アンファテアトルム
ブックマークありがとうございます!
また、見にきてくれる方も増えてきているようで感謝です。
御忍びの格好で王宮の入り口で待っているとフィンが手を振りながら走ってきたわ。
「お待たせしました」
「うううん、行こっか」
王宮を出ようとした時に声がかかるの。
「あれ? プリンセスどこかへ行くんですか? でしたら僕もついて行きます」
待ち合わせ場所に慌てた様子でアルバロが来たんだ。
「おう、アルバロ、今日はコンサートを見に行くんだ。2枚しか無いから俺1人が警護につくから大丈夫だ」
うん? 今一瞬だけアルバロが嫌そうな顔をした気がする……もしかしたらアルバロもコンサートに行きたかったのかしら?
「ゴメンね、アルバロ」
「なら僕はコンサート会場の外で待っているから、一緒に行くよ」
今度はフィンが変な顔をしたわ。
「アルバロはそれでいいの? コンサート見たいんじゃないの?」
「いえ、僕はコンサートが見たいのではなくて、プリンセスの警護をしないといけないんですから」
まぁそれでいいのならいいのかな? それにアルバロの格好は冒険者のままだし、会場に行く間に冒険者の事を聞けるかも。 あ、でもあんな事があったばかりだからやめておくべきかな?
「私も一緒に行きましょう」
「あ、サーラ」
そこにサーラも来たわ。 うーん、面倒になりそう。
と思ったんだけど、サーラは会場の側にある冒険者ギルドに用事があるみたい。
「冒険者ギルドに何の用なの?」
「少し気になる事があったので。
アルバロは会場の外でしっかり見張ってください」
ちょっとちょっと、なんだかサーラが言うと凄く危険な感じがするですけど。
そんなわけで私は、フィンとアルバロとサーラとで王都へ向かう事になったわ。
「ねぇサーラ、気になる事って何?」
「……そうですね。 ララにも無関係というわけではないので、もしもの事を考えて話しておきましょう」
それでサーラが言うには、今回のコンサートで王都にファンを装った怪しい連中が紛れ込んでいるらしいんだって。
王宮の守りは堅いからコンサートに集まる一般市民を無差別に攻撃する可能性もあって、サーラが兵士よりも隠密性の高い冒険者に捜索を頼んでみるらしいの。
「それって大丈夫なの?」
「あくまで不確かな情報ですので、念のためです」
「それが本来なら目的はなんなのですかね? それにどこの組織とかはわからないんですか?」
うん、フィンの言う通りだわ。
「おそらくですが、ララが幼少期の頃に侵略してきた野盗の残党ではないかと」
それって6年も前の事じゃない!
そんな話をしていると会場に辿り着いて、サーラはそのまま冒険者ギルドに向かって行ってしまって、アルバロは会場の外を警戒のために動き出したわ。
「アルバロ、気をつけてね」
「……任せてください!」
頷いて答えてフィンと私は会場に入っていったわ。
コンサート会場は元々色々な催しをする場所で、中央のアリーナと呼ばれる空間を観客席で取り囲んでいて、全体としては楕円形の構造をしているの。 いわゆるアンファテアトルム、『周りに観客席のある劇場』よ。
「なっ! 親父のやつ姫様の為とか言いながらこんな遠い席じゃねーかよ!」
チケットに指定された場所はアリーナから一番遠くて、かろうじてコンサートの雰囲気だけは味わえるっていう場所だったわ。
「今の私は冒険者のララなのだからここで十分よ。 入手困難なチケットを手に入れてくれたのだから、感謝こそすれ文句を言ったらダメよ」
「そ、そうですね。 すいませんでした」
「大丈夫、場所は遠くても雰囲気は十分に楽しめるはずよ」
始まるまでまだまだあるなぁ、早く始まらないかな? なんて思っていると急にフィンが私の手をそっと掴んできたから、びっくりして顔を覗いてみたら顔を真っ赤にしていたの。
緊張してるのかな? そう思って私が緊張が取れるようにフィンの手を握り返したら、真っ赤なまま嬉しそうな顔を見せてきたんだ。
これで少しでも緊張がほぐれてくれればいいね。
マクシミリアンの部下? の猫の女獣人も会場に来たみたい。
「ぉぉお! アリーナからは遠い場所だったけど、2人の場所は結構近かったニャア」
猫の女獣人も会場に入って席に着くなり私たちの場所を確認したみたい。
「手を握りながら、仲慎ましげに話をしているみたいだニャ。 きっとコンサートの後にはニャふふな関係になってるはずだニャン……ん?」
さすがシーフといったところかしら。 私たちの事を監視しつつもある音に気がついたみたい。
「このなんとも言えない恐怖心を掻き立てる音は何処かで聞いた記憶があるのニャ……」
音のする方へ顔を向けた猫の女獣人の目に、バタフライナイフをカチャカチャと弄ぶ兎の女獣人の姿が目に飛び込んできたわ。
その姿を見て猫の女獣人は利き腕を押さえながら、声は押し殺したけれど恐怖に引きつった顔に変わったわ。
それもそのはずで、マクシミリアンに助けられる前、猫の女獣人はたまたま居合わせたという理由だけで、あそこにいる兎の女獣人にシーフの命とも言うべき利き腕の指全てを、弄んでいるバタフライナイフでズタズタに切り裂かれたのだから。
その後すぐにマクシミリアン率いる王国兵に助けられて、治療して事なきを得たようだけれど、その事があってから猫の女獣人はマクシミリアンに付き従うようになったみたいね。
「ニャンであいつがここにいるんだニャア」
獣人族はその動物の特性を持っているのだけど、猫の女獣人は聴覚と視覚に優れている特性を生かして静かに息を潜めながら、私たちの監視を忘れて兎の女獣人を観察しはじめたわ。
そしてその兎の女獣人だけど、バタフライナイフを弄びながらも頭から伸びた大きな耳だけはピクピクせわしなく動かしているわ。
「あねさん、ビンゴっす。 ここにやっぱララノアが来てるらしいっすよ」
「まったくいいご身分だねぇ。 早いとこ場所の特定をしておきなよ。 たぶん席は後ろのほうだよ」
「あねさんの視野は広くて索敵には長けているけど、個人を探すのは苦手っすからね。
それで何が聞こえたっすか?」
「さっき姫様とララという声を拾ったんだ。 おそらく2人、1人は男、もう1人は女の声、それがララノアだね」
メチャクチャ私たちピンチじゃない!
もちろんそんな事これっぽっちも気づいてないんだけどさ。
どうやらまた怪しい雰囲気になってきましたね。




