人魚の歌の力
結局アルバロはその後私に転生者の話はしてくれないまま、まるで何もなかったような……というよりは言いたくなさそうだったから聞くのもやめておく事にしたの。
そしてクローロテースも王宮暮らしに慣れた頃になって、やっとサーラから王都に出ることも許されたわ。 ただしもちろん慣れるまでの間はサーラがついてくる約束でだけどね。
そしてクローロテースが来て半年が過ぎた頃、サーラに冒険者をやってみたいってクローロテースがお願いしたの。
「なぜクローロテースはそんなに冒険者になりたいんですか?」
「冒険者になればお金を貰えるのよね? そうしたら地上で暮らしていけるわ」
どうもクローロテースは地上で暮らしていきたいみたいで、そのための方法に冒険者というのになればいいと思ったようね。
「ですがクローロテースは武器も使った事がないというのに、まさか今から習うつもりですか?」
それには首を振って、クローロテースは歌でみんなを守るって言い出したの。
「吟遊詩人の呪歌ですか? あれは確か聞くものすべてに影響を及ぼしてしまうはずですよね?」
そう言ってブリーズお姉様の方に顔を向けると頷いて答えたわ。 それに対してクローロテースは首を振っているの。
「私の歌は違うもの」
サーラもブリーズお姉様もどう違うのかわからないみたいで困った顔をみせていると、マクシミリアンがどこから聞きつけたのか現れたわ。
「駄目ですぞ! 賓客として招かれている王女に冒険者まがいのような事はこの国の将軍である某が絶対に認めません!」
断固たる態度でマクシミリアンが言うとクローロテースは1度ブスッとした顔を見せたあと歌を歌い出したわ。
「私〜は地上の暮らし〜がしたい〜の
……でも周りの人たちは反対するの
それでも〜この〜明るい〜せか、い〜で〜
暮らした〜い〜の〜……」
それはマクシミリアンに対して冒険者になりたい、なって地上で暮らしてみたい、だからお願いそっとしておいてっていう願う言葉をそのまま歌にしただけのものだったわ。
一通り歌を歌い終えて、マクシミリアンを見つめるとまさかと思えるような事が起こるの。
「うーむ、それは仕方がないですなぁ……うむうむ」
そう頷きながら去って行ってしまったわ。
「凄いでありんす! こなに融通が効いたら吟遊詩人も形無しでありんす !」
「……これが人魚の歌の力ですか」
これにはサーラもブリーズお姉様も驚きを隠せないわ。
でもこれが実戦でどこまで通用するかわからないってサーラが言うから、私が試しに見せて貰えばいいんじゃないって言ってみたの。
これにはさすがのサーラも興味を持ったようだわ。
「クローロテースの冒険者になりたいというのは私には許可できません。 海神トリートーンにクローロテース自身が許可をもらってください。 ただし、やっていけるかの判断は私が見て出来そうであれば、口添えはしてあげましょう」
「本当に?」
サーラが頷くと嬉しそうに飛び跳ねて、早速色々と試していく事になって、フィンとアルバロを呼び出すことになったわ。
フィンとアルバロが来ると6人になって、前衛にフィンと私とサーラが受けることになって、後衛にブリーズお姉様とアルバロとクローロテースで決まったところで、アルバロが余計なことを言っちゃうのよね。
「僕が後衛でいいんですか? 僕が前衛に立って、プリンセスが後衛の方がいいと思うんですが……」
「それって私じゃ役目を果たせないっていうの?」
「い、いえ! そうじゃなくて女性を前衛にするのに抵抗が……」
「アルバロ、それサーラさんの顔を見て言えるのか?」
ハッとした顔でアルバロがサーラの方へ顔を向けるのだけど、どうせサーラは気になんてしていないわ。
「ち、違うんです! そうだ、僕はプリンセスは前に出るべきじゃない。 そう言いたかったんです!」
「アルバロ、それじゃあ堂々巡りになっちまうだろうよ」
なんでってアルバロが言い返そうとしたところで、アルバロも気がついたみたいで何も言わなくなると、アルバロ以外のみんなから笑い声が溢れたわ。
「それでサーラさん、これから一体何をするんですか?」
そうね……と言ってサーラがみんなを一度見回してから、騎士由来の遺跡に行きましょうってなったわ。
「今から出て往復の時間を差し引いたら、そんなにいられませんよ? それこそ遭遇しない可能性だってあります」
アルバロが先ほどの挽回を図っていうのだけど、サーラは何かブリーズお姉様に頼んで魔法を使ってもらうみたい。
ブリーズお姉様が魔法を詠唱してしばらくすると、遺跡のある方向の景色がボヤけたような状態になったわ。
「行きましょう」
そう言ってサーラが先頭に立ってそのボヤけた中に入り込むと姿が見えなくなってしまったわ。
「これは……」
「時空魔法の1つで移動魔法のワームホールでありんすぇ。 遺跡まで純粋に一直線で結んだだけなんで、回り道をしないですみんす」
すでに中に入っていないサーラとブリーズお姉様以外のみんなが、その魔法に驚いてしばらく見入っていたわ。
「さぁ早く入ってくんなましね」
ブリーズお姉様の声で我に帰った私たちはおっかなびっくりにその歪みの中に入り込んでいくの。
中に入ると歪みのトンネルになっていて、中でサーラが腕組みをして待っていたわ。




