悪魔の使い
さっきから、悪魔はテンションが高くて仕方がない、よっぽど俺が戦ったことが嬉しいみたいだ。
『よくやった、よくやった。ほんとに楽しかったな。さあ、この場は早いとこ撤退するのが吉じゃ』
まあ、その通りだろう。俺の血まみれ、肉片が服に付いている。さながらB級映画の殺人鬼だ。
これをみて、俺のことを善人と思う人はいないだろう。
――いや、俺は街に迫る敵を倒した英雄なはずだ。
「おい、なんで俺がにげなきゃいけないんだ?」
『悪魔の助言はなにも考えずに従うものじゃぞ、すぐに教えてやるから安心せい。さあ、せっかくモンスターの魔素を回収していくぞ、ここが魔法の世界と言うことを忘れたかのように剣だけで戦いよって、唱えるのじゃ【コレクト】と』
「【コレクト】」
唱えると、周りの死体から光が手に集まり、石のようなものに変化した。
『これがこの世の第二の硬貨、魔素じゃ。まあ説明は後じゃな、早く逃げるぞ』
後ろを振り向くと、門が開き兵が向かってきている。
確かに、英雄を称えるような雰囲気ではない。兵達が緊張していることが表情や、その挙動に現れている。
この場にいたら戦闘になる、逃げよう。
しょうがなくので、俺ははじめの森に向かった。
森の中でも目を使えば簡単に小川をみつけることができた。
もう、森を恐れる心配もないのかもしれない、そんなことを思いながら川で服を洗う。
まさか、川で洗濯をする日が来るなんて。ほんとに笑い話だ。
――で、あれはなんだったんだ?
『モンスターじゃよ、コボルトと呼ばれておる。』
聞いたことがある。気がする、異世界転生の有名人だな。
『一番簡単な魔物で、ぬしの存在に気づいた神が急いで作ったのだろう。あの程度にヤラれるとは思っておらんかったがここまで圧勝できるとは思っておらんかった。よくやったぞ』
「なんで、神が俺の命を狙うんだ?」
『不思議なことを聞くやつじゃの。悪魔の使いだからに決まっておるじゃろ。あー、おかしい――』
悪魔の笑い声は可愛いのだが、今は忌々しくてしかたがない。
「笑うな。しかもそのことを知っていたな」
しばらく、一人で笑ったあとようやく悪魔は話しだした。
『人、一人を異世界に転生させたのじゃぞ。まあその程度で気づくほど仕事熱心なわけではないがな。』
「じゃあ、なんだって言うんだ?」
『教会で開けた箱があったじゃろ、あれで世界に穴を開けたのじゃ、そのせいでバレたんじゃろうな』
「なのせいで、あんなにことに…」
『穴が開かないことにはわしはこの世界でぬしと話せんからな、しょうがないじゃろ。』
しょうがないっちゃ、しょうがないけども。悪魔と話す代償が神様に睨まれるってのは代償としてどうなのか……
だいたい、街に篭っていても良かったんじゃないのか……
『そう唸ってもしょうがないぞ。神も我々の場所を知るすべは殆ど無い、今回だけじゃよ』
「そうならいいんだがな、どうせまたすぐモンスターの軍隊が俺を襲ってくるんだろ。」
悪魔との会話を重ねれば重ねるほど、俺が悪魔の使い。神の敵であることがよくわかって悲しくなる。
悪魔が言うには今回の戦闘はしょうがなかったみたいだ、モンスターを皆殺しにしたおかげで俺が箱を開けた時のマーキングのようなものは無くなったらしい。よくわからないが。
これでとりあえずは神達は俺達のことを見失ったらしい。これでしばらくは安全だ。
街を出たのも教会の力から一旦離れるためらしい。
それよりも困るのは次見つかった時のようだ。
突然のことでこの程度の敵だったが、次は神側もしっかりと作りこんだモンスターの軍隊を送りこんでくるみたいだ。
次の戦闘は今回の比でないようだ。
「どうしたら、俺が悪魔の使いだとバレるんだ?」
『うぬ、一番わかりやすいのはぬしの目じゃ。悪魔の目は太陽が登っていない時間になると赤く輝きだす、それを聖職者に見られたら一発アウトじゃな。他にも神の使いとかにも見られたら伝わるじゃろ。』
街の守兵も目の光をみたから俺のことを警戒していたのだろう。
太陽は登っている時は暗闇でも大丈夫みたいだし、夜も魔力を目に通さなければ輝くことはないらしい。
悪魔なのに夜の活動に制限がかかるとは、なんと不便か……
「じゃあ、あの街には帰らないほうがいいのか?」
『そうじゃな、このタイミングで街に入るのは賢明ではないじゃろうな』
はー、そんなんだったら宿もとらなかったし。
旅に備えて色々買っておいたのに。
愚痴ってもなにもかわらない、服に着いた血もおちた、ニオイはまだ残ってはいるが妥協点だろう。
悪役はこそこそ逃げるとしよう。