7 ジョリー:オリジン~関係者ミノル~
「うぅ……。」
どこかの建物の中で彼女は目を覚ます。
「目が覚めたみたいだな。」
そして目の前には少年、少し大人らしい女性、そして男性。
彼女はどうやってこの状況になったのかを瞬時に思い出した。…私はこいつらを殺しに来たんだ、と。
同時に彼らに自分が敗北したことも思い出す。
「頭の整理はできた?」
少年が私の顔を覗き込む。私はゆっくりと痛む首をうなずかせる。
「ミノル君、彼女をどうするつもりだい?」
男性が少年に問う。
「どうもしない、ただ、質問がある。……どうして執拗に僕らを狙うのか。彼女を動かす動機をね。」
「さ、話してもらおう。君は誰だ、どこから来た?」
私の名前はジョリー。
私はその日までアメリカでも有数の“とある大手企業”で兵器開発の部門の開発者だった。複雑だが気にしないでほしい。
造っている兵器は軍に売られているものがほとんど。残りのいくらかの行方は私たちにはわからなかった。
私には彼氏がいた。
その日はその彼とのデートをする予定があった。
……しかし、彼との待ち合わせ場所で待って一時間、彼は来なかった。いつもなら30分は早く到着する彼だ、私は捜索を始めた。
……彼の家、彼の好きな景色の見れる場所、彼の好きな公園、再び待ち合わせ場所…。
彼はどこにもいない。
その時、私の携帯が鳴った。……非通知。
電話に出る。…知らぬ男の加工済みの声。
『彼を救いたければ一人でここまで来い。』
私は指定された場所まで一直線に向かった。………少し古い倉庫だ。
街からは離れており、監禁場所としては適していた。
中に入ると、段ボールが積まれたスチールラックがいくつも並んでいた。中は暗かったけど、少し奥に蛍光灯で照らされた場所があった。
「……おい、誰だ!?誰か来たんだろォ!?」
彼氏の声だ。蛍光灯の方から彼氏の声がした。
しかし、私がそっちへ脚を踏み入れた途端……後頭部に激痛が走り、視界がゆがんだ。
目が覚めた時の感覚は…まさに今みたいだったよ。酷くめまいがして、吐き気もあった。
目が覚めた場所は、六角形に作られた実験施設みたいな所だった。…上をみるとガラス張りの部屋、それこそ研究室のような部屋があった。
ここは隔離されている、と一瞬で理解した。
私の周りにも数人、私と同じくらいの男女が居た。その時はそんなことどうでもよかったけど。
少しすると、上の研究室に一人の女性が現れた。しっかりと顔は見えなかったけど、確かに女性だ。
『あなた達の大切な者を取り戻したかったら、この後向かう世界でこの少年を殺しなさい。』
彼女は言った。
「六角形の部屋の壁のうち、一つに映し出された写真の少年、それこそが田中ミノル。あんただったわ。」
ジョリー、と名乗った女性が言った。偽名ではないだろう。
「………嘘、でしょ?…し、知らない、僕は……。」
少年、いや、田中ミノルが息を荒げる。
「僕が、この事件の関係者?……ははっ、そんなわけ…。」
「ミノル君、大丈夫だよ…。」
と男性、ケンジが声をかけるが、ミノルはどこかへ走り去ってしまった。
「追わなくていいのか?」
とジョリーが声をかけると
「私が」
と女性、ミユが言い残して後を追っていった。
「違う、そんなわけ…。」
僕はその時拠点にしていたカフェの屋上で息を整えた。
「…そんなわけないッ!」
しかし、苛立ちを隠せずに塀に入れた蹴りは高速、塀は砕けた。
「ミノル…?」
背後の階段からミユが姿を現す。
「大丈夫よ、こっちに来る前から私と一緒にいたじゃない。」
ミユがとなりに来て僕の顔を覗き込む。
「あ、そ、そうだ、あれ?……ちょっと待って、でもどうして?」
「どうしたの?」
「そういえば、君はゲームなんて大してうまくないのに…」
「?」
「どうしてこの学校へ来たんだ…?」
ミユは少し困った顔をした。
…彼女と同様に僕も困惑していた。
「そ、そんな…ミユを信じれなきゃ、僕は何を信じて生きていけばいいんだッ!」
僕は塀に再び拳を入れる。……塀はとうとう、粉々に砕けてしまった。
「ち、違うっ!……私は何も知らないっ」
ミユは酷く取り乱している。
「……じゃあ、どうしてここに来たの?…っていうかどうやって?受験はなかった、つまりあのメールが入学許可証みたいなものでしょ?」
そうだ、僕は受験してないぞ。そもそもあのメールがすべての始まりだ。
「わ、私もメール、もらって…。」
嘘だ。……いや、嘘じゃない。…ミユ、こんなに嘘が上手だったっけ?知らない。嘘を吐くのも見抜くのも僕の得意技だけど、プロのスパイだったらそんなの通用しないだろう。
「嘘を吐いているようには…見えないけど、もう、何も信じれないよ…!」
僕は振り返ってミユを改めて見つめる。
「どうしてあいつらが僕の命を狙ってるか、調べなきゃ…。」
「わ、私も協力する。……そしたら信じてもらえる?」
「うん……次の拠点を探しながらジョリーからプレデターの情報を得なきゃ。」
まだ、気になることもある。