暗幕に包まれて
部室に女の子が飛び込んできた。
身にまとったピンクのドレス、金髪碧眼で洋風な顔立ち、きらびやかな装飾品で飾り立てたその姿は、あからさまなほどの『お姫様』だった。
「かくまってくださいッ!」
そう言ってお姫様は部屋の中を見回し、隠れられる場所を探し始める。
机とパイプ椅子を中心に雑然と荷物が積まれただけの部室では、隠れられる場所なんてない。
お姫様は、慌てながらオロオロと室内を見回すことしかできなかった。
椅子に座ったまま『なんか変なのが来ちゃったなぁ』と、ボクはぼーっとしていた。
そうしているあいだにも、走るような複数人の足音が近づいてくる。
「ロッカーの中に暗幕があるよ」
部の先輩が『なにかに使えるかも』と言ってパクってきたものだ。
ボクの言葉にハッとして、お姫様はロッカーへと駆け出した。
勢いよくロッカーを開き、中から暗幕を引っ張り出す。
それをカラダに巻き付け始める。
大きく広がったスカートや装飾品の引っ掛かりに苦戦しつつも頑張った結果、頭から足先まで暗幕に包まることに成功した。
そして、いま、目の前で黒い棒が直立している。
――これで隠れきったつもりなのか。
ボクは、棒の足元を蹴り上げ、転ばせ、抱きかかえ、荷物の上に放り投げた。
蹴ったとき、投げたとき、うめき声が聞こえたが聞かなかったことにしよう。
と、先程まで聞こえていた足音が部室の前で止んだ。
しかし、はいってくる様子はない。
「絶対ここ――」
「姫がいるか聞くだけで――」
「お前聞け――」
「いやお前が――」
なにか揉めるような話が小声で聞こえる。
「ノックだけで――」
「は、早くしてよ――」
そうやって十分以上揉め続けていたため、しびれを切らしてボクの方からトビラを開けた。
同時に会話がピタリと止まる。
外には三人の男が立っていた。
髪型や顔つきなども含めると、身だしなみに気を使わないタイプの人間だ。
三人共に、中学生が好みそうな服装で、似たり寄ったりな雰囲気を醸し出している。
たしか、ふたつ隣の部室が『そういう感じ』の人間たちのサークルだった覚えがある。
そこのやつらだろうか。
こうして観察しているボクに対して、ダレも目を合わせようともしない。
互いに小声で促し合うだけで何も言っても来ない。
と、ひとりが『ただの通りすがりですよ』と言わんばかりに歩きだしてしまう。
残されたふたりは、顔を見合わせ、先に行ったひとりを追っていった。
とくにすることがなくなってしまったボクも室内へ戻る。
「行ったみたいだよ」
声をかけると、すぐにお姫様のはいった黒い棒がもがき始める。
しばらく待つが、出てくる様子はない。
どうやら引っかかりやなにやらで自力での脱出が困難なようだ。
暴れ続けたせいで、荷物の上からお姫様がずり落ちてくる。
それを抱き止め、机の上に下ろした。
そして、お姫様を包んでいる暗幕を剥ぎ始める。
暗幕の継ぎ目に手を伸ばし、めくり始めた。
本体の方も動かして何度もめくってみたものの、中身はまだ出てこない。
何重にも巻いていたようには思えなかったが、なかなか器用にまとっていたようだ。
転がすようにして、剥ぎ取ってゆく。
そうしてゆくうちに、黒い暗幕の棒は徐々に徐々に小さくなる。
黒い棒は、ついには二リットルのペットボトルサイズになっていた。
それでも暗幕を剥ぎ続けると、まもなく、お姫様が姿を現す。
初めてのときと同じ、どこから見てもキレイなお姫様だ。が、とても小さくなってしまっている。
「助けていただきありがとうございました」
お人形のようになったお姫様が、おもちゃのように頭を下げる。
「じつはわたくしはオタサーの姫なのです」
「……へぇ」
「先日、オタサーの軍が主導してサークル内で反乱を起こし、政権を――」
パリッ、
と、ボクはお菓子の袋を開けた。
ふんわりと濃いチーズの匂いが広がる。
下から押し出すようにして袋から出すと、チクワのような形をしたスナック菓子が姿を現す。
「わたくしと、わたくしの父であるオタサーの王は、大臣の手引きで――」
「はい、あーん」
しゃべり続けるお姫様のクチにスナック菓子をねじ込んだ。
一瞬だけ動きを止めたが、お姫様は動じることなく勢いよく食べ始めた。
お姫様自身の頭ほどの太さがある棒状のスナックが、サクサクと音を立て、瞬く間に飲み込まれていく。
息継ぎをすることもなく、一気に食べきり、
「学食でこれからのことを話していたところをオタサーの秘密警察に見つかってしまい、父が捕らえられ――」
何事もなかったかのように話を続ける。




