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光ある国  作者: 深縁
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第5話 追われる者の反撃







緊張した足取りで、男たちは鬱蒼とした木々を横切る。

誰も言葉を発さず、周囲を鋭く見回す。

しかし、その視線の中に、少し恐怖の色がちらついていた。


この雑木林に入る前は総勢で18人居た彼らだったが、現在その数を減らし、過半数をもう少しで下回るぐらいの人数になっていた。

人数が減った原因は一つ。

今歩いている雑木林に、多種多様のトラップが、巧妙に隠されていたからである。

そう、フェイが雑木林を通り抜ける際に、仕込んでいったものである。



まず、最初の犠牲者は先頭を歩いていた男だった。

無造作に踏み出した足を急激にとられ、男は空中を舞った。

トラップに引っかかった男も、そしてその後をついてきた男も何が起こったのかすぐには分からなかった。

一瞬後、空中を舞った男の悲鳴が響く。

残された男たちは我にかえり、男の消えた場所に慌てて集まった。

上を見上げると、これでもかといわんばかりに木を支えに全身を絡め取られて気絶している男がいた。


「おいっ!?」

「ダンっ!大丈夫かっ!!」


下から声をおもいおもいに掛けるが、気絶した男―ダンには届かない。

動揺して騒ぎ出す男たちを、少し離れた場所で見ている男たちがいた。


「…トラップが仕掛けられているとはな」

「伊達にあの思惑入り乱れる場所で生きているわけではないだろう」

「しかし、魔力を使用せず仕掛けられているから避けるのも大変だ」

「確かに」

「…」


3人の男たちだった。

3人ともローブを着ており、はっきりと顔が分からない。


「これでは『探知』の魔法に引っかからない」

「…」

「どうしますか?」


会話に参加せず、無言で居た1人の男に残りの2人はどうするのか聞く。

3人の中では喋らない男が一番偉いようだった。


「進むしかない…ここで手間取っている暇は無い」

「ですな」

「我々だけならこんなトラップ子どもの悪戯のようなものなのですが」


なんとかダンを助けようと、男たちが木に群がっているのを見てため息をつく。

思った以上に、ダンを拘束している蔦が丈夫な上、複雑に絡み合っているようでなかなかすぐには助けるに至らないようだった。


「何人か残していくしかあるまい」

「それしかないでしょうな」

「わかりました」


ローブの男たちは話をまとめると、救出劇を繰り広げる男たちの側へ寄っていった。

2人ほど残して追跡を再開することについて話す。

多少の不満があがったが、現在追っている者たちの危険性について述べて先を急がせることに成功する。

その後も、巧妙に隠されたトラップに引っかかったり、事なきを得たりしながら彼らは先へと進んだ。

皆多少なりとも傷をつくりながら。



「…先程はあのようなことを申しましたが、これはとても考えられたトラップです」


引っかかったトラップを思い浮かべて、ローブの男の1人が複雑な気分で唸る。


「地に足さえ着かなければどうということではないと思っていたが、トラップは地面だけではなかったものな…」


危うくトラップに引っかかりそうになり、多少の汚れがついてしまったローブの端を持ちあげ、苦笑交じりに喋る違うローブの男。


彼らは追跡している獲物を軽く見ていた。

けれども、追跡する自分たちは確実に減らされた。

人数を減らす目的で仕掛けられた、人の死角を突いたトラップには舌を巻いた。

彼らは確実に人数を減らし、体力を奪われていったのである。


だが、ローブの彼らは自分たちが失敗するはずがないという自信を未だに持っていた。

その自信はどこから来るのか。

それはローブに隠れた彼らの腕にある刺青が理由だったのかもしれない。



―杖に蔦が巻きついた刺青。

これは大いなる闇の組織にして、絶対の力を誇る。

組織の名前は『ワングレーイル』。



少し先にぽっかりと開いた土地が見えた。

数々のトラップに疲弊していた男たちから安堵のため息が零れる。

見晴らしの良い場所ではトラップもそうそう機能しないからだ。

無意識に早足になる。

ローブの男たちは早足になる男たちを尻目に、ゆっくりと後をついて行く。

太陽の光を遮っていた木々がなくなり、視界が明るさで一杯になる。

木々の間から零れ落ちる光があったため、そこまで暗いと思っていなかったはずだが、さすがに一気に視界を満たす光に半分以上の男たちが、光から目を庇うように手をかざした。

まぶしい光に目が慣れ、男たちはかざしていた手をはずす。

視線一杯に色とりどりの花々が咲き誇り、風に揺れていた。

天国の花園にでも来てしまったかのようだった。

思っても見ない光景に、男たちは呆ける。

そんな男たちを誘うように一羽の蝶が軽やかに飛んできて、周りを旋回する。


「ッ!」

「!これはっ」

「幻覚!?」

「その通りだ」

「!!?」


存外近い場所からの肯定する言葉にローブの男たちは驚きをあらわに周囲に視線をめぐらした。

しかし、近くには誰も居なかった。

見えるのはただ自分たち以外の者たちがうつろな目で花畑の中、棒立ちになっている光景だけだったのである。


「お前たちが今回の追跡者か」


何もかも分かったかのように姿の見えない主は喋った。


「…――」

「ワングレーイル」

「ッ…」

「―お前たちには、雇い主の名前を吐いてもらおうか」


淡々と声だけが聞こえる。

ローブの男たちは背中を預けあい、死角を無くすよう配置につく。

比較的丁寧な口ぶりだった男が懐から一枚の紙を取り出す。

彼の身体から仄かな光が溢れ出し、手に持つ紙にその光を移行させていく。

彼の身体からは光が消え、その反対に紙は光に包まれた。


「―…」


聞き取れないくらいの声で何かを呟く。

その瞬間、辺りは突き刺すような光で溢れた。

光が収まった後には、目の前に広がる光景が一変していた。

天国かと思わせる花々は消え去り、辺り一面は草地に変わっていた。



「荒い解除方法だ」

「!」


先程見えなかった人影が少し遠くに見える。

しかし声は近い。


「そんなに荒々しく魔法を打ち消してしまうから彼らが気絶してしまった」


幻覚によって、棒立ちになっていた男たちが今は地面に倒れている。

強制的な魔法の打ち消しによって、身体が耐えられず、倒れてしまったようだった。

遠くから声を届けながら、その声の主はゆっくりと近づいてきた。


「用件は大体分かる」


彼らの目の前には幼い外見の少年がいた。

いや、幼いのは外見だけであって、少年の瞳はとても強い意志を宿しており、外見にそぐわないものだった。

その少年の横にスッと男が姿を現す。

背中に軽々と大剣を背負っているのが目につく。


「…断罪の黒騎士―…ローウェン・ウィズサーナリー」

「名前の前にそんな名称みたいなものはついてない筈ですが」


嫌そうにローは眉間に皺を寄せた。

しかしそれだけだった。

ローはその場を動かない。


「ではあなたが――」

「おれの名前などどうでも良い」

「そんな身も蓋も無い」

「ロー」

「…すいません」

「おれがお前たちに望むのは、依頼主の名前を言うことと、ここでオレに捕まることだ」


視線をそらさず、必要なことだけ喋る。

強い視線に、ローブの男たちが微かに身体を揺らす。

数秒の沈黙の後、言葉数の少なかった男が口をひらいた。


「あなたもわかっているはず。我らは依頼主の名前を言わない。ここで捕まらない」


ローブの中からおもむろに紙を引っ張り出す。

フェイは目を細めた。


「――我らはあなたを殺す」







読んでくださった方、ありがとうございます!

しかし…主人公は由岐のはず?なんですが、ターンはフェイのまま…(汗

多分話が進めば-…すいません、確約できません(泣

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