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光ある国  作者: 深縁
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第8話 知らぬ間に話は進む






リーは宿屋に落ち着いてすぐ、フェイに事情を聞いて口を開いた。



「主が悪い」



一刀両断。


ギラギラと目を怒りで光らせながら主を睨みつける。

その視線を真っ向から受け止めて、フェイは困って眉根を寄せる。


「乙女の唇を強引に奪うとは何事ですかっ!そんな子に育てた覚えはありませんよ!!」


なおも口を開き、主であるフェイを糾弾する。

それをローが少し離れた場所に所在無く立ち、見ていた。


「お前に育てられた覚えは―」

「何ですか?」

「…何でもない」


お説教は1刻にも及ぶ。

そろそろ止めるべきだと思ったローがリーに近づく。


「そろそろ落ち着け」


スッと冷たい水の入ったコップを差し出す。

リーは、差し出されたコップを奪うように取り、治まらない怒りと共に喉の奥に流しこんだ。

冷たい水にやっと怒りが下火になる。

同じようにフェイにコップを渡しながら、ローが口を開く。


「フェイ様のしたことはもう済んでしまったこと。これからのことを考えるべきだ」

「―…そうだな」

「…」


ローの言葉にピクリとリーの口の端が反論したそうに反応したが、口から出てきたのは同意の言葉だった。

フェイは無言。


「彼女をどうするのですか?」


強い視線と困惑した視線が左右から注がれる。

視線に促されるようにフェイは口を開くが、またそのまま口を閉じた。


「見たところ、見たことのない服装でした。この周辺の生まれではないでしょう」

「黒い瞳は珍しいものです。この国には無い色です」

「何処からか連れて来られたとか」

「いや、出会った状況的にそれはありえないだろう。暢気に転寝をしていた様子では旅人辺りが濃厚だろう」


フェイを置いて2人の話は続く。


「しかし、旅をして来たにしては持ち物が無さ過ぎだ」

「そうだな…」

「素性も気になるが、今後彼女をどうするか…」

「落ち着いたら別れるか―」


ローは頭に手をやり、リーは顎に手を添えて考える。



「連れて行く」



今まで口を開かなかったフェイが唐突に口を開く。

2人は虚空を見ていた視線をフェイに戻す。


「彼女は連れて帰る」


もう1度自分の意見を述べる。

決定事項だといわんばかりに。


「ですが」

「もう決めた」

「フェイ様…」

「何を言われても変わらない」


意思は変わらないのだとそっけない返事。

2人はお互いの顔を見て、その後盛大なため息を零した。

こうなったフェイは頑固で、意思を覆すことは不可能だと長年一緒にいる2人には痛いほど分かった。


「彼女をどうするのですか?」

一言一句違えず、声をそろえて2人が問う。

フェイは口元に笑みを上らせる。




「あれはオレのものだ」




2人は目を見張る。

息が止まるほどに驚いた。

慌ててフェイの側による。


「熱はっ」

「何処かで頭でもぶつけたのかっ!」


動転したのか、おでこの熱を測ったり、身体に異常は無いか2人は調べ始める。

それを無視して、フェイがニッコリと笑った。


「「!?」」


それに同時に固まるローとリー。


「オレは本気だ」


言葉と共に部屋の中はフェイを中心として突如風が吹き荒れる。

2人は風に煽られ吹き飛ばされそうになる。

辛うじてしりもちをつく失態を防いだが、片膝をついて止まることのない風から身体を守るように片手を前にかざす。


「主っ!」

「フェイ様っ!」

「もう決めた。オレはあいつを伴侶にする」

「っ!」

「っ!…―分かりましたっ!!分かりましたから、この風を止めてくださいっ!!?」


ビュウビュウと容赦なく身体を揺らす強風の中、部屋の中にリーの悲鳴じみた声が響いた。


「分かってくれて何より」


唐突に生まれた風は、唐突に消えた。

ローとリーの髪は風に煽られ、ぐしゃぐしゃだ。

しかし、部屋の中であれだけの突風が吹き荒れたのに、部屋の中にあった調度品類は指の爪ほども乱れることなく各々の場所にあった。

そしてフェイ自身も一筋の乱れも見えない。


「…酷いです、フェイ様」


ローはがっくりと床に沈んだ。


「…こんな方法で物事を解決する方法など…教えておりませんが」


額に青筋を上らせ、リーが髪の毛を手櫛で整える。


「人は日々成長するのだ」


先程と変わらず笑いながらフェイはそんな2人を見ていた。






「まずは彼女が落ち着いてからですかね」

「―ちょっと様子を見てきます」


ローの言葉に、リーが立ち上がる。

落ち着かせるために、隣にもう一室取った。

宿に着てからもう数刻が経っていた。

そろそろ落ち着いているはずだ。

これからの予定など諸々を話し、関係を築かなければならない。

フェイは椅子に座って考え込んだ。


バンッ!


「主っ!?」


扉を乱暴に開け放ち、リーが部屋に飛び込んでくる。


「リー、扉が壊れる」


ローの非難の声をスルーして、リーはフェイに近づく。


「どうした?」


ただならぬ様子に、考え事を中止してリーを見る。


「彼女の姿がどこにもありません!!」

「!」

「宿の中を全て捜したのですが―主っ!」


最後まで聞かずに部屋を飛び出し、隣の部屋に駆け込む。

リーの言ったとおり、彼女の姿は無かった。

ベットは少し乱れていたが、誰かが部屋に押し入ったような雰囲気は無かった。


「自分で…出て行ったのか…」

「フェイ様」


部屋の中に佇むフェイに数分遅れてローが声を掛ける。


「なんだ」

「受付にいた者に話を聞いてきたのですが、1刻ほど前に彼女が出て行ったのを見たようです」

「それは真実か」

「はっ。彼女の服装はここらへんで見かけるものと全然違うので、間違うはずがございません」

「分かった…捜せ」

「はっ」

「了解です」


いつの間にかそろった2人は同じように礼をとり、宿を出て行った。


「…―オレから逃げられると思うなよ」


1人部屋の中で立ち尽くしたまま、フェイはその幼い顔に似合わぬ獰猛な笑顔を浮かべた。

そして、身を翻して部屋を出て行った。






読んでくださった方、ありがとうございます!

ちょっと話が進んでいきます。

誤字脱字沢山だと思います(汗

もしよろしければ教えてください!

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