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「花様」
花は、侍女達に辺りを囲まれていた。飲み物から、扇子などを渡されて、顔を隠して座っていた。
「花様の将来がかかった決闘です。さぞや、ひやひやなさっているのでしょう」
「そうね」
(そういえば、私の婿が決まるのよね)
刀助などと結婚したくないのだった。
(才我がんばって)
花は、心の中で祈った。
「花様、ごめんなさい」
陽太が落ち込んでそう言う。
「侵入に失敗したの?」
「はい」
「でも、陽太が殺されなくてよかったわ」
笑顔で言うと。
「何で、みんなそんなに優しいのですか? 仮にも僕は、失敗したのです。もっと叱ってもいいのですよ」
「叱るなんて、しないわよ、陽太は悪くないもの」
「……花様」
陽太は、感極まって泣き出した。
「ごめんなさい、失敗して、でも、本当に許してくれるのなら、次こそがんばります」
「そう」
陽太の頭をなでた。
類が近くに寄って来て。
「もうすぐ、始まりますよ」
「ええ」
余裕がある様に返事をした。
「東、水無月才我 西、亀壺貴士」
闘技場の中央に才我と貴士が並ぶ、二人とも大男だが、貴士は、品が無いのだ。才我は見るからに品が良い。
「いいとこの坊ちゃんかい?」
「いいえ、立派な武官ですよ」
槍を構えて、そう言う才我、貴士は長剣をかまえた。
ガキンと音がして、槍と剣がぶつかり合った。力で押す貴士、しかし、槍に重い攻撃をしても、受け流されているようだ。
ガキンガキンと剣と槍の弾き合いが続く。
「類、状況は?」
「才我は、わざと剣を受けて隙を狙ってそうですね」
双眼鏡をのぞきながらそう言う。
ガキンガキンと音が良く響く。
(才我、がんばって)
花は、心の中で祈った。その瞬間。
「最初に攻撃が入ったのは、才我だ。腕を切りつけたぞ」
「!」
「よかった」
「花様、才我は、勝ちますよ」
類がそう言った。
だんだん貴士の動きが鈍ってくる。
「どうした? どうした?」
解説の人が戸惑っている。
「類、今、光っている物が見えた。花様が狙われているようですよ」
陽太がそう言って花の前に立つ。
「見えないわ」
「今、あなたが殺されるわけには、いかないのです」
陽太は、そう言って苦笑いした。
才我は、貴士に耳元で。
「西側の客席に毒矢を構えた男がいる。姫を殺されたくなかったら、負けを認め立ち去るのだ」
そうささやかれた、西側の席を見ると、矢を構えた男が二人いた。
(花様!)
才我は、少し悩んだ。しばらく、剣を受け流していた。
「花様、今は、隠れてください」
「いや、才我の戦いを見たいわ」
チリンチリンと、花は、才我と初めて一緒に出かけた日に買った鈴をつけていたので、動くと鳴る事に気が付いた。
(才我は、この音を聞き取れる)
花は、その事に、気がついたので、わざと、チリンチリンと音をさせて、客席を移動した。
(花様が、移動している)
才我は、花達が毒矢に気付いたとわかった。
「ここから本気で行きますよ」
「はっ?」
貴士は、不思議そうな顔をしていた。
才我は、思いっきり、槍を貴士の腹に突き当てた。しかし、鎧を付けているので、打撃で驚かせることしかできなかった。
「なっ! 毒矢を打て」
貴士がそう言うと、空の玉座が目に入った。
「何?」
「才我~、がんばって、負けちゃだめよ~」
花が、客席の真ん中からそう言う。
「あっちだ! 打て!」
毒矢隊が矢を放つと、陽太と類が弾き飛ばした。
「愛した人にけがなどさせない」
「そうです。僕も花様を愛しています」
二人の告白に、つい、ぽけっとしてしまったが、才我は貴士を槍の柄で気絶させていた。戦いは、終わった。
「やった~! 才我の勝ちだわ」
会場は、大盛り上がりだった。
● 〇 ●
休憩室の才我の元へ向かった。
「才我~」
花は、思いっきり抱き着いた。
「花様」
才我は、優しく抱き返してくる。
「ああ~どうする? ラブラブしてるよ」
陽太が嫌そうにそう言う。
「まあ、決闘で勝って何もないのも変ですよ、決闘で多いのは、姫が祝福のキスをすると言う風習ですかね」
類がメガネを直しながらそう言う。
● 〇 ●
陽太と類と才我と部屋に戻ると。
「花様、私は、あなたを愛しています」
「僕も、愛している」
「あの、あの……」
花が戸惑っていると。
「いいんですよ。私達は、とっくにわかっていますから、花様は、才我がお好きなのでしょう」
「……ええ」
花は、頷いた。
「そうか」
陽太は、物憂げにそう言った。
「才我は、ずるいですよね。あんなに恰好よく決闘に勝たれたら、女の子は、好きにならざる終えないですよね」
類が、涙をためてそう言った。
「類?」
初めて、類が悲しみを露にしたのを見て、類も普通の人なのだと改めて思った。
「大丈夫、二人は、新しく歩いて行けるよ」
(だって、忘れちゃうから)
花は、心の中でそう思った。
最後に、蝶として、花を守る宴が開かれる。
「お父様、私は、婿様を選びました」
「そうか、三人のうち、だれにした?」
「水無月才我にします」
「そうか、そうか、私の言った事を覚えているね?」
「はい、真名を明かす相手に選ばれなかった蝶の記憶から、私がいなくなると言う事ですよね?」
「そうだ。なぜ、そんな制度なのかと言うと、蝶の状態では、二人は、花を愛したままになる。それでは、二人の未来が心配だろう? だから、消すんだ」
「そうですか」
(少し、忘れて欲しくないなんて、欲張りかしら?)
花は、心の中でそう思った。




