力不足
ギィギィ……チキチキチキ……
そんな声のようなものが聞こえてヴェイルジャグのお腹から子蜘蛛が這い出してきたわ。
それも1匹ではなくて、わらわらと何匹も何匹も這い出てきて、ヴェイルジャグのお腹から飛び降りるとメキメキメキメキって音を立てながらみるみるうちに巨大化していくわ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ルロスが自分の父親だった物を見て感情を出した悲鳴を上げたわ。
ギィギィギィギィギィギィ……
巨大化した蜘蛛の大きさは脚を広げた状態で私ぐらいの大きさがあって、獲物を逃さないとでも言わんばかりの異様に長い脚が8脚伸びているの。
せっかく傷が治ったばかりだというのに、フィンとアルバロがまた武器を構えて蜘蛛から私を守ろうとして、クローロテースも恐怖に怯えてか私に寄り添ってきたわ。
ルロスはと言うとすでに剣を両手に持って、父親の仇を取らんとばかりに物凄い低姿勢に身構えていて、まるで獲物に襲いかかろうとする肉食獣のようだわ。
そんな中……
「なぁ主よ、あれは喰ったら美味いと思うか?」
「少なくとも、俺は食べたいとは思わないな。 それより初めて見る相手だ、俺のデータにも無い」
すっかり巨大化した無数の蜘蛛に囲まれて絶体絶命とも言える状況にも関わらず、サーラとルースミアは余裕の表情で会話をしているの。
「ウェラ、あいつらが何かわかるか?」
「ドラウの神を自称している地下世界の神の1人、アラクネーの植え付けた卵……アラクネーの子供です」
うえぇ、神様だかなんだか知らないけど卵なんて植え付けられたくないよ!
あれ? じゃあまさかルロスも!?
私の心配はよそにサーラが3人の奥さんに指示を出していって、ルースミアは腕に付けていた爪のような武器をシャコっと伸ばして早速1匹目の蜘蛛に向かって行ったわ。
「仮にもあの蜘蛛は神の子たちだ! ララたちは危ないから先にヴィロームの町で待っていてくれ!」
先にって言ったって囲まれているし……って思ったら【魔法の神エラウェラリエル】が青く輝く門を作り出して入るように促してきたわ。
自分たちだけ逃げ出すことに迷っているフィンとアルバロに【魔法の神エラウェラリエル】が自身の強さを素直に認めることも強さですって言ってきて、アリエルが悔しいと思うのなら強くなる事ねって。
「フィン、アルバロ、逃げて生き延びることも大切なことよ。 海では隠れる場所なんてないから、私たち人魚はいつでもそうやって生きてきているのよ」
クローロテースが言った言葉で、2人は歯ぎしりをしながらサーラたちに頭を下げて私とクローロテースを連れて魔導門をくぐり抜けて行ったの。
「さて……あとは君だけだ、ルロス」
「私にも卵が植え付けられているのでしょう? ならせめてここで戦って……ウグッ」
一瞬にしてサーラがルロスの意識を刈り取って崩れ落ちるところを掴むと、魔導門に放り込んだわ。
「あとでいくらでも文句は聞くよ……ウェラ、魔導門を閉じてくれ」
サーラの指示で【魔法の神エラウェラリエル】が魔導門を閉じたの。
魔導門を抜けた私たちが辿り着いた先はヴィロームの町から少しだけ離れた場所だったわ。
フィンもアルバロも無言のままで立ち尽くしていて、自分の力の至らなさを痛感しているようだったわ。
「アルバロは……仕方がないけど、フィンは強いと思うよぉ。 ただ相手が悪かったんだよ」
うわっ、さらっとクローロテース言ったけど、アルバロには心に突き刺さってまた生気を失ってるよ。
……ドサッ。
そこへルロスの姿も魔導門から現れたのだけど意識を失っていたわ。
「ルロス!?」
怪我らしい怪我をしていないのを確認して、支え起こすのを同時に魔導門が消えたところから、これからサーラたちはあの蜘蛛を相手に戦い出すのだと思う。
どうする事も出来ない私たちはサーラに言われた通りに町で待つしかないようね……
「とりあえず……町に行こ……」
相手が悪いとはいえ力不足は否めず、ルロスはフィンが背負って無言のままヴィロームの町まで戻った私たちは、当てもなく町を彷徨いているとブリーズお姉様が私たちを見つけて駆け寄ってきたわ。
私たちの顔を見てブリーズお姉様は何も言わずに一軒のお店に連れていったの。 そこでことの成り行きを話していくと、何も言わずただ頷いて話を聞いてくれていたの。
「クソォッ! 俺に、俺にもっと力があれば!」
「僕だって……」
そこで目が覚めたルロスも父親の喪失と仇を取れなかったこと、そして自身にも降りかかるかもしれない父親に最後に起きた光景から恐怖に身体を抱きしめて俯いたまま黙り込んでいるわ。
「つまるところがララちゃんたちは、サーラさんの……サハラ様の事を知ってしまいんしたのでありんすね」
ブリーズお姉様はサーラの事を知っていたみたい。 内容は話してくれなかったけれど、それで王宮でコンサートとかも引き受けてくれたのね。 って、あれ?
「ブリーズお姉様もサーラの、その……」
「わっちはサハラ様の……部下のようなものだっただけありんす」
少しだけ落ち着いた私は、落ち込むフィンたちをなだめながらサーラの帰りを待つしかできなかった……




