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今からここを支配します。  作者: 鈴白
この世界での最後の日
3/4

3

会場に着いた。というか

俺の家に着いた。

いや、意味がわからないと思った人はそれでいい。それが当然だ。

しかし実際そうなのだから他に言いようがないのだ。

もう一度言おう。

あの本屋から全力で走ってきた俺は、会場もとい俺の家に着いたのだった。

走っている途中で馴染みのある道だと思ってはいたがまさか自分の家とは。

よく見ると鍵が開いているし、これは不法侵入ではなかろうか。

いろいろ考えるところもあるがもうどうでもよかった。

そうだ。考えを改めよう。

俺はここに住んでなどいなかった。いつものように適度な緊張を持って面接に挑む。

……よし、これでいこう。

気持ちを改め、服装を整え、俺はここに初めて来たていでドアをノックした。



ドンドンドン



「新聞なら間に合ってま~す」

「ぐっ」

予想外だった。これは完全に占拠されている。

中から聞こえたのは女性の声。今の俺とは全く逆の不抜けた声だった。

いろんなことを受け入れてきたがこれはさすがに頭にくる。

だが、こんなことではいけない。

前向きに考えるのだ。俺は試されている。

もう面接は始めっているのだ。

今一度息を整え、もう一度ノックする。



ドンドンドン



「すみません。面接に来ました六堂です」

今度はこちらから声をかける。これはさすがに無視できまい。

ゆっくりと扉が開く。が、一応チェーンは掛けてあるらしく半開きで止まった。

中を覗こうとしたが、締め切っているのか暗黒が広がっているだけだった。

しかし、気配は感じる。空いたドアから誰かが俺を見ていた。

「……証拠」

「はい?」

「さっさと証拠を見せろと言っている」

ドアから細くて白い手が伸びてきた。

証拠。と言われたが特にこれと言って思い当たるものはなかった。

そもそもなにを証明するものを渡せばいいのかさえ定かではないのだからどうしようもない。

なので俺はそのわきわき動く小さな掌に「この間の打ち上げで使ったまま偶然カバンに入れっぱなしだったロングのカツラ」を握らせてやった。

そしてそれを握った手はゆっくりと中へ戻って行った。

しばらくして再び掌が現れた。

「貴様、ふざけているのか」

「ふざけるも何もいったい何を渡せば……」

「だからってカツラを渡す者がいるかこのハゲ」

「なっ!? 俺はハゲじゃねぇ!」

「もういい。さっさと入れハゲ」

チェーンが外され、ついにドアが開いた。

言い回しが気に食わないがひとまずい俺は中に入ることにした。

「失礼します」

一応礼をして、玄関をくぐる。

部屋は真っ暗ではあったが外から見るよりは家内の様子を確認できた。

目の前には少女が一人。顔は見えないがおそらくこいつが受け答えをしてたやつだ。

「御託はいい。はやく上がれハゲ。あとこっち見んな」

俺の拳に力が入る。

落ちつかなければ。ここは大人の対応。それに面接会場なのだから下手なことはしないように。

「それで、私はどうすれば」

「かしこまるのをやめなさいハゲの分際で」

「うっ……ぐっ……それじゃあ、俺はどこに行けば?」

「リビングに行きなさい。そこで話を聴いけ、以上」

偉そうな態度にいらつきがおさまらないが、それでも精一杯にそれを押さえていつも家にいるときの感覚でリビングに足を向ける。

確かこの辺だったはずだ。

軽くノックし、扉を開ける。

「失礼します」

一応挨拶。

「失礼されます」

またも妙な返答。物腰が柔らかそうな声ではあるがどこかイラッとくる。

「まあ、汚い部屋ですがどうぞ適当におかけくださいな」

「汚いとか言わないでください」

とりあえず椅子に腰を掛け面接官らしき人影に向き合う。

「それで、何の用かしら?」

「面接です!」

「ああ、そうでしたね。うーん」

どこか抜けた人のようだが、こんな人が面接官で本当にいいのか。

もし受かったとしてこんな人と一緒に働くことになると思うと不安になってくる。

「早く始めてもらえますか」

わざといらつきを見せるような声で問う。

正直さっさとこの人たちにお帰りいただきたかった。

「合格!」

「……え?」

「合格よ」

「いや、え? まだ何もしてませんけど」

「気にしない気にしない。あ、林檎でもどうぞ」

「……どうも」

差し出された林檎らしき物体を口に放り込む。

甘くてみずみずしくて結構おいしかった。

「おいしい?」

「はい」

「それはよかった」

なんだか調子がくるわされる。いったいこの人は何を考えているのだろう。

林檎を噛みながら俺はそんなことを考えていた。

「さっそくだけど六堂くん」

「なんでしょうか」

「お仕事を頼めるかしら」

「内容次第ですね」

「とっても簡単よ。ちょっと遠くまで出張に行ってしばらくそこに住んでほしいの」

「住むだけですか?」

「そう、住むだけ。その間はなにをやってもいい。君次第」

「んー、本当にそれだけですか?」

「それだけ」

妙な内容だが、まあ仕事は仕事だ。

雇われてまだ五分と経っていないがそれでこの人たちと別れることができるなら早くにそうしたかった。

「分かりました。お受けします」

「ありがとう。それじゃあさっそく向かってもらうわ。ロナ」

「およびでしょうか」

突然隣で声がしてびっくりしたがどうやら始めからいたようだ。暗闇で気づかなかった。

「あとはあなたに任せるわ。あっちのこといろいろ教えてあげてね」

「らじゃーです」

もう俺は黙って流されることにした。その方が楽な気がする。

ロナと呼ばれた少女は俺の裾を引っ張ってくる。

「それでは行くとしよう」

「どこへ」

「着いたら説明する。それでは少しの間寝ているといい。せめて良い夢でも見ているといい」

そこで意識が途切れた。最後に覚えているのは首元にかなりの衝撃を受けたことだった。


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