【59】10月13日+③
気が付くと、姫野家の玄関前。
どうして?自分の家じゃなくて、こっちの来たんだ?
勝手に一人でメラメラしてたから?意識が有ったような無かったような…。
無意識に歩いていたなら、私、マジでヤバい!!
まさか、夢遊病?!
「千星先輩?先輩も、上がってって下さい」
玄関先でぼーっと突っ立っている私にマコトが声を掛けてくる。
光星は、ささっと先にお邪魔してるようで、奥から大河さんの大きな声が聞こえてくる。
「お、お邪魔…します…」
「千星子~~~~~~!!!!!」
相変わらず、どどどどーーーっと廊下を駆けて来る大河さん。
いつもの私なら、スっと身をかわすのに今日に限って出来なかった。
「ひっ?!!!」
「千星子~~!!よく来たの~~~!!!」
腰をガっと掴まれ、持ち上げられる。
良く言えば、ちょっとしたダンススケートのペアみたいに華麗にクルっと回る。
悪く言えば、“高い、高い~~!”をされている赤ちゃんと同じであやされている。
「わわっ!!お、降ろして!大河さん!!!」
「千星子は、いつ見ても美人じゃの~、可愛いの~~」
そう言って、なかなか降ろしてくれない。
当然と言えば当然で、私はまだ靴を履いたまま。
大河さんに抱き上げられ、宙ぶらりん状態。
そんな私の靴をマコトが脱がしてくれる。
そして、漸く、ゆっくりと降ろされる。
「た、大河さん!!小さな子供じゃないんだからーーっ!!」
フンっと怒っても、大河さんは“ほ、ほ、ほ~”と笑うだけ。
「ワシから見れば、千星子は、小さな女の子じゃ~~」
「そこで、3人で何してるの?早く上がれば?」
光星が台所から、顔だけひょこっと出す。
――“早く上がれば?”って…。ここは姫野家なんだけど…。
テーブルに着くと、光星はすっかりここを自分の家と同じように、光星が手馴れた感じでお茶の用意をしている。
それぞれ、自分の前に温かいお茶が入った湯のみが出される。
「この湯のみ…」
「ワシらとお揃いのを用意したんじゃ!」
「………」
色違いの仔犬が描かれた、とてもファンシーな湯のみ。
「千星子は、こういうの好きじゃろ?」
「………」
うん、好き。
癒し系の可愛い仔犬。
見ているだけで、ポワンっとする。
「これからも、いつでも好きな時に遊びにおいで。ワシ、待ってる」
「………」
“ワシ、待ってる”って、そんな可愛く言っても似合わない!
第一、いつも強引に誘うくせに!ここの男どもは!!!
「気が向いたら、来る、と思う…」
ぶっきらぼうに答えたのに、大河さんは満足そうにガハハっと笑った。




