【11】6月25日+千星
初めて、五十鈴に会ったのは中学の入学式。
あの笑顔を見た瞬間、心を鷲掴みにされてしまった。
女の子相手に“心を鷲掴みにされた”なんて表現はおかしかもしれないけど…。
これ以外に、適切な言葉が見つからないのだから仕方が無い。
確かに、あの時、私は五十鈴しか見えてなかった。
五十鈴は、私が欲しくて、なのに手に入らないものを全て手にしてるような少女だった。
暖かな家庭と家族。
愛されているという満足感、守られているという安心感。
誰にも優しく、誰からも優しくされていて…。
羨ましいとか、妬ましいとか――。
それ以上に、一緒に居るだけでそんな感情が浄化していくから不思議。
入学早々、中学の制服のスカートが慣れなくて――。
「足がスースーして、落ち着かない」
と、言ったら
「わたしもそうだよ」
と、五十鈴が言う。
「でも、千星ちゃんはモデルみたいに背が高いから、何でも似合うよ~!わたしも千星ちゃんみたいに大きくなりた~~い!!」
「何、言ってるのよ!男の子に間違われるわよ!!」
そう言うと、きょとんとした顔を見せる五十鈴。
「ヤだ~~、千星ちゃん!間違えたりなんてしないよ!だって、千星ちゃんは千星ちゃんだもん!!」
と、五十鈴は無邪気に笑う。
その笑顔は――まるで、クリスタル。
五十鈴の中では、私は――男とか女とか性別なんて関係無く“千星ちゃん”は“千星ちゃん”として認識してるようで。
他の誰でもない、私はありのままの私であっていいのだと、思う事にした。




