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わたあめの屋台

あたしが15歳の誕生日を迎えたとき、あたしは一人ぼっちだった。

両親が居ないとか、天涯孤独な人生とかいうのではなくて、「友達がいない」という意味での。


小学校で友人関係に失敗して、それ以来中学校でもそんな感じのまま、8月15日の誕生日を迎えたのだ。

15歳。

中学校最後の歳。最後の夏休み。

高校になったら知り合いの居ない、遠い学校に行こう。

自然とそう決めていた。


*******


自室のベットにゴロンと寝転がると、予定の入っていないスカスカのカレンダーが見える。

はあ、とついため息が漏れてしまう。

こんなに時間が余ってるなら、足りない人にあげれたらいいのになあ。

なんて考えても仕方ないことを考えていても仕方がない。

調度服を買いに行こうと思ってたんだし、暇つぶしに出かけようじゃないか。



「お母さーん、あたし買い物に行ってくるね」

「え、あら急なのね」

ドタドタと騒がしく階段を降りるあたしに、あらあらと繰り返して言うお母さんを置いて、あたしは出かけた。


家から5駅のところにあたしの目的地はある。

若者たちが吸い寄せられるように群がるファッションビルだ。

あたしが好きなこの「ごちゃごちゃした街」は辿り着くのに、チラシ配りやキャッチ、それからナンパなどいっぱい難関な箇所がある。

それもこれも私の外見が大人しそうなのが行けないのかもしれない。


そして今日も…

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんや」

またナンパかな。それともキャッチ?そう思ったあたしは歩調を速める。こういうのは無視に限る。

するとベタっとフワっと、そして白いものが視界を覆った。

新手の押し売りだろうか、髪についたベタフワな物体を取り除くと目の前には、幼稚園の子供達が喜びそうな、白ひげのおじいさんが立っていた。


「お嬢さんや、わたあめはいらんかね?」

ふぉっふぉとおじいさんは笑う。あたしはどん引き。

「おいしいおいしいわたあめじゃよ?」

おじいさんは続ける。あたし、黙る。


何が起こったのか理解しきれないあたしに、おじいさんは「これを食べれば、どんな悩みもひとっ飛びじゃ」と少々間違った日本語を使って、あたしにわたあめを握らせた。

おじいさんの引くお店は凄くファンシーで、絶対一目を引くはずなのに皆は気にしない。

最近は出没多発なお店なんだろうか、と頭の中で?がマイムマイムを踊っていると


「この店はの、あともう少しで悩みから抜け出せる者にしか見えない店なんじゃ」

「悩みから抜け出せる者?」

疑問ばかりのあたしに、おじいさんは満足気に頷く。

「そうじゃ、あんたのような運悪く『悩みのひずみ』に引っかかっちまった人たちを抜いていく店なんじゃ。ひずみにひかかってない者には見えんよ。」

「じゃああたしは一人で虚空に向かって話しかけてることになるの?」

「いいや、今、嬢ちゃんは世界の裏にいるからそんなことはない。」


おじいさんは続けた。

世の中には自分が悪くないのに、理不尽な怒りをぶつけられることがある。ぶつけられるだけならいいが、その上に次から次へと理不尽な降りかかってくることがある。

それはその人の悩みの種となり、自分たちの足元に割れ目を作ってしまう。そして、その自分の割れ目にひかかってしまった人間は、なかなか自分で割れ目から抜け出せることは出来ない。それを救うのが、わしの仕事じゃよ、と。

最近の日本はストレス社会だから余計、ひずみにひかかってしまう人間が多いのだそう。


「そこでじゃ。お嬢ちゃんよ。今の『ひずみ救助隊』は慢性な人員不足じゃ。このわたあめと『ひずみ』からの脱出を引換に、『ひずみ救助隊』に入ってくんか。」

「えぇ!?今のであたしの悩み解決できたの!?」

「もちろんじゃ、今のわたあめを食べると足元のひずみをパテの役割で埋めてくれるんじゃ」


おじいさんの必死さは伝わってきた。これが夢でも面白いじゃないか。


「いいよ。やったげる。」

「おお、本当か!じゃあキミにはこの屋台を譲ろうじゃないか。」

おじいさんは某ネコ型ロボットのような手つきで、自分のポケットから私サイズの屋台を出してくれた。

淡い青色のパステルカラーの屋台。雲やキャンディーの飾りが可愛いやつ。


「これでお嬢ちゃんも『ひずみ救助隊』の一員じゃ」


ふぉっふぉと笑うおじいさんとは時々裏の世界で出会う。

接客中だったり散歩中だったり。表の世界ではおじいさんは何処に住んでいるんだろう?

『ひずみ』から脱出したことで学校生活も楽しくなってきた。


今日もわたあめの屋台を押してがらがら歩く。

迷い込んだ悩みにはまった人を探して。



「おーい、お兄さん。わたあめは要らんかね?」




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