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数時間後、書道の練習が終わった。着物を着替えて、蝶の元へ向かう。
「三人共、お待たせ」
三人は、あれこれ言い合っていた。
「三人共~!」
大声を出すと、振り向き。
「花様ではないですか」
類が嬉しそうに返事した。
「今、何しているの?」
「ああ、才我の槍に、しびれ薬を塗ろうかと思ったのですが、才我は、うまく服以外の所を切れるか? と言ってくるんです」
「だって、そうだろ、相手は、盾も鎧も装備しているんだぞ」
「……なるほど」
類は、才我の意見に、また首を傾げた。
「問題だらけだ。いっそ、出場者に薬を盛るか」
「類、それは、難しいよ」
「陽太、お前、女装しろ」
「へっ?」
陽太は、何が起こったのか飲み込めないようだった。
「陽太の顔は、女と間違えるほど中性的だ。体格も華奢で、女の人だと言っても通用するだろう」
「でも、どこかの侍女にでも、侵入してもらえばいいじゃないですか?」
「そうはいかない、だって、私は、陽太と才我しか信じていないからだ」
「!」
類の言葉も最もだと思った。急に雇った人物が、裏切ったりする可能性は、ないとは言えないからだ。
「どうする?」
「やります」
陽太も、渋々頷いた。
「陽太に似合う着物、用意するね」
「はい」
陽太は、少し嫌そうだった。でも、大人しく、花についてくる。
「陽太、絶対かわいくするから、大丈夫だから」
「はい」
陽太は泣きそうだった。
(何か、悪い事を言ったのかしら?)
陽太は、侍女達に。
「こっちの方が似合うんじゃない?」
「こっちの方がいいわよ」
と取り合いにされていた。陽太は、うんざりした様子で、楽しそうにしている侍女達を見ていた。
「陽太」
花が話しかけると。
「大丈夫ですよ」
いつも通りの笑顔だった。それは、覚悟したような真っ直ぐな笑み。
「本当、この子かわいい」
侍女達は、陽太をとても気に入ったらしい。
紫の藤が書いてある着物を着せられ、胸には、布を摘めているのか、女らしい体型にされていた。
「似合う」
「かわいい」
侍女達は、大喜びだった。ただ一人、陽太を除いて。
「陽太?」
「似合います? 花様?」
「うん」
「僕は、見た目が、女の子みたいですから、かっこよく花様を守ることは、出来ないのでしょうね」
「そんなことないよ、女の人しか入れないような所でも、守れるじゃない」
「そうですね、仮にも男ですから、力がありますものね」
陽太は、少し自信を取り戻してそう言う。
「陽太は、かわいい所も良い所だよ」
「……はい」
陽太は、複雑そうな顔をしている。
(やっぱり、何か気に障った?)
侍女達が集まっていたので、話を聞いてみると。
「あの、なぜか、かわいい男の子にかわいいて言ったら拗ねられたのだけど?」
「それは、男なら、かっこいいって言われた方がうれしいからじゃないかしら?」
「そうなの?」
「だって、もし、好きな子にも、かわいいなんて言われたら、いくら自分がかわいい顔だってわかっていても悲しいじゃないの」
(でも、かっこいいなんて、言えないよ)
陽太が、かわいすぎて、お世辞でもかっこいいとは、言えないのだ。
(絶対、場違いな感想の気がする)
花は、心の中でそう思っていた。
「花様」
陽太に肩を触られた。
「何?」
「いつか、かっこいいって言わせてみせます」
「う、うん」
(やっぱり、気にしていたんだ)
花は、悪いと思って、陽太を見つめた。
● 〇 ●
陽太の着物も決まり、また話し合いに戻った。
「女装は、完璧だったか?」
「ええ、最高にかわいかったわ」
「そうか」
類は、陽太を憐れんだような目で見た後。
「後は、才我に賭けようと思う、しびれ薬も必ず成功する策じゃない、だとしたら、真剣勝負で勝つのが一番だろう」
「そうね、でも、才我に何かされたらどうする?」
「どうにかする、才我を信じてやれ」
「う、うん」
「心配ですか? それなら稽古場へ行って、腕を見せてあげてください」
類がそう言って、才我と稽古場に行くように言った。
(才我って、そんなに強いの?)
今まで、才我の優しい所しか見ていなかったので、すごく強いとは聞いていたが、想像できなかったのだ。
「花様、一応、あれでも、武官の鬼ですから」
類がそう言って、手を引く、稽古場は物騒だった。
「花様の様な方が来るところでは、ありませんからね」
類は、辺りを警戒している。
武術を訓練するところに出ると、的や、武具があり、武装した才我がいた。鎧を着て槍を握っている。
「才我のあれは、槍よね?」
「才我は、距離を取れる槍を選んだそうです。長剣だと隙が大きく、会場から狙われたら逃げられませんからね」
類は、メガネを直してそう言った。
「才我って速いのね、みえない」
「そうでしょう、速いですよね~」
才我は、飛んでくる的をすべて、一瞬で割ってしまった。
「さすが」
「すごいわ」
拍手していると、陽太が。
「ああいう、立場が良かったよ」
とつぶやいていた。
「陽太、そう言うのなら、君もやってみるかい?」
「いいや、いいよ、僕がわらいものになるだけだものね」
陽太は、類の言葉に冷や汗を流しつつ、笑顔で答えた。
「才我は、長剣も使うの?」
「はい、一応」
そう言い、近くにあった長剣を握って。
「こう振ると、こう、脇に隙が出来ます」
「本当だ」
隙が出来る位置が思っていたよりも広くて驚いた。
「これだから、相手から、弓や吹き矢で狙い放題になっちゃうわけ、槍は、軽いからかわせるでしょう」
類が、指で線を書きながら言った。
「ふ~ん」
「長剣も一対一なら強いのですよ、本物の一対一なら」
「そうなんだ」
花は、戦術の決め方を知らないので、新しい事に興奮していた。
「じゃあ、弓、弓は?」
「弓はね~」
類が説明するのを楽しくきいていた。
「なるほど、すごい」
「あまり、花様に武術の事など教えないように、これは、汚れ仕事だ。花様の耳が汚れるぞ」
才我は、悲しげにそう言った。
(汚れ仕事?)
「まあ、そうだね」
類も話すのをやめた。才我の悲しげな目に、なぜか吸い込まれそうになった。
(汚れ仕事と言われているのが悲しい顔じゃなかった)
なんだか、自分のすべてを否定するかのようなすさんだ目。
(あんな目させたくない)
心臓が高鳴った。才我を救ってあげたい。
類や、陽太は、自分の事が好きそうだが、才我は自分の事をあまり良く思っていない。自信もないのか、余り話しかけてこない。
(才我が、心から笑ったら、ステキなのにな~)
才我をジーと見つめていた。
「花様」
類に声を掛けられて、我に返った。
「何?」
「そろそろ、戻りましょう、稽古場は、夜女人禁止ですから」
「うん」
渋々頷いて屋敷に戻った。
乙は、もう下がっていて、布団だけが敷いてあった。
「ふあ~寝ましょう」




