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花守りの蝶  作者: 花言葉
決闘の約束
20/33

4

 数時間後、書道の練習が終わった。着物を着替えて、蝶の元へ向かう。

「三人共、お待たせ」

 三人は、あれこれ言い合っていた。

「三人共~!」

 大声を出すと、振り向き。

「花様ではないですか」

 類が嬉しそうに返事した。

「今、何しているの?」

「ああ、才我の槍に、しびれ薬を塗ろうかと思ったのですが、才我は、うまく服以外の所を切れるか? と言ってくるんです」

「だって、そうだろ、相手は、盾も鎧も装備しているんだぞ」

「……なるほど」

 類は、才我の意見に、また首を傾げた。

「問題だらけだ。いっそ、出場者に薬を盛るか」

「類、それは、難しいよ」

「陽太、お前、女装しろ」

「へっ?」

 陽太は、何が起こったのか飲み込めないようだった。

「陽太の顔は、女と間違えるほど中性的だ。体格も華奢で、女の人だと言っても通用するだろう」

「でも、どこかの侍女にでも、侵入してもらえばいいじゃないですか?」

「そうはいかない、だって、私は、陽太と才我しか信じていないからだ」

「!」

 類の言葉も最もだと思った。急に雇った人物が、裏切ったりする可能性は、ないとは言えないからだ。

「どうする?」

「やります」

 陽太も、渋々頷いた。

「陽太に似合う着物、用意するね」

「はい」

 陽太は、少し嫌そうだった。でも、大人しく、花についてくる。

「陽太、絶対かわいくするから、大丈夫だから」

「はい」

 陽太は泣きそうだった。

(何か、悪い事を言ったのかしら?)

 陽太は、侍女達に。

「こっちの方が似合うんじゃない?」

「こっちの方がいいわよ」

 と取り合いにされていた。陽太は、うんざりした様子で、楽しそうにしている侍女達を見ていた。

「陽太」

 花が話しかけると。

「大丈夫ですよ」

 いつも通りの笑顔だった。それは、覚悟したような真っ直ぐな笑み。

「本当、この子かわいい」

 侍女達は、陽太をとても気に入ったらしい。

 紫の藤が書いてある着物を着せられ、胸には、布を摘めているのか、女らしい体型にされていた。

「似合う」

「かわいい」

 侍女達は、大喜びだった。ただ一人、陽太を除いて。

「陽太?」

「似合います? 花様?」

「うん」

「僕は、見た目が、女の子みたいですから、かっこよく花様を守ることは、出来ないのでしょうね」

「そんなことないよ、女の人しか入れないような所でも、守れるじゃない」

「そうですね、仮にも男ですから、力がありますものね」

 陽太は、少し自信を取り戻してそう言う。

「陽太は、かわいい所も良い所だよ」

「……はい」

 陽太は、複雑そうな顔をしている。

(やっぱり、何か気に障った?)

 侍女達が集まっていたので、話を聞いてみると。

「あの、なぜか、かわいい男の子にかわいいて言ったら拗ねられたのだけど?」

「それは、男なら、かっこいいって言われた方がうれしいからじゃないかしら?」

「そうなの?」

「だって、もし、好きな子にも、かわいいなんて言われたら、いくら自分がかわいい顔だってわかっていても悲しいじゃないの」

(でも、かっこいいなんて、言えないよ)

 陽太が、かわいすぎて、お世辞でもかっこいいとは、言えないのだ。

(絶対、場違いな感想の気がする)

 花は、心の中でそう思っていた。

「花様」

 陽太に肩を触られた。

「何?」

「いつか、かっこいいって言わせてみせます」

「う、うん」

(やっぱり、気にしていたんだ)

 花は、悪いと思って、陽太を見つめた。


 ● 〇 ●


 陽太の着物も決まり、また話し合いに戻った。

「女装は、完璧だったか?」

「ええ、最高にかわいかったわ」

「そうか」

 類は、陽太を憐れんだような目で見た後。

「後は、才我に賭けようと思う、しびれ薬も必ず成功する策じゃない、だとしたら、真剣勝負で勝つのが一番だろう」

「そうね、でも、才我に何かされたらどうする?」

「どうにかする、才我を信じてやれ」

「う、うん」

「心配ですか? それなら稽古場へ行って、腕を見せてあげてください」

 類がそう言って、才我と稽古場に行くように言った。

(才我って、そんなに強いの?)

 今まで、才我の優しい所しか見ていなかったので、すごく強いとは聞いていたが、想像できなかったのだ。

「花様、一応、あれでも、武官の鬼ですから」

 類がそう言って、手を引く、稽古場は物騒だった。

「花様の様な方が来るところでは、ありませんからね」

 類は、辺りを警戒している。

 武術を訓練するところに出ると、的や、武具があり、武装した才我がいた。鎧を着て槍を握っている。

「才我のあれは、槍よね?」

「才我は、距離を取れる槍を選んだそうです。長剣だと隙が大きく、会場から狙われたら逃げられませんからね」

 類は、メガネを直してそう言った。

「才我って速いのね、みえない」

「そうでしょう、速いですよね~」

 才我は、飛んでくる的をすべて、一瞬で割ってしまった。

「さすが」

「すごいわ」

 拍手していると、陽太が。

「ああいう、立場が良かったよ」

 とつぶやいていた。

「陽太、そう言うのなら、君もやってみるかい?」

「いいや、いいよ、僕がわらいものになるだけだものね」

 陽太は、類の言葉に冷や汗を流しつつ、笑顔で答えた。

「才我は、長剣も使うの?」

「はい、一応」

 そう言い、近くにあった長剣を握って。

「こう振ると、こう、脇に隙が出来ます」

「本当だ」

 隙が出来る位置が思っていたよりも広くて驚いた。

「これだから、相手から、弓や吹き矢で狙い放題になっちゃうわけ、槍は、軽いからかわせるでしょう」

 類が、指で線を書きながら言った。

「ふ~ん」

「長剣も一対一なら強いのですよ、本物の一対一なら」

「そうなんだ」

 花は、戦術の決め方を知らないので、新しい事に興奮していた。

「じゃあ、弓、弓は?」

「弓はね~」

 類が説明するのを楽しくきいていた。

「なるほど、すごい」

「あまり、花様に武術の事など教えないように、これは、汚れ仕事だ。花様の耳が汚れるぞ」

 才我は、悲しげにそう言った。

(汚れ仕事?)

「まあ、そうだね」

 類も話すのをやめた。才我の悲しげな目に、なぜか吸い込まれそうになった。

(汚れ仕事と言われているのが悲しい顔じゃなかった)

 なんだか、自分のすべてを否定するかのようなすさんだ目。

(あんな目させたくない)

 心臓が高鳴った。才我を救ってあげたい。

 類や、陽太は、自分の事が好きそうだが、才我は自分の事をあまり良く思っていない。自信もないのか、余り話しかけてこない。

(才我が、心から笑ったら、ステキなのにな~)

 才我をジーと見つめていた。

「花様」

 類に声を掛けられて、我に返った。

「何?」

「そろそろ、戻りましょう、稽古場は、夜女人禁止ですから」

「うん」

 渋々頷いて屋敷に戻った。

 乙は、もう下がっていて、布団だけが敷いてあった。

「ふあ~寝ましょう」


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