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1話 新魔王の戦略


「おぉ!!予言の書に書かれし、異界の勇者よ!人間界はいま魔王軍によって侵略されておる。このままでは人類は滅びてしまう。魔王を倒してもらえぬか?」




異世界!勇者!!魔王討伐!!そうやって始まり6年。僧侶、精霊使い、魔術師という勇者以外前衛で戦える者が居ないパーティの四人で、旅をしてとうとう魔王の部屋の前までたどり着いた。


「みんな体調大丈夫か?俺以外みんな体力自信ある訳じゃないのに休憩なしで進んでごめんな。でも、これで最後だみんな頑張ろう!!」

勇者の声で疲れ切っていた仲間たちに笑顔が戻った。


「頑張ろう!!」 「ここまで来たら、すぐ倒して帰ろ~。」 「・・・負ける気がしない・・・」

四人は禍々しく、とても強い殺気を放っている魔王の玉座の扉を開いた。


ーーギイィィィーー





「・・・さま。」

「魔王様、起きてください!!またよだれを垂らして、どんな夢を見ていたんですか?」

魔王と呼ばれた少年が顔を見上げると、20歳くらいの女性が見つめていた。


少年は両手を広げ体を伸ばしながら、

「おはよ。シルフィ。なんか僕が勇者になった、変な夢見たんだ。それで、魔王と戦う直前に起こされたってわけ。自分が魔王なのに変だよね。」


「いえ。そんなことはございませんよ。今までの歴代魔王様も魔王就任時に先代魔王様の記憶を受け継ぐのですから、よかったです。魔王様が就任されてから1か月たっても記憶を受け継いでいないと、城内でも不審に思う輩や、再選出をと言う輩もいましたから。」

シルフィと呼ばれた女性は、胸に手を当てながら安堵した様子を浮かべた。


それに対し、少年は不満そうに

「魔王様じゃなくて、九魔統汰くまとうたって名前あるんだから、名前で呼んでよ。あと、1週間もかかる出来の悪い魔王で悪かったね。」


「申し訳ありません。統汰様。魔界9つの魔を統べ、洗い流すという素晴らしい魔王にぴったりなお名前ですからね。歴代魔王に比べ魔力こそ少ないですが、そのハンディがあってもなお魔王に選ばれるということはそれだけ人望、潜在能力があるということですよ。」

シルフィは心の底から思っていることを言った。


「まぁ、9種の魔族、竜族、エルフ族、鬼人族、悪魔族、死霊族、闇人族、獣人族、魔虫族、そして幻の魔神族のうち、魔虫族とエルフ族以外はまだ探せてなかったり味方かはわからないから、名前負けしてるけどね。」


ーードタドタドタッーー


ものすごい足跡を立てながら、魔虫族の兵士が入ってきた。

「ノックもしないで、魔王様の玉座に入るとは何事だ??これだから、9魔族最下位の魔虫族は・・・。」

シルフィは嫌悪感をあらわにしていた。


息をあげながらその兵士は、

「陛下ッ。先ほどの無礼お許しください。しかし急ぎお伝えしなければならないことがありまして。王都より1か月ほど前に周辺偵察に行き、行方不明となっていた魔虫族が反乱を起こし王都に攻め入ろうとこちらに迫ってきております。」


「なに?我が就任してすぐに偵察に行かせたものたちがだと??数はどれくらいだ?」


「約500程いる模様です。」


「なに?ご、500だと?そんな、ばかな?」

統汰は部下の前ではなるべく威厳を保とうと努力をしていたが、驚きを隠せなかった。しかし、それも無理はない。偵察をさせる時に送ったのは100人程度だったからである。それが、5倍にしかも敵となって攻め入ろうとしているからである。


気持ちを持ち直して言った。

「偵察に行かせたときは30人程度の小隊を3隊だったはずだが?」


「おそらく、陛下の側近の多くは魔虫族と仲の悪いエルフ族ですから、エルフ族に偵察という名目で左遷されたと考えたのでしょう。」


「やはり我は、エルフの傀儡の王に見えるか。」


シルフィは困惑しながら答えた。

「そ、そんなことはありません。魔王あっての9魔族です。統汰様を操ろうなんて輩はおりませぬ。」


「エルフ族が裏切るとは思っておらぬよ。取りあえず、そこの兵士よ。我が王都の兵力と敵兵力を詳しく聞かせよ。」


「敵兵は前方に甲殻類系魔虫200、中衛に人型カマキリ200、後衛にスライムが100ほどでございます。対してわが軍は、弓矢兵のエルフ40、低級魔法兵のエルフ20、甲殻類系魔虫20、スライムが10でございます。」


「ふむ。そこの魔虫族の兵士よ。名をなんというのだ?」


「カビツムイと申します。」


「よし、カビツムイよ。スライムは城内の警備に回す。敵に関しては同族であるそなたが一番詳しいだろう。今回の戦いに関してはそなたが指揮をとれ。根絶やしにせよ。敵将を捕まえ次第、公開で見せしめにいたぶり時間をかけ処刑するのだ。」


「ハハッ!了解しました。必ずや期待にお答えいたします。」

淘汰の冷徹な判断に恐怖を覚えたが、膝をつき忠誠を誓った。


「一時間で準備を整え、その後兵を配置せよ。」


「ハハッ。では失礼します。」

そういい、カビツムイはぺこりと頭を下げ部屋を出て行った。


「魔虫族に指揮を執らせて良いのですか?せめて私が・・・。」


「いいのだよ。これは戦略だよ。敵の400人はおそらく1月前に偵察に行った兵から、エルフ族が魔王の代わりに実権を握っている。エルフ族を倒そうとでも言って仲間を増やしたのだろう。だからあえて、こちらの将を同族にしてやることで、敵の士気の低下と混乱を招くようにするのさ。」


「しかし、知能の低い魔虫が指揮官では・・。」


「それを言ったら、エルフに知能で勝てるのはせいぜい竜族、魔神族くらいだろうよ。それに戦術に関しては大丈夫だ。実はな・・・」

そういって、不敵の笑みを浮かばせながらシルフィに耳打ちした。


ーーー 王都城中庭 ---


カビツムイは大きな声で言った。

「全兵士に次ぐ。今回の戦の指揮は私がとることになった。これは陛下の命である。今から配置について説明する。」

そういって、隣にいた人型の虫族が説明を始めた。

「まず、王都外壁の上にエルフ低級魔法師、弓矢兵を置き、敵を一定数撃破後、甲殻類系魔虫が敵軍に突撃せよ。そして、敵将は生け捕りにし、その他敵兵は戦意喪失まで撃破せよ。我が魔王軍に勝利を!!」

ーーうをぉぉーー


士気の高まった魔王軍を城の窓から見ながらシルフィはこう言った。

「なぜ、カビツムイとやらの戦術が分かったのです?」


「甲殻類系魔虫は外殻が硬くて、いくらエルフの弓といえど倒すのは難しい。でも魔虫族は炎に弱い。だから魔法師の火魔法で倒す。人型カマキリは外殻はそうでもないからエルフの弓で倒せるし、甲殻類系魔虫の方が接近戦では有利からな。人型カマキリ出てきたら、弓と甲殻類系魔虫の接近戦。頭の弱い魔虫族なんてその程度しか考えられないから分かりやすいんだよ。今回指揮させた本当の理由はこっちだよ。上に立つ者、部下をちゃんと把握できなきゃね。」


「なるほど、今回は複雑な戦略でない方がよいという判断ですね。それならエルフよりも、適任というわけですね。」


「そそ、じゃあ戦闘はここから見たいからシルフィの魔法で映して。」


「分かりました。えぃ!!」

そういって呪文を唱えると壁に映し出された。


ーーー 王都外壁 ---


「敵が来たぞー。魔法用意!!放て!!」

ーーバゴン、ドゴン、バゴン、ドゴンーー


「エルフの炎魔法だ!!避けろ!!」「指揮官が同族じゃないか!!話と違うぞ!!」

魔王軍の思惑通り前衛は混乱しているようだ。

「前衛はだめだ。中衛部隊進め!!」


「こちらも弓部隊、甲殻類系魔虫部隊で迎撃せよ!!」

ーーうをぉぉぉーーシュッ、ズバッーー


しかし、いくら相手が混乱し状況が悪いといっても、元々の兵力差は500対80と6倍以上もある。

魔王軍は次第に攻め込まれていった。


「指揮官このままでは門を破られます。どうしますか?」

カビツムイは戦闘前勝てると楽観視しすぎていた。このままでは、、と思うものの良い策が出てこない。

それを城から見ていた、統汰はニヤッとして一部の魔法師にテレパシーを送った。

「作戦B実行せよ」

そういうと、魔法師たちは城に居るはずのスライムを敵に投げ始めた。そして、魔法師は一斉に炎の魔法を唱えた。

ーーボウ、ババゴーーーンーー


城壁の外は火の海となり、仲間、敵もろとも燃やし尽くした。


シルフィはそれを見て疑問に思った。

「統汰様??あの火力はいったい?何をされたんです??」


「スライムに油と燃焼材を食べさせたんだよ。スライムにはいくつか種類がいるけど、魔王軍のスライムは蓄積倍化型だから食べさせるほど食べたものの効果が上がるからね。魔王軍が突っ込めば、敵も突っ込んでくる。特に頭の弱い魔虫族はならなおさらね。だから、味方もろとも焼き尽くしたのさ。」


シルフィは感激していた。

「さすがです!!統汰様!魔王様としての知略、心に響きました!!」

そもそも、魔族に仲間意識は人間よりも薄い。しかも味方、敵共に焼け死んだほとんどが嫌悪している魔虫族であるためエルフであるシルフィにとって、統汰の行動を否定するはずがない。


「シルフィ。敵に勝って嬉しいのはわかるが僕に抱き着くな。苦しい。」

シルフィはハッと自分のしている行為に気付き赤面しながら、

「す、すいません。取り乱してしまいました。無礼講お許しください。あっ、見てください。敵の将が捕まって街中で処刑をするようですよ。」


「さて、どうするかな。」

そういうと、頭をポリポリ掻きながら統汰は立ち上がった。


ーーー その頃王都広場 -ーー


敵将の女はカビツムイをにらめつけながら言った。

「はなせ。私は同族だぞ。何するんだ!!」


「ふはは。これは、これは魔虫族女王アンリ殿。たしかに貴女は同族だが私は魔王陛下に使える身。反逆は重罪だぞ?たとえ女王でも結果は同じだ。」

カビツムイはそう言い、民衆の方に向きなおして、

「皆の者、この者は魔虫族女王にして反逆者アンリだ。この王都を脅かした罪で処刑する!!異論があるものはいないか??」


ーーいいぞ!!殺せ!!やっちまえー。--

民衆はお祭り騒ぎ状態になっていた。中には、アンリに石や物を投げる者もいた。


「どうだ?これが国民の反応だ。反逆したことを後悔するんだな。今謝って命乞いすれば、助けるように進言してやってもいいけどなぁ」

恥辱に顔をゆがませながら、

「す、すいませんでした。わ、私が間違っていました。命だけはお助けください。」


カビツムイは自分の言いなりになっている元女王を見ながら、

「ブワァーカ。嘘に決まってるだろ。そんなに命が欲しかったか。こんな臆病者の下で働くなんて、お前の部下は可哀想だなぁ。("゜д゜)、ペッ」

カビツムイは恐怖にゆがんだアンリの顔を持ち唾を吐きかけた。

「今から処刑を開始する。3、2、1・・・」


ーーまてっ!!--


カビツムイを含めた全員が声の方を向くと、魔王統汰が立っていた。

「処刑を止めよ。今をもって、この者を我が所有物にする!!」

そう声を張ると、アンリの方に近づいた。

「女王アンリよ。部下の粗相を許せ。手続きの後で我が玉座に参れ。」

「は、はい。ありがとうございます。魔王様。」

「皆の者今戦は見事だった。これからもよろしく頼むぞ。」

統汰はそう言い城へ戻って行き、追いかけるようにカビツムイがついていった。

「陛下なぜ、あの女を助けたのです?仮にも陛下の首を取ろうとした大罪人ですぞ?」


「我の作戦よ。お前に今回の指揮権を与えたら、必ず処刑するだろうと信じていたのだよ。同族にを相手にしても我についてきたお前ならな。」


「ではなぜ処刑しなかったのです?」


「女ってのは単純だ。窮地に追いやられた時に、助けに来たらたとえ敵の将だとしても白馬の王子様に見えてしまう物さ。しかも、相手が魔虫族の女王となれば、今後大きな戦力となろう。」


「つまり、私が非道な行いをし、処刑をすることを予想されたうえで、私を指揮官に選んだということですか?さすがです陛下。」

カビツムイは自分のはるか上を行く魔王に対して、恐怖の念と尊敬の二つの感情を覚えた。


「カビツムイよ。あの女を手続きをした後、我が玉座に連れてまいれ。おぬしには、褒美も与えなければな。」

そういうと、大きな笑い声をあげながら、城の中へ入って行った。


2話へつづく。



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