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光ある国  作者: 深縁
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とある宿屋の看板娘①

前に更新してから早いものでもう1ヶ月が経ってしまいました。

慌てて更新です。






「はぁ~~~」


大きいため息が、昼のかき入れ時を過ぎて客の居ない食堂にたっぷりと吐き出される。


「なんだい?そんな大層なため息なんてこぼして」

「…」


宿屋兼食堂を切り盛りしている女将がため息をついた張本人に呆れた口調で声をかける。

だが、声を掛けられた方は聞こえていないのかなんなのか、ぼんやりと入り口を見たままであった。

その様子に、やれやれと肩をすくめて、女将は厨房へ姿を消す。


しかし、それにも気付かず、またため息をこぼすのは、駒鳥亭の看板娘のローラであった。


「…会いたい」


ポツリと零す。

しかし、それに応える声は無い。


すると、余計にむなしさを感じてやる気が抜けていくようだった。












駒鳥亭の看板娘、ローラ。


生まれてから、現在15才。

実は、初めての恋に振り回されている真只中である。



現在、ローラが恋焦がれているのはローと呼ばれる青年。


たまにこの駒鳥亭を利用する人物で、この街の者ではなかった。

ローラとの関係を言葉で表すならば、『お客と宿屋の娘』といったところだ。



さて、そんなロー青年に、駒鳥亭の看板娘のローラがどうして恋してしまったかというととてもありきたりな話である。


ローラのいる駒鳥亭は宿屋なだけでなく、この街でそれなりに人気の食堂を営んでおり、日夜かなりのお客が訪れる。

そんな駒鳥亭の利用客の大半がむさくるしいと言っては申し訳ないが、そんな男たちで、ガサツで乱暴この上ない。


駒鳥亭の看板娘としてローラはそんな男たちのあしらいも慣れたものだが(母親である女将の威圧もある)、日々そんな夢も幻想もぶち壊すような男たちの相手をしてきたローラにとって、ある日訪れたローは、今まで見てきた男たちと全てが違って見えた。


唯の『旅の途中での流れの客』であれば、ローラの恋心を弄ぶ(ロー青年的に心外であろうが…というか、きっとローラの気持ちに、これっぽちも気付いていない)ようなことにはならなかったのではあるが、運良くというか、運悪くというべきか、ローという青年は初めて駒鳥亭に訪れてからここずっと、この街に度々寄り、駒鳥亭を利用し続けていた。






(いつ見ても身だしなみがきちんとしてるし、見るからに清潔だし、優しいし、喋り口調が丁寧だし、女とか男とかで区別しないんだもんなぁ…)


暇さえあれば、こんな風に、初めて会ってからローラにとって新しい記憶のローのことを思い出すのである。



そんな彼女ではあるが、実は最近は思いが募りすぎて、会えない時間にボウッと考え込むことが多くなっていた。


まあ、食堂で働いているときなどは、さすがにボウッとはしていない。

そんなことをすれば、女将の大目玉を食らって、裏の仕事に回されてしまう。

そうすれば、もしローが訪れたとしても気付くのが遅れてしまう。

それだけは絶対嫌だと、ローラは駒鳥亭で日夜必死に働いているので、今のところ無事に表の仕事(接客)に携わっている。


しかし、それも限界に近い。


会えない時間のほうが圧倒的に多すぎるのだ。

この前、ローが訪れてから数えて、木の葉も入れ替わるほどの長い月日が過ぎていたのである。





「はぁ~~~~~~~~~~」

「大きなため息ですね」

「!!!?」


何度目かの盛大なため息を付いた瞬間、無防備な後方から声をかけられて、ローラは心臓が止まりそうになった。

そのまま、息を止めて振り返る。


そこには、件のローが幾月ぶりかの穏やかな笑み浮かべて立っていた。


「ロ、ロ、ローさんっ!いつの間にそこに!!?」

「はい?今ですけど?」

「い、いらっしゃいませっ!」


お辞儀の最高角度まで腰を折って挨拶をする。


「お久しぶりです。いつ訪れても、ローラさんは元気ですね。部屋は空いていますでしょうか?」


明らかに様子のおかしいローラに気付かず、ローが聞く。

ついちょっと前まで恋焦がれていた笑みを惜しみなく曝すローを、ローラは直視できない。


「は、はい!いつもと同じでよろしいでしょうか?!」

「ええと…すいません。今日は2人部屋を2つでお願いします」

「え?」


ローの言葉にうろうろと彷徨わせていた視線を戻す。

良く見れば、ローの背中に背負われた少女。

そして、いつもの同じ同伴者である2人組み。

ひとりは女性で、もうひとりは少年。

2人とも顔が整っており、いつもちょっと気後れしてしまう。


顔が整っているのはローも一緒なのだが、どこまでも丁寧で、優しい雰囲気満載のところが気後れをさせない。


ローの連れである片割れの女性のほうがローラの視線に気付き、にっこりと笑う。

そうすると、華やかさと美人度が割り増しになったが、ローラに対する親しみも感じて、ホッとする。


美人は笑わないと怖い。


そのまんまだ。


そして、いつもは視線と共にニッと笑う少年が、今日はじっとローに背負われた少女を見ており、ローラのほうをちらりとも見ようとしなかった。


(?)


ローラは不思議に思いながらも、手続きをするために、宿屋のほうのフロントにその団体を促した。

ちなみに、女性がリーで、少年がフェイという。



部屋の番号と共に鍵を渡すと、挨拶もそこそこに移動していくローとその連れ。

遠ざかっていく後姿を見えなくなるまで目が追ってしまう。


「――もうちょっとローさんと話したかったのに…」


拗ねたように言ってみるが、ローの後ろに抱えられた何か事情のありそうな少女を、早く部屋に連れて行きたいと思うローたちの気持ちも分かったので、ローラは気持ちをすっぱりと切り替える。

それでなくても、ローが久しぶりに駒鳥亭を訪れたのだ。

何日か泊まっていくはずだと思い、気持ちが高揚するのを止められない。



(ローさんが来た~~~~~~~~~~~~!!)



色んなところに向かって叫びたかったが、女将の拳骨が怖かったので心で叫ぶに留める。


(それに、こんなところで叫んじゃったら、ローさんに聞こえちゃう)


しっかり浮き上がる心と同じように軽やかな歩みで、食堂へ昼の片付けに向かうのであった。








読んでくださった方、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

さて、今度の更新はもう少し早くできたらと思います。

少し続きますので、お付き合いいただけたらと思います!!

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