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次の日になると、花は、叩き起こされた。
「蝶の方々に会うのですから、きれいな身なりにしましょう」
髪をとかされて、重い着物を着せられる。
「蝶が、会いに来るのですか?」
「いいえ、主の間で待っているそうですわ、気に入られるように、美しくしてから行ってください」
乙に花模様の着物を着せられて、急いで歩いて行く。
「お待たせしました」
乙がそう言って、花を台座に座らせる。
花は、辺りを見渡して。
(一番左が木崎陽太かしら? なんだか、幼さが抜けきらない感じね。真ん中は、水無月才我ね、少し怖そうだわ。右が、唄野類ね、確かにメガネをかけているけど、いい人そうね)
一通りの印象を思い浮かべた。
(この中から、婿様を決めるのね)
気に入らないわけでもないが、不安になる。
「一人、一人、自己紹介を頼むわ」
「はい、僕は、木崎陽太です。特に、取り柄なんてないですが、女の子を傷つけたりしませんよ」
「水無月才我、強くなるのが目標の人間だ。基本それ以外に興味はない」
「唄野類です。商人なので、旅をするのが好きです。よろしく」
「皆さんは、蝶に選ばれたのですから、私とは相性がいいのでしょう。きっと仲良く出来ると思います」
花は、笑顔を作りそう言った。
すると、唄野類が、台座の近くに来て。
「花様、もう、私と結婚しちゃいましょう。どうせ、この三人の中から決まるのです。迷うだけ無駄ですよ」
「あっ、あの~」
「いや?」
「……」
花は、類の反応に困ってしまった。
「さっさと決めちゃいましょうよ~、私、次の商談まで、日が無いのです。花を守れだって? 勝手に決めて置いて、武士らに守らせていればいいじゃないですか」
類は、投げやりにそう言った。
「類さん、ここも商談だと思えばいいのですよ、花様を手に入れたら、大きな店との契約より、お金になりますよ」
陽太が、笑いながらそう言った。
「それは、ナイスな考えだね。陽太君、そう思えば、いい事だね。商談の相手は、中々折れてくれないのですが、そこがまた楽しいと言う……」
(類って、変わっている)
ただの商業バカの様だが、蝶に選ばれる位だ、あなどってはいけない、それに比べて陽太は、何と落ち着いているのだろう。類を言いくるめてしまった。
(一番マークしていなかった陽太が、意外とすごいのかも)
花は、心の中でそう思い、三人を見つめる。
「三人共、これから、どうします?」
「そうですね~、三人でお守りするのも良いですが、せっかくです。一人ずつ、守る役を交代しましょう」
陽太が明るくそう言うと。
「一人ずつ……」
才我が、顔をしかめた。
「女と二人きりになれと言うのか?」
「そうだよ」
「何を話したらいいのだ」
「隣にいればいいんだよ、守るだけなんだから」
「そ、そうか」
「元傭兵だった才我さんなら、花様の隣について座っているだけなんて、簡単な事でしょう」
「まあ、守るのならな」
また、陽太が丸め込んだ。
(才我は、女の子が苦手なのかしら? それにしても、陽太は、才我が傭兵出身だって、良く知っていたわね)
陽太は、他にも調べていそうだと思い、少し、怖くなった。
(私の事もしっかり調べ上げてそう)
陽太は、笑顔を崩さない。
「まあ、三人共、今日は、あいさつだけで、明日から、私を守る蝶として勤めてください」
「「「はい」」」
花は、すっと下がった。
(とんでもない人ばかりだ)
花と相性がいいと言うことは、自分もあの三人と似ているのかもしれない。
花は、心の中で青くなっていた。
「乙~!」
仕方がなく乙に泣き付いた。
「あら? 花様」
おまんじゅうを持っていた乙は、お茶の準備をして、縁側に座ってくれた。
「きいて、蝶は、なんか、すごい人達ばかりなの」
「それは、それは……」
「いきなり、求婚してくる人はいるし、女性と関わりたくない人もいるし、なんだか、腹黒そうな人もいるし……」
花は、蝶制度を甘く見ていたと思い知った。
「王にふさわしい人じゃないのですか?」
「人として、大丈夫なのかと思う人が王なんかに成れませんわ」
「あら、凡人は王に成れないと言う人だっていますよ」
「……そうなの?」
乙は、お茶を一口飲み。
「まだ、上辺だけしかご覧になっていないのでしょう。もしかして、良い方なのかもしれませんよ」
「そうかしら」
花もお茶を飲み、まんじゅうを食べる。
「どんな方だったのか、もう一度話してみてください」
「一人は、いきなり求婚して来て、商談をさっさと片付けたいから結婚してしまえ、とか言っていたわ」
「唄野さんですね、あの方が王に成られたら、国は、活気づきますわ。唄野さんは、外国との関係がとてもいい様ですから、外交上手なのですよ」
「あっ、だから、商談」
「そうです。相手を大切にしているからこそ、遅れは許されない。相手の事も大切にしていらっしゃるのですよ」
そう言われると、いい人のような気がしてくる物である。
「才我は、女が苦手らしいの」
「浮気なさらなくていいんじゃないかしら、女の方に現を抜かす方は、国の安定を乱す事もありますから」
「そうなの?」
「ええ」
「腹黒いのは?」
「相手をうまく利用する天才だと思います。きっといい国になるでしょう」
「そうか……」
蝶の見立てが間違っているのではなく、花の見る目が無いのだと気づき恥ずかしくなってきた。
「なんで、乙は、そう言う事がわかるの?」
「あら、侍女は、うわさ好きなのですよ」
「?」
(うわさって、侍女達は、何を話しているのだろう?)
花は、疑問に思い、乙を見つめる。
「あっ、ほら、昼食の時間ですわ、急ぎましょう」
乙は、そう言い、花の前を歩く。
● 〇 ●
花はいつも通り、部屋で食事を終えて、だらけていた。
(う~ん、いいお天気、お昼寝日和だ~)
畳の上でゴロゴロしていると、もやもやも出ていくようだった。
「花様、いけません、着物が崩れます、起きて下さい」
「ええ~」
乙は、厳しい口調で怒っていた。
「姫様なのですから、花嫁修業でもなさって下さい」
「は~い」
花は、立ち上がり、琴の練習を始めた。
コロテンシャンと音が鳴る。花は、一度始めたら、一曲できるようになるまでやめることは無いのだ。
「本当に、負けず嫌いですよね」
乙は、一色懸命な花にそう言った。
コロテンシャンシャンと言う音は、小一時間続いた。
● 〇 ●
夜になり、布団の中で、蝶の三人の事を考える。
(みんな、個性的でいい人なのでしょうけど、私が好きになれるかは、まだ、わからないかな?)
本当に、三人のうちの誰かを好きになる日が来るのだろうか。
花は、天井を見つめて考えた。




