ニコッと笑っていた。
(すごろくなら、良い雰囲気にならないでしょう)
花は、心の中でそう思った。
そう言うわけで、陽太と向かい合って座ることになった。
「では、私から」
「はい、どうぞ」
サイコロを転がすと、畳の上をコロコロと転がった。壁にぶつかってひっくり返ると、三つの黒い模様が描いてある、三が出た。
「一、二、三」
「僕の番ですね」
サイコロを転がす。五つの黒い模様が描いてある。五の様だ。
「一、二、三、四、五」
「やるわね」
「これからですよ」
陽太は、ニコニコしてそう言う。
(その笑顔には、騙されませんから)
花は、心の中でそう思った。
「次は、花様ですよ」
陽太は、サイコロを手渡してきた。
「あ、ありがとう」
陽太は、眩しいくらいの笑顔を影させる事は無く、終始ニコニコしていて、ペースが狂ってしまう。
「陽太……、ニコニコしていて、顔が疲れない?」
「えっと、何で疲れるんですか?」
「だって、私、公の場で笑顔を作っているの、とても大変だから」
「それは、わかります。笑いたくない時に笑うのは、辛い物ですよね。でも、僕は、今、とっても楽しいのですよ。花様とすごろくすることが」
陽太は、笑顔を浮べているが、少しさびしそうでもあった。
「もしかして、すごろくした事が無い?」
「いいえ、僕に遊んでくれる人は、もういないですから」
(もう? と言うことは、昔はいたのね)
花は、もういないと言う陽太の言葉に、その人物は、死んでしまったのだと思ってしまっていた。
「僕は、いつも一人ですから」
「陽太……」
花は、陽太が可愛そうになり、優しく肩に手を置いた。
「陽太、あなたは、蝶になってうれしい?」
「はい」
「それは、王に成れるから?」
「そうですね、それもあります。でも、一番は、もう、一人じゃなくなるかな? と思ったからかもしれません」
「さびしいから?」
「はい」
陽太は、花の手を握った。
「花様だけでも、僕を信じて友達になってくれませんか?」
「いいわよ」
花は、優しく陽太の手を握り返した。
「友情の握手よ」
「うれしいです」
陽太の輝くような笑顔に心が安らいだ。
(なんだ、いい子じゃない)
その後は、すごろくを楽しみ、とても仲良くなった。
「陽太、寂しい時は、また来てね」
「はい」
陽太は、ふんわりと笑い外へ出て行った。
(蝶は、いい人ばかりなのかもしれないわね)
花は、心の中でそう思った。
● 〇 ●
乙が入って来たので、すごろくを片付けた。
「すごろくですか、いいですね」
「蝶の一人とやっていたの」
「陽太さんですね、どんな方でしたか?」
「とても、寂しい人みたいだったわ」
乙は、笑い出して。
「花様、あなたはだまされていますわ、陽太様は、実は、賭け事でいかさまをして、皆に嫌われたそうですよ」
「えっ!」
(確かにそれなら、遊んでくる人は、もういないわ)
騙された。
花は、そう思った。
「陽太様は、野心家でらっしゃいます。王の座が欲しいのかもしれませんね」
(あんなにさびしいと言っていたのに……)
陽太は、うそつきなのだろう。




