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次の日、刀助が、馬に乗って鈴蘭国を訪れた。
「こんにちは」
刀助は、黒髪の美しい、美形で、さわやか、女の子なら飛びついてしまうような見た目だと思った。
(騙されないんだから)
「久しぶりだね。美しい花」
ナルシストの様にそう言い、花の手を取る。
「そうね、久し振りですわね」
苦笑いを浮かべて、返事した。
(ああ、この人、とても苦手な方だわ)
刀助を嫌な物を見る目で見つめていた。ところが刀助は、その後も、花をほめちぎっていた。
「あ、ありがとう」
(ほめておけば喜ぶような、軽い女じゃないって言うのに、なめられているようでイライラするわ)
刀助の恰好の良い顔が残念に見える。
「そんな素晴らしい花様に、ぜひ、私の妻になってもらえればいいのにとずっと思っていました」
「そうなの、でも、私は、蝶制度と言う物で、すでに婚約者がいるの、だから、ごめんなさい」
花は、申し訳なさそうにそう言った。
「花様、そんな嫌々結婚するのではなく、気が合う人と結婚すべきです」
「そうかしら」
(あなたとは、気が合うわけがないでしょうけどね)
花は、心の中でそう思っていた。
「その蝶と言う輩も大した人ではないのでしょう?」
「そんなことないわ、みんないい人よ」
刀助は、眉をあげて、花を見つめ。
「ずいぶん、ご執心なのかな?」
「えっと……」
困っていると、王が入って来た。
「亀壺君、出迎えに行けずすまなかった」
「いいえ」
刀助は、笑顔を浮べる。
「でも、昔、婚約していたはずの花に婚約者もいて、俺を嫌っているのは、なぜなのですかね?」
「えっ?」
花は、刀助が何を言っているのか、わからなかった。
(婚約なんて、していないわ)
王は、冷や汗を流して。
「その婚約は、実は、五年前に破棄されているのです」
刀助は、知らなかったと顔で言っていた。
「そんなはずは……」
「刀助の父上が、別な女性と婚約したいと断ってしまったのですよ」
刀助は、しまったと顔で言っていた。
「でも、俺の心は、花様の物です。もう一度だけ婚約をし直せないか、考えてみてください」
「……」
王は、悩んだ。
「少し考えてみよう」
「本当ですか」
刀助は、嬉しそうである。
(お父様、しっかりお断りしてくださればいいのに、なぜ、お受けするようなことを言うのですか……)
花は、心の中で、イライラしていた。
「それでは、花様、俺達も親睦を深めよう」
向かい合い、話をすることにした。乙がお茶を持って来て、花の横に座ったが、部屋は静まり返っていた。
しばらくして、刀助が口を開いた。
「君は、好きな人が出来たのかい?」
「えっと、え~? どうかしら」
適当に答えた。
「私は、花様、君が大好きだった」
「ええ~……」
下品な声を出してしまったので、口を押えた。
「婚約した日から、君を想わない日は無かった」
花は、どうしていいかわからなかったが、心も体も、刀助から離れたいと思っている事だけは分かった。
(この人は、好きじゃない。大体、婚約者を乗り換えて置いて、手のひら返し何て、最低な人のする事よ)
そう思っていた時、花のあざが焼き付けるように痛んだ。
「やっ、いたっ!」
「どうしたのですか? 花様」
刀助は、心配して近づいてきたが、手を広げて追い払い、乙を呼んだ。
「乙、あざが痛むわ」
「大丈夫ですか?」
そそくさと部屋に戻り、布団に寝かされた。
「乙、風邪じゃないのよ」
「でも、お医者様が来るまで、じっとしていてください」
布団の中に入っているとあざはだんだん痛まなくなってきた。
(気のせいだったのかしら? それにしては、痛かった様な気がするのだけど……何なのかしら?)
● 〇 ●
二時間が過ぎ、医者が来て、何でもないと言われて、安心した。乙が、着物を着せながら、あざを見つめ。
「しかし、そうなると、このあざは、何かに反応する、魔法のあざなのではないでしょうか?」
「蝶以外の男に反応するとか?」
「はい、そうかと思います」
(蝶制度中は、浮気が出来ない様にでもなっているのかしら?)
廊下で声がする。
「鈴蘭国を手に入れるためなら、あの女位、落として見せるさ、女は単純な生き物だから簡単だ」
刀助の声だった。
(やっぱり、国の力が目当てだったのね)
乙もその声を聞いていた。
「一階の声の様です。何かに反響して聞こえたのでしょう」
「そうね」
「これは、私の予想ですが、花様のあざは、花様に危機を教えてくれているのかもしれませんね」
「そうかもしれないわね」
あざをみつめて、そう言った。




