領地視察という名目の旅行
出発当日、私はお父様に別れを言って王宮を経ったの。
私の格好は御忍びの時の姿、ドレスローブにシャムシールを身につけるのまでは一緒、違うのは頭にティアラを今日からは町中ではつけるように言われてつけていることかしら。
サーラは付き人らしく侍女の格好のまま、私のすぐ後ろを今日はずっと黙ってついてきているわ。
フィンは新品の王国の正規騎士の鎧を着て、正規騎士に与えられる長剣を吊るしているんだけど、新品の鎧が馴染まないみたいで何度も鎧の位置を直しているわ。
アルバロも冒険者の時の格好は禁止されて、お父様が用意した革鎧の上に【愛と美の神レイチェル】の神官でも認められた者だけが着用できる神官衣を羽織っているわ。 この待遇にアルバロったらすっかり恐縮しちゃっているみたい。 あ、アルバロの武器は槍よ。 少しでもリーチがある方が有利だからですって。
そしてブリーズお姉様。 羽根飾りのついたサークレットに可愛らしいフリルがついた旅装束姿なの。 手持ちに武器……なのかなぁ? 竪琴を持っているわ。
クローロテースは普通の旅装束。 身分を隠すように言われてそうなったんだけど、もう少しブリーズお姉様ぐらい可愛い旅装束を選んであげればよかったと思うけど……お父様には荷が重すぎたかな?
王都を歩く私の姿を見て驚く人が大勢いて、あの子よく見かけたけどプリンセスだったのかって声が上がるたびに「今までごめんね」って謝りながら歩いていったわ。
「あの姫様、本気で歩きで行くつもりですか?」
「ええ、おかしいかしら?」
「城塞都市ヴァリュームまで歩きだと順調に行けたとしても15日ほどはかかりますよ?」
「なんとかなるわよ!」
フィンがこの時頭を抱えていた理由を私は全然わからなくて、ただ生まれて初めての王都以外の町に行くことに舞い上がっていたんだと思うわ。
王都の城壁をくぐり抜けて街道に沿って歩いて行くんだけど、王都を出た時点で落っことしたりする前にティアラはさっさとしまっておいたわ。 もちろん身分を証明するものはティアラだけではなくて、指に王家の紋章の入った指輪もはめているけれどね。
道中は行商人が荷馬車を引きながら私たちの姿を見つけるとリンゴをくれたり、数人の冒険者たちが珍しそうに話しかけてきたりで、まるでピクニックに来ているみたいに楽しみながら歩いていくの。
「ねぇフィン、あとどのぐらいで次の町には着くの?」
「あとどのぐらいって……姫様、次の王国領の町ヴォルフまでは徒歩で3日の道のりですよ」
「うぇぇ!? じゃあ今晩私たちどこで寝るの!?」
「中継となる場所には宿場町があります。 そこで今日は休む予定ですが……」
気まずそうな顔でフィンがアルバロの顔を見て、アルバロも困った顔をみせるわ。
「ララちゃん、こなたのペースだと宿場町まで間に合んせんか、たどり着いても真夜中で宿が取れるかわからなくなりんす」
言いにくそうにしているフィンとアルバロに変わってブリーズお姉様が教えてくれるわ。
「フィンもアルバロもちゃんと言うべきことは伝えてよね。 それでどれぐらいのペースならいいの? ついていくから2人が先を歩いてみせなさいよ」
それじゃあって感じでフィンとアルバロが私の前に立って進み出すんだけど……ついていくので精一杯な速さで、歩くというよりまるで小走りか競歩だわ。
そういえばリンゴをくれた行商人の人も、しばらく一緒に歩いていたけど、途中から先を急ぐからって先行っちゃったし、あれだけ周りに移動している人がいたのに、今は私たち以外人影が見えなくなってるかも?
しばらくは頑張ってついていくのだけど、もう息が切れてお腹も痛いしこんなの無理すぎよ。 って思ったらクローロテースも苦笑いを浮かべながら同じようにお腹を抱えているの。
残酷にもフィンもアルバロにブリーズお姉様まで笑顔で応援してくれるんだけど、もう限界……
「こうなったら仕方がないわ! 来て! グリフィン!」
ピーーーーーーッ!
バサァッてグリフィンが待ってましたと言わんばかりに私の元に来てくれて、私はクローロテースと一緒にグリフィンの背に乗ると空に舞い上がってもらうわ。
「先に行って待ってるわね〜」
バイバーイって手を振りながら街道に沿って快適な空の旅をクローロテースと楽しむの。
「姫様きったねぇ、じゃない……アルバロ、サーラさんと歌姫頼む。 俺は走って姫様たちを追うからよ」
「うん、わかった」
馴染んでいない新しい鎧のままフィンは私を追って走り出したわ。
「まったく……ララが相手だとフィンも大変ですね」
「でも凄くいい奴ですよ。 文句は言うけど決して諦めないし、勇敢で男気があって……僕には無理だなぁ」
「でもアルバロはとても仲間思いじゃないですか?」
サーラがそう言うとアルバロは照れて見せるんだけど、見捨てられないのは日本人だった頃の気質だよなぁって独り言をつぶやくの。
「やっぱり僕たちも急ぎましょう! プリンセスに何かあったらヴォーグ王に殺されちゃいますよ!」
そして距離を置きながら後をつけていく猫の女獣人の姿があったわ。
「このままじゃ野宿になるのニャ……って! いきなり加速したのニャ!」
猫の女獣人もまたマクシミリアンに特殊任務を与えられて、私たちの後をそっとついてきていたわ。




