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戴冠式

 一旦自分の部屋に戻った私は、着てきたドレスを脱いで、控えていた侍女に手伝ってもらいながら戴冠式用の衣装に着替えて呼ばれるのを待つだけになった。


 念のためサーラの部屋を覗いてみたけれど、やっぱり戻ってはいなくて少し心細くなってくる。


 そこに聞きなれたリュートの音が聞こえて顔を向けると、ブリーズお姉様が笑顔を向けて立っていた。



「ブリーズお姉様!」


「約束通り戻りんした」


 嬉しくなって、ブリーズお姉様に抱きつきにいこうとしたけど、戴冠式の衣装が邪魔して上手く歩けないでいると、ブリーズお姉様から近寄ってきてそっと抱きしめてくれた。



「長き事生きてきて、初めて戴冠式といわす のを見るので、ララちゃんの晴れ姿をしっかり見せてもらいんすからね」


「うん、私頑張るから。 だから見ていて」


 たぶんブリーズお姉様はわかっていたんだ。 私が不安になって緊張したりする事に。

 だからわざわざこのタイミングで来てくれたのね。




 メイドが呼び出しに来て、ブリーズお姉様は急いで部屋を出て行って、私も侍女について戴冠式の場に向かっていった。



「プリンセス、合図がありましたらお入りください」


 そう言って侍女もその場を去って、いよいよ出番が近づいてくる。




 ギィ…………


 謁見の間につながる扉が開け放たれて、赤い絨毯のまっすぐ先、お父様が立って待つ場所をまっすぐ見据えながら私は一歩を踏み出した。





『周りは気にするな。 まっすぐ前を向いて、ただヴォーグだけを見つめて歩けばいい』


 そう、サーラが言っていた。 今も歩く私を沢山の人が左右から見ているはず。




『もし見てしまうと、ララのしてもいない失敗を嘲笑うかのように笑っている奴がいるかもしれない』


 うん! だから私は気にしない。 ただまっすぐ、お父様の居る場所まで向かうだけ。




『おそらくいつもよりそこは遠く重く感じるだろう。 だがそれこそが国を背負う重みだ』


 そう、私はこの国を背負う。 どれだけ大変で苦しかろうと。




『そこを越えればあとはヴォーグに跪くだけだ』


 お父様、私は辿り着きました。 この国を国の人たち全ての責任を背負う為に。




 お父様の前までたどり着いて跪く。 なんとか辿り着けて少しだけホッとする。



「ララノア、今日よりお前をこの国の正統なる後継者として、皆の前で公言する! このヴォーグがいかなる理由であれ滅ぶことがあれば、お前をこの国の女王とする事を!」


 お父様が私の肩にマルボロ王家に伝わる宝剣アルダを当てて宣言してくる。



「謹んでお受けすると、ここに宣言します!」




 ぱちぱちぱち……


 最初はまばらに、次第に大きくなって私の戴冠式は無事に終えたのだと思った。



「この宣言を、創造神が執行者、世界(ワールド)守護者(ガーディアン)サハラに見届け人となってもらう!」


 え? そんなの私聞いてない。


 辺りもざわつき出して、どういう事だって声が聞こえてきてる。



「ララ、立って振り返るんだ」


 お父様に小声で言われて、言われるまま立ち上がって振り返る。 コツコツと足音をさせて謁見の間の入り口にその姿をみせた。


 黒いローブに目深に被ったフード姿。 幾度か見た真っ直ぐな棒のような杖を手に、赤い絨毯を歩いてくる。


 立ち止まって空いた手でフードを退ける。 そこにはいつも見ているサーラの顔ではなくて、優しい表情を浮かべた知らない男の人がいた。



「ヴォーグ王、世界(ワールド)守護者(ガーディアン)が見届け、証人となろう。 今日をもってプリンセス ララノアは正統なる後継者とする」


 誰もがその人物に目を奪われていたけど、サーラの目は私だけを見つめてきていた。



「ほら、ボーッとしてないで言うんだ、ララ。 臨機応変も大事だぞ」


 聞いてない。 聞いてない。 聞いてない。 そんな事全然聞いてないよ。 でも……


 大きく息を吸って一度深呼吸をする。



「よ、よろしく?」


 イヤーーーーーー! やっちゃったぁぁぁぁぁ!!



 謁見の間が一瞬にして静まり返って、特にメビウス連邦共和国の領主たちから、何だあれはとでも言いたげな顔をされて実際に声に出す人までいて、私が慌てそうになったところでサーラが笑いだしたの。



「ハハハハハ、親しみを込められて嬉しいよ。 その方が俺も堅苦しくなくていい。

そうだろう、ヴォーグ王?」


「ああそうだ! これを持って戴冠式を終了とさせてもらおう。 このあとは会食の用意をさせてもらっている。 存分に堪能していってくれ!」


 お父様の合図で一斉にメイドたちが姿を見せて、会食の場へと誘導が始まったのだけど、私はやらかしちゃった事で頭がいっぱいになっていて、その場で動けなくなってた。





「そろそろララも着替えに行かないといけないんじゃないか?」


 耳元にそんな声が聞こえて我に帰ると、サーラが優しい笑顔で私の事を見つめてたの。



「うひゃ! さ、さささ、サーラ……じゃなくてサハラ様」


「その呼び方は他人仰々しくて寂しいな。 サハラでいいよ、ララ」


 うん……サーラじゃなくてサハラはやっぱりサーラで、優しいサーラのままだ。


 ついジーッと見ちゃう。



「念願の俺の素顔はどうだ? 大したもんでもなかっただろ?」


「うん、普通……っていうか、普通すぎ」


「それはさすがに傷つくな」


「でも、そんなサーラが私、大好き」


「それはちょっと困るな……」


「大丈夫だよ。 強くて優しくて、差別しなくて困った私をいつも助けてくれる。サーラは私の憧れの人だから」


 そう言うとサーラはにっこり笑って私の頭を撫でてくる。



「さぁ、主役がいつまでもいかないわけにはいかないだろ。 早く着替えてくるんだ」


「うん! だけどその前に……」


 サーラの唇に本当に触れる程度にファーストキスをして、


「隙あり、一本!」


 驚いた顔をしたサーラを置いて走って逃げ出しちゃう。



「なっ! なぁぁぁぁぁぁ!?」


 走り去る私の後ろから、サーラの悲鳴じみた声が上がったのはちょっと失礼じゃない?



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