第6話 相対
「――お命頂戴する」
襲撃者たちはフェイに向かって言い放った。
1つに固まっていた男たちが瞬時に離れて、それぞれこちらを窺いながら構える。
しかし、フェイとローは微動だにしなかった。
「―」
左に立った男が、懐から取り出した紙を前に突き出し、何事か唱える。
光が生まれ、前に突き出された紙に集約していく。
変化は突然だった。
フェイとローを囲むように地面が割れ、割れた場所から何かが2人を包む。
外から見るとそれは無骨な鳥籠のようだった。
「やはりもう力は無いようですね」
魔法を発動した男が、愉悦をにじませた声で喋る。
「我々はあなたを殺すように命令されております。――が、あなたが我らの望みを叶えてくださるのなら命はとりませぬ」
この後の展開を思うように、ローブの男は朗々と語りかけてくる。
「…」
しかし、フェイはやはり表情を変えることなく、口を開いた男ではなく、一番真ん中に立つローブの男から視線を外さなかった。
「聞いているのですか」
喋っていた男が、気分を害したかのようで、少々声が尖る。
「ロー」
やはりそれに応えず、フェイは静かに自分の側に寄り添うローを呼んだ。
「御意」
何も言わなくとも、ローは主の意を汲む。
背中に装備した大剣を鞘からスラリと抜いた。
フェイの背後を離れ、前に立つ。
おもむろに大剣を横になぎ払った。
「!!!」
それだけで十分だった。
フェイとローを取り囲んでいた囲いは消える。
「脆いな。こんなものでおれを捕まえられると思うとはとんだ茶番だ」
「ぐ…」
「これぐらいしてみせろ」
パチン
指を打ち鳴らす。
音と共に先程魔法を発動させた男の周りに光の円が現れた。
魔方陣である。
緻密な文様が浮かびあがっており、つい見ほれてしまいそうだった。
しかし、魔法陣の中に立った者にとったらそれどころではない。
慌ててその場を離れようとしても、もう足をその場から動かすことも出来ない。
「!?」
大地に派生している草が伸び、男を拘束していく。
ついには首から上以外は草で覆われてしまった。
「ぐぅ…っ!」
身動きがとれず、男は呻くだけだった。
「お前らも何かしてみるか?」
残ったローブの男2人を見据える。
「おかしい…なぜ魔法が使える?!」
右側に立つ男がうろたえたかのように言葉を漏らす。
「おかしい?何がおかしいんだ?魔法くらい使える」
フェイは右手を胸の前に掲げる。
右手の手の上には光が凝縮され瞬いていた。
凝縮された力に、今まで言葉を発しなかった真ん中に立つ男が身体を微かに揺らす。
「信じられないことだが…事実」
ここにきてやっと口を開いた。
目の前にいる標的であるフェイの手から、身体を圧するような力が押し寄せてくる。
圧するような力から離れようとする身体をなんとか踏み止まらせる。
「奥の手…か」
「いや偶然の産物だな」
「…」
「どうやらこちらに運は向いているようだ」
つい口から漏れた言葉に返事が返ってきたことに男は口を閉じた。
「で、どうする?」
黙り込んだ男を見据えてフェイは聞いた。
「…?」
「まだこの茶番を続けるのか」
「…」
「両端はもう使えないぞ」
フェイの言葉に左右に視線を投げる。
言葉の通りに、一緒にここまでやってきた仲間は使い物にならなくなっていた。
左の男は先程の蔓に巻きつかれたまま気絶し、右の男はフェイの力に萎縮し動けなくなっていた。
それほどまでに力の差が激しかったのだ。
「…ここまでのようだ」
言葉と共に男の体は光に包まれる。
「お前だけ逃げるつもりか」
「またお会いしましょう。――フェイリールド様」
問いには答えず、優雅に男はお辞儀をした。
男の台詞にフェイは眉間に皺を寄せた。
一瞬後、男の姿はもうそこにはなかった。
「魔力を辿りますか?」
ローの言葉に首を振る。
「無駄だ」
途中までは辿れる。
だがそれだけだ。
下手をしたら、へんな場所に誘い込まれてしまうかもしれない。
フェイは男の魔力を辿った時にどうなるか半ば予想できた。
相手は狡猾だ。
こちらの魔力を底につかせた方法を思い出せば、どんなことでも利用するだろうことが予想できる。
「撤収する。そこの2人は衛兵に事情を話して更迭してもらえ」
「は」
「罠を無効化したのちに移動する。場所はいつものところだ―」
先程仕掛けた罠が発動せず残っていたらまずい。
人が使わない場所だろうと、絶対踏み入らないという保証はない。
今後の行動を考えながら、リーと一緒に移動させた少女を思い出す。
「フェイ様?」
「っ…いや、すまない。そこでのんきに寝ている男たちもよろしく頼む」
「了解しました」
ローは首肯すると時間を無駄にせず動き出す。
ローブの男たちを拘束しようと移動したローを尻目に、フェイは雑木林に足を向けた。
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