ひいお祖母様のアイデア
人種の世界の生活の現実を知ったあの日からクローロテースはすっかり元気がなくなって、クローロテースに与えられた部屋からあまり出てこなくなって、大好きな歌も歌わなくなってしまったわ。
私もブリーズお姉様もいろいろ元気になるように考えを張り巡らせるんだけど、やっぱり種族の違いは大きいみたいで簡単になんとかできるようなものではなかったの。
お母様がそんなクローロテースを見て、まるで捕まえられた小鳥のようって言うの。
「だったらクローロテースを海に帰してあげたらいいんじゃないかしら」
「……そうね、それが一番早い解決策だと母様も思うわ。 でもねララ、それでは根本の解決にはならないのよ」
お母様が言うには今のまま海に帰しても、夢と希望に満ちていた地上の世界は、クローロテースにとって悪い印象だけしか残らなくなっちゃうんだって。
「……ララだって旅行に行ってそこで嫌なものばかりをたくさん見たら、楽しかったなんて思わないでしょう?」
うん、絶対に思わないし思えるわけないよね。 でもだとしたらどうしたらいいんだろう……
話を聞いたお父様も、せめて楽しい思い出のまま帰ってもらいたい思いで、クローロテースが喜んでくれそうな舞踏会を開いたりしたのだけど、笑顔を見せることはなくてただその場にいるだけのようだったわ。
「万策尽きたなぁ……」
「さすがに人魚が喜びやがりそうなこととなりやがると、私にもわかりやがりませんね」
お父様が玉座に座りながらログェヘプレーベとため息をつきながら話しているところへサーラが姿を見せたわ。
「おうサーラか。 何かアイデアは思いついたか?」
「正直なところないですね。 何しろ私たちから見れば魔物を……喜ばそうとしているんですからね」
3人が頭を悩ませていると、ひょこっと1人の女性が顔を出してお父様たちのところに近づいてくるわ。
「婆様か、久しぶりと言いたいとこだけど今ふぁふぇふぉんふぇいるんふぁ」
「いい加減その呼び方はやめてもらえないかな、ん〜? 神になった時点で私の外見はサハラと出会った頃の姿になってるんだからさ」
お父様が引っ張られた口元を押さえながら婆様は婆様だろうにって呟いてから、【愛と美の神レイチェル】がこんな時に何の用なのか尋ねたわ。
「せっかく神様が救いの手を差し伸べに来たというのに酷い言われようね」
どうやらひいお祖母様は困り果てている孫たちの姿を見かねて助けに来てくれたみたい。
「そうは言ったって婆様だって人種の神だろう?」
「ヴォーグはおバカさんね。 人種であろうが魔物であろうが、行ったことのない場所に行くっていうのは楽しいものでしょ?
あの人魚、クローロテースって言ったっけ? 旅行に連れて行ったらどうかしら?」
ひいお祖母様は私の戴冠式も近づいていることだし、1度各領主とその町を訪れたらどうかって言ってきたわ。
心配性なお父様は反対するのだけど、サーラも一緒に行ってもらうのと、何よりそのうち私がこの国の女王になるというのにそんなに過保護でどうするんだぁぁぁぁぁって怒鳴ったわ。
これにはお父様も思うところがあったのかため息をついてから了承するの。
「わかりましたよ。ば・あ・さ・ま」
……憎まれ口を叩いたけどね。
ひいお祖母様はウキーーーーーって怒って消えていったわ。
「そう言うことだ。 サーラ頼む」
面倒くさそうな顔をしながらサーラが頷いたわ。
それでそのあと私がお父様に呼び出されて、この話を聞かされることになるのだけど……
「クローロテースの気分転換というか人の世界をもっと見せてあげれば喜ぶかもしれないし、ララも王国内の領主とそろそろ面識を持った方がいいだろう。
旅行だと思って城塞都市ヴァリュームまで行ってきてみろ」
「わわ! お父様本当に? あ、でもどうせ兵隊さんも一緒なのよね?」
「いや、一緒に行くのはクローロテースとサーラとブリーズとフィンとアルバロだけにする」
お、おおお、お父様がこんな少人数で遠出を許可してくれたわ!
お父様とお母様以外にもマクシミリアンとログェヘプレーベがいることも忘れて、私はきゃっほーと叫びそうになるぐらい喜んだんだけど、それを聞いたマクシミリアンがすぐさま口を出してくるの。
「国王! いくらなんでも危険すぎます! まだ冒険者殺しも王女を狙った連中も捕まってないのですぞ!」
「黙れマクシミリアン、これはもう決めたことだ」
お父様が反論は聞かないと言わんばかりの口調で言うと、マクシミリアンは大人しく引き下がるんだけど、その顔は悔しさに歪んでいたわ。
「いいかララ、今回はちゃんとプリンセスとして行くことになる。 サーラも同行するが、あくまで付き人に専念してもらう。 相談以外の道中やらの判断なんかは全てララがするんだ」
それってつまりサーラは私にいちいち意見してこないってことなのね!
早速この事をクローロテースに話しにいくと、暗い顔をしていたクローロテースが少しだけ笑顔を見せてくれるの。
「あ、笑った」
「だってララが凄く嬉しそうにしてるから」
「きっと楽しい旅になると思うわ。 うううん絶対よ!」
フィンとアルバロにもこの事を話して、早速ブリーズお姉様とクローロテースと一緒に旅行の準備に取り掛かって、その日の夜、久しぶりに3人の歌声が浴場から響いたわ。
「な、なな……なんか凄いコンサートを独り占めで聞いている気分だニャ!」
相変わらずコッソリと私たちの歌を盗み聞きしている猫の女獣人が聞き惚れていたのは言うまでもないわね。




