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そして、決闘の始まる日になった。闘技場の周りには、屋台が出て、にぎやかな雰囲気になっていた。
「闘技場って初めて来るわ」
中央には、長方形に広く戦う場所を設けて、辺りの客席は畳が敷いてある。段々になっている観客席の一番前に花の席がある。
(負けないで才我)
花は、心の中でそう願った。
● 〇 ●
その頃、陽太は、侍女のお姉さん方に着物を着せられていた。
「まあ、似合うわ~」
「いえいえ」
(だから、嫌だったんだよ。でも、花様のためだし、がんばるぞ)
陽太は、給仕の女の人に混じった。
敵国の領地に侵入すると、刀助は、大柄の大男を側に置いて、命令するように、何かを言っている様だった。
「今回の決闘は、君に掛かっているんだ。負けたらどうなるかわかっているね」
大男に刀助がそう話しかけた。
(あいつが才我の対戦相手か)
お茶を運びながらそう思っていた。陽太は、女らしい足取りで、しずしずと歩いていた。
敵国のガードも頑丈で、給仕もよく知られた者だけが、刀助と大男の所に物を運んで行けるようになっていた。
(僕じゃ、あそこに近づけない)
そう思っていると。
「何? あんた新入り?」
一人の女に声を掛けられた。
「は、はい」
その場任せに返事した。
「新人は、ここに来ちゃだめって言われなかった?」
怒っている様だった。長い黒髪の美少女に案内されて、新人達用の給仕の部屋に連れて行かれた。
(どうしよう)
部屋は、狭く、すぐばれてしまいそうだと思った。
「はい、ここで新人は、研修してください」
黒髪美少女に連れて行かれた先で、二人の女の子がおずおずと近づいて来た。
「あなたも新入りなの?」
「ええ」
女らしくそう言うと。
「まだ、私達は、仕事をもらえないのよね」
憂鬱そうに二人は言った。
(仕事をもらえないのなら、どうやって、あの大男にしびれ薬を盛ろう?)
少し考えていた。
「私達、この決闘で人数が足りないから呼ばれたのよ。食器洗いを任されるから、手が荒れちゃうよね」
「そうね」
(食器洗い、食器に薬を塗るとか?)
陽太は考えていた。
(でも、毒味されたら一発でわかられそう)
こう言う、他国との決闘の場で毒味をしない奴は異常だと思う。
「ところで、新入り名前は?」
「陽子って言うの」
「陽子ちゃんね、よろしく」
「よろしく」
陽太は、ニコニコして言った。
● 〇 ●
しばらくして、仕事が入った。
「さあ、着替えて行きましょう」
「き、着替え~?」
陽太は焦った。女物の着物を自分で着れない上に、詰め込んだ布がばれたら、男とばれてしまう。
(どうしよう……)
冷や汗が流れる。
「どうしたの?」
「あの、私は、後で着がえて――」
「そんな、呑気な事言っていられないわよ、私達は、新入り、こき使われても文句は言えないのよ」
目の前で、女の子が着物を脱ごうとしている。
(……やばいな)
「さあ、陽子も着替えて」
そう言って、脱がされた。
「……陽子って……男なの? 胸もないし、腕もなんか女らしくない」
「えっと、そんなことないわ」
「じゃあ、上の襦袢脱げる?」
「……」
「男よ、男が侵入したわ~」
大騒ぎになってしまっていた。
(ちっ、こうなったら)
陽太は、泣くふりをして。
「私は、ただの観光客なのよ。女の着物を着るのが好きなのよ。それなのに、間違えて、ここに連れてこられて、どうしたらいいかわからなくなっていたのよ」
「……」
「オカマさんだったんだ」
オネエ言葉で言ったのが良かったのか、服を直して、普通に外に出された。
「ごめんなさいね」
「いいえ」
ひくつく顔を何とか抑えて、敵の本拠地から出た。
(は~、失敗した)
才我の所に戻るのが、憂鬱だった。
(何て、報告したらいいんだ)




