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【9】6月15日+光星

昼休み。


渡り廊下に呼び出された。


誰に?って…、麻生さんに。



「1年4組、姫野真実。中学の時はバスケ部に所属。家族は父と兄が二人。住所は――」



ノートを片手にすらすらと個人情報を読み上げていく麻生さん。



「姫野くん曰く、千星さんの事、美人で背が高くて格好良くて、何より正義の人ですって」

「あ、あの、麻生さん…。その情報どこから…?」



俺は呆気に取られながらも、誰もが思うであろう疑問をそのまま口にする。



「あら、私に得られない情報なんて無くってよ」

「そ、そうなんだ…」



得意気な瞳を見せ付けられ、それ以上何も言えない。



(それより、“正義の人”って何なんだ?)



姉さんは、アニメか特撮のヒーローかよ……。











窓の外は真夏を感じさせる日差しの中、校庭の片隅で3オン3をしている男の中に、姫野真実が居る。


遠目からでもすぐに分かる。


あの中で、一番背が低い。でも、動きは速く、ジャンプも高い。決して負けていない。


自然と目が姫野だけを追ってしまう。


シュートを打つ。


ボールは弧を描き、リングに吸い込まれていく。


背に翼を有するかのように、軽く、ふわりと…。


彼は、そんな少年だった。


釘付けになる。






       *      *      *






その日、学校から帰ると家にはエプロンを身に付けた姉さんが居た。



「光星、お帰り!ちょっと、手伝って!!」



今日の晩ご飯の当番は姉さんで、我が家は両親共働き。


俺と姉さんとで、ほとんど家の事はしている。



「先に着替えてくる。――ところで、今日は何?」

「ポトフというものと格闘中!」



ふ~んっと言って2階に上がる。


そう言えば、春休みに“五十鈴のおばさんに料理教えて貰った~♪”って言ってったっけ。


食事はいつも二人。


父さんも母さんも仕事第一主義の人。良く言えば、放任主義。


なので、家族が揃う事は無いに等しい。


でも、俺には姉さんが居るから独りじゃない。



「な~に~?さっきから難しい顔をして」

「え?――あ、そうだ、コレ!麻生さんから姉さんに」



ノートを手渡した。


それは、今日の昼休みに麻生さんから渡されたあいつの個人情報満載ノート。



「つかさから…?」



表紙をめくって「げっ!!」と、ひと言。


見る見るうちに姉さんの眉間に皺が寄って行く。


即、ノートが閉じられた。



「コレを私にどうしろと?」

「さぁ?」

「“さぁ?”って…。つかさは何て言ってたの?」

「“付き合えばいいのにね”って言ってたけど」



じろっと睨んでくるけど、軽く流す事にする。



「五十鈴ちゃんとは、物凄く仲良くなってるけど」

「――っ!!!」



五十鈴ちゃんは姫野と初めて会った瞬間から何か通じるものがあったのか、その場で意気投合してしまい、誰よりも仲良くなってしまった。


今では“マコトくん”と呼んでいるほど。


姉さんは、少し嫌そうな困った顔をしている。


五十鈴ちゃんの直感と本能には勝てない。


と言うより、皆、俺も含めて五十鈴ちゃんには甘い。



「とにかく、付き合う気なんて、無いからっ!!」



相変わらずだと思う。


それは――まるで、ファイアウォール。


無断で侵入しようとする者から常に防衛している。


そして、辿り着けるのは姉さんが許可した者だけ。

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