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暗幕に包まれて

作者: ParticleCoffee
掲載日:2017/09/24

 部室に女の子が飛び込んできた。

 身にまとったピンクのドレス、金髪碧眼で洋風な顔立ち、きらびやかな装飾品で飾り立てたその姿は、あからさまなほどの『お姫様』だった。

「かくまってくださいッ!」

 そう言ってお姫様は部屋の中を見回し、隠れられる場所を探し始める。

 机とパイプ椅子を中心に雑然と荷物が積まれただけの部室では、隠れられる場所なんてない。

 お姫様は、慌てながらオロオロと室内を見回すことしかできなかった。

 椅子に座ったまま『なんか変なのが来ちゃったなぁ』と、ボクはぼーっとしていた。

 そうしているあいだにも、走るような複数人の足音が近づいてくる。

「ロッカーの中に暗幕があるよ」

 部の先輩が『なにかに使えるかも』と言ってパクってきたものだ。

 ボクの言葉にハッとして、お姫様はロッカーへと駆け出した。

 勢いよくロッカーを開き、中から暗幕を引っ張り出す。

 それをカラダに巻き付け始める。

 大きく広がったスカートや装飾品の引っ掛かりに苦戦しつつも頑張った結果、頭から足先まで暗幕に包まることに成功した。

 そして、いま、目の前で黒い棒が直立している。

 ――これで隠れきったつもりなのか。

 ボクは、棒の足元を蹴り上げ、転ばせ、抱きかかえ、荷物の上に放り投げた。

 蹴ったとき、投げたとき、うめき声が聞こえたが聞かなかったことにしよう。

 と、先程まで聞こえていた足音が部室の前で止んだ。

 しかし、はいってくる様子はない。

「絶対ここ――」

「姫がいるか聞くだけで――」

「お前聞け――」

「いやお前が――」

 なにか揉めるような話が小声で聞こえる。

「ノックだけで――」

「は、早くしてよ――」

 そうやって十分以上揉め続けていたため、しびれを切らしてボクの方からトビラを開けた。

 同時に会話がピタリと止まる。

 外には三人の男が立っていた。

 髪型や顔つきなども含めると、身だしなみに気を使わないタイプの人間だ。

 三人共に、中学生が好みそうな服装で、似たり寄ったりな雰囲気を醸し出している。

 たしか、ふたつ隣の部室が『そういう感じ』の人間たちのサークルだった覚えがある。

 そこのやつらだろうか。

 こうして観察しているボクに対して、ダレも目を合わせようともしない。

 互いに小声で促し合うだけで何も言っても来ない。

 と、ひとりが『ただの通りすがりですよ』と言わんばかりに歩きだしてしまう。

 残されたふたりは、顔を見合わせ、先に行ったひとりを追っていった。

 とくにすることがなくなってしまったボクも室内へ戻る。

「行ったみたいだよ」

 声をかけると、すぐにお姫様のはいった黒い棒がもがき始める。

 しばらく待つが、出てくる様子はない。

 どうやら引っかかりやなにやらで自力での脱出が困難なようだ。

 暴れ続けたせいで、荷物の上からお姫様がずり落ちてくる。

 それを抱き止め、机の上に下ろした。

 そして、お姫様を包んでいる暗幕を剥ぎ始める。

 暗幕の継ぎ目に手を伸ばし、めくり始めた。

 本体の方も動かして何度もめくってみたものの、中身はまだ出てこない。

 何重にも巻いていたようには思えなかったが、なかなか器用にまとっていたようだ。

 転がすようにして、剥ぎ取ってゆく。

 そうしてゆくうちに、黒い暗幕の棒は徐々に徐々に小さくなる。

 黒い棒は、ついには二リットルのペットボトルサイズになっていた。

 それでも暗幕を剥ぎ続けると、まもなく、お姫様が姿を現す。

 初めてのときと同じ、どこから見てもキレイなお姫様だ。が、とても小さくなってしまっている。

「助けていただきありがとうございました」

 お人形のようになったお姫様が、おもちゃのように頭を下げる。

「じつはわたくしはオタサーの姫なのです」

「……へぇ」

「先日、オタサーの軍が主導してサークル内で反乱を起こし、政権を――」

 パリッ、

 と、ボクはお菓子の袋を開けた。

 ふんわりと濃いチーズの匂いが広がる。

 下から押し出すようにして袋から出すと、チクワのような形をしたスナック菓子が姿を現す。

「わたくしと、わたくしの父であるオタサーの王は、大臣の手引きで――」

「はい、あーん」

 しゃべり続けるお姫様のクチにスナック菓子をねじ込んだ。

 一瞬だけ動きを止めたが、お姫様は動じることなく勢いよく食べ始めた。

 お姫様自身の頭ほどの太さがある棒状のスナックが、サクサクと音を立て、瞬く間に飲み込まれていく。

 息継ぎをすることもなく、一気に食べきり、

「学食でこれからのことを話していたところをオタサーの秘密警察に見つかってしまい、父が捕らえられ――」

 何事もなかったかのように話を続ける。

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