10~怒哀楽~
上空からあの大きなロボットが目の前へ落下してくる。
僕は自分自身からあふれるアドレナリンを感じた。
目の前に迫る戦いに興奮を覚えていた。
……僕は悪ではない。やらなきゃいけないんだ。…ケンジさんの復讐……それはつまり、プレデターを全滅させること。……このゲーム、否、この事件の加害者すべてをこの世から抹消する事だ。
「………」
僕は頭を高速でフル回転させ、目前の大きなロボットへ一歩踏み出す。相手はまだ反応できていない。
以前まではスポーツカー並み、せいぜい300km/hほどのスピードしか出ていなかった僕だが、今はもう少し速く行動できていた。
……こういった戦いに関して、ゲームの大会では基本、相手の事を調べ…具体的には動画を見るなりして…相手に対しての対処法や作戦などを考察してから戦いに挑む。
しかしながら、このゲームに入ってからは相手への対抗策を事前に考えることは不可能であり、高速の特性を利用しその場で作戦を立てて戦いに挑んでいた。
今回の場合、相手の情報も多少なりあったにも関わらず作戦や対抗策を考案するの事が出来なかった。色々と頭の整理をしていたからだ。
まずは……相手の弱点を探ることからだ。
僕は二歩目を踏み出し、スライディングの体勢をとろうとする。しかし、二歩ではスピードが速くても助走が足らず、スライディングはできなさそうだ…。
僕は左へ向き直す。ロボットが右腕を振り上げるのは反応していたが、走行が薄そうな左ひざに蹴りを加える時間はあるだろう。
……しかし、僕の予想に反してロボットはそのゴツイ右ひじから赤い炎を吹き出し、さながらジェット機のようなパンチを繰り出した。
「く…っ!」
僕はギリギリでロボットの攻撃を回避すると、広場を囲う塀から突出した鉄パイプの上に飛び乗る。しゃがんだ姿勢で片手をつきバランスをとる様子はまるでスパ〇ダーマンのようだ。
僕は腰から引き抜いたMP7をロボットの頭部に向け、発砲する。
軽く素早い銃声に紛れて、ロボットが肩から大きな銃口が展開される。…僕のMP7から放たれる9mm弾には全く動じず、ロボットは肩の銃口から無数のミサイルを射出する。
僕は再び、上へ飛び上がり回避する。
今のミサイルはなんとか回避できたが、なるほど、この特性では空中にいる間は役に立たない。克服する必要はあるが、現状できるだけ地に足をつけた方がいいだろう。…せっかく、高速の特性を利用した高いジャンプができても無意味ということだ。
僕は着地し、体勢を立て直す。
今度は近づかずに銃撃を与える。少しの間、こうして空いての弱点を探るのがいいだろう。
しかし、今度はロボットのほうから背中から先のような赤い炎を吹き出しこちらへ詰め寄ってきた。
「…っ!」
僕は両足に力を込め、右へ回避しようとするが…時間が足りない。スピードが足りない。
僕の身体は台風に見舞われた発泡スチロールのように背後へ吹き飛び、塀にぶつかって止まる。
僕は再び体勢を立て直すが……クソ、手元のMP7がバラバラに壊れてしまった。彼、つまりロボットとの戦闘において接近戦では不利だろう。……いや、そうでもないか?彼が動きが速い事は分かった。しかし、超接近戦だったら小回りの利く僕の方が有利かもしれない。
彼がどれほど小回りが利くのか、ということが勝敗を分けるな、今のところ。
僕は壊れたMP7を背後へ投げると、ロボットの方へダッシュする。やはり降る雪は落ちる速度を遅らせ、ロボットの動きも遅延する。
ロボットの前まで接近すると、またもや彼の肘から赤い炎を吹き出し僕に殴りかかる。僕はそれをジャンプでかわすとその腕の上へ飛び乗る。
……やっぱりだ、こいつは攻撃に関して前へのブーストはあっても後ろへ引き戻すブーストはないのだ。
この調子だ。今度は弱点を探る。
僕はゴツイ腕の上を走り、肩まで駆け上がる。そして奴の背後へジャンプすると後頭部へ思いっきり蹴りを入れる。
「っぐぁッ!」
蹴りを入れた右足に激痛が走る。しかし、弱点は後頭部だな。あそこだけかは分からないが装甲が圧倒的に低い。正面からの攻撃にしか対策してないんだろう。
「ジョリー、援護して。」
「わ、分かったわ!」
塀の陰から出てきたジョリーは翼を展開すると、無数のミサイルを発射する。
「弱点は後頭部だ。」
「OK!」
ロボットは背中からフレアを放つと、僕に背後を見せぬようにこちらを睨む。
右足の痛みが尋常じゃない。
「だけど、そのフレア…連続では放てないだろ?」
僕は高速の中で呟くと、右足の痛みに耐えながら接近し直す。……今度は相手が反応する前に飛び上がり、そのまま頭の上を飛び越え、背後に回ると振り返り、相手の両肩を掴むと、そのままバランスを保つ。
右手だけを放し、こぶしを握り、後頭部に何度もパンチを繰り出す。背中にくっつかれた彼、又は彼女は焦った様子だ。対策をその場で考えているようだ。
少しすると、背中が本を開くように展開し、その内部に搭載されているフレアが姿を現す。…計画通りだ。僕は背中を蹴り、背後へ回避行動をとろうとするが…思ったよりも早く射出されたフレアに身体が数メートル吹き飛ばされる。
「ぐぁっ…!」
地面に打ち付けられた僕の身体は動かず、首だけ動かして相手を確認する。
「ジョリー、撃てっ!」
僕の作戦は、背中に張り付いた敵…つまり僕を剝がすためにフレアを撃たせ、再装填が完了する前にジョリーが攻撃…彼女のミサイルならきっとダメージを喰らうだろう、というものだった。
ジョリーの翼から放たれた小型ミサイルは容赦なくロボットを攻撃する。
「よしっ…!」
と、ジョリーが呟いた。僕も勝ったと思った。
……しかし、ミサイルは爆発しなかった。ミサイルはロボットに着弾する前に止まっていたのだ。……ロボットが左腕から展開した、磁気シールドによって…。
負けた……。ロボットは肩から発射したミサイルでジョリーを撃ち落とす。
こちらへゆっくりと近づくと、僕の身体を軽々しく片手で持ち上げた。
負けた…。
だめだ……このままじゃこいつを…こいつらを殺せない。
………仇を……とれない…。
…………そんなの……嫌だ。
『目を開けて、ミノル…』
頭の中に声が響く。ゆっくりと目を開けると、僕は真っ白な部屋に立っていた。
僕の前には3人の少年が椅子に、それぞれの個性の利いた座り方をしている。
…一番左のまだ幼い少年は、髪が真っ白だ。丁寧に、といっても多分座り方は間違っているが、椅子の上に体育座りをしている。
真ん中の少年は少し長めのクシャクシャの黒髪で、赤い目をギラギラと輝かせていた。……っていうか、僕だった。よく見れば、この3人はどこか僕らしい雰囲気を出している。自分の雰囲気なんてわかったもんじゃないが。
一番右の青年もだ。眼鏡をかけて、椅子のひじ掛けに腰を下ろす姿は僕よりも数歩大人らしいが、どこか引いたり足したりした僕のようだ。
『ここはどこ?』
僕は問うた。
『ここは、いわば君の潜在意識の中さ。』
一番左の幼い少年が楽しそうな笑顔をこちらへ向けて答える。は?という顔をした僕に追って
『まあ、見てて』
とつけた。
その言葉を待ってましたとばかりに、真ん中の少年が立ち上がる。そして僕を避けて僕の後ろへと歩いていく。この空間はどこまで続いているのだろうか…少年の姿は見えなくなった。
『またアイツを行かせるのか?さっきまで勝手に体をとっていたし、そのくせ負けたんだぞ。』
文句ありげに右の青年が白髪少年に言う。
『しょうがないでしょ、怒ってるんだから』
と答える白髪少年。……僕はなんのことやらまだ頭がついてこない。
『となり、座っていいよ。』
僕は、どこへ運ぼうとしているのかロボットの腕に巻き付くと、僕の身体を握る手首をひねる。しかし、当然と言えば当然。アニメや映画でもよくあること、彼の腕は何週でも回転するだろう。
僕は相手の右手を両手でつかむと、肩に両足を当て…その大きな腕を引き抜いた。
引き抜く勢いで後ろへ飛び、着地した僕は、回路を丸出しに電気を漏らすロボットの腕を自分から剥がし捨てる。
ロボットの動かぬ顔から不安な様子がうかがえた気がした。再度、ロボットへ接近すると、飛び上がって腹部だと思しき箇所に蹴りを入れる
今度は相手の反応が遅い、動揺のせいだろう。遅れて繰り出された、先の物凄いスピードのパンチをギリギリかわすと、残った左腕の上に着地。
ロボットらしい金属と9mm弾をも弾く防弾ガラスで守られた顔面に高速のパンチを喰らわせる。高速の中の僕にとって、パンチも移動も意味のないこのロボットはゆっくりと動きを遅延させるだけで、なんら脅威性はなかった。
ロボットの固い顔面が、僕の高速の打撃によりバラバラに砕ける。続けて、腕から飛び降りながら左腕をひねるが、先ほど同様効果はない。
着地し、体勢を安定させると、今まで乗っていた左腕から赤い炎が噴き出し僕へ向かってくるのを確認する。
一歩下がり、余裕の涼しい表情で回避、今度は一歩前に出て接近。左膝に蹴りを喰らわせる。
ロボットがバランスを崩す。………しかし、問題は別にあった。
僕は、背後から迫る人影に気付くことすらなかった。
背後から接近してきた“何か”は僕の首元を掴み、ロボットから引き剝がすと、ロボットにとどめの銃撃をいれた。
この作品を通して成長していきたいです。もうすぐ終わるよ、多分。2章あるけどね。




