寄り道の途中で④
「落ち着いたか?」
「…うん」
目の前に汗をかいたグラスを出されて、手に持って飲み干す。
「美味しい」
水だと思っていたのに、仄かな甘みと味を感じて目を瞠る。
「リムの果汁が入ってるからな。気分が爽快になるだろう?」
どうやら、由岐がテーブルに突っ伏している間に頼んでいた品物だったようだ。
「…ありがとう」
「気にするな。で、どうする?」
「え?」
「ユキが望むのなら、あの男を『完膚なきまで叩き潰し』に行ってもいいぞ」
「!?っい、いいよっ!てか、会いたくないし」
「そうか?まあ、会いたく無いには賛成だが…リー」
「はい!では私が奴を『完膚なきまでに』た――」
「ひぃ!ごごごごごめんなさいっ!!しなくていいからっ」
「そう?」
両手をブンブン振って押し留める。
由岐の必死の行動に、立ち上がったリーが椅子に座った。
心なしか…いや、かなり残念そうな表情を見てしまって、由岐は話題を変えようと慌てる。
「ええとっ…ローさん!」
「はい?」
「あのっ…えとっ…」
口火を切ったはいいが、何を言えばいいのか意味の無い言葉ばかりが口から出る。
呼ばれたローが由岐の言葉を待っていた。
「あ、あのですねっ」
「はい」
「ロー、みなまで言わせるな」
「ふへ?」
「フェイ様?」
「そうだぞ!ロー!!」
「リー?」
「ユキは、ローにあの男を『完膚なきまでに』潰して来いと言ってるんだ!察しの悪い奴だ」
「!そうだったのですかっ!!す、すいません。察しが悪くて…」
「あう…」
「今から行けば夕方には帰ってこれるだろう」
「あ…」
「はい、大丈夫です」
「え…」
「ユキがローを指名するのなら仕方がない。残念だけど、ローに譲ってあげるわ。でも、『完膚なきまでに』なんだからね!手を抜くんじゃないわよ」
「分かっている。指名されたからには俺の全力を持って――」
「いやぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
由岐の悲鳴が店内に響き渡った。
「ひどい」
「すまん、調子に乗った」
「ごめんね。ちょっと悪乗りしちゃった」
「すいません…2人の嘘に気付かないで…」
先ほどと同様にテーブルに突っ伏した由岐はグスグスとやや涙声で抗議していた。
それに、3人はそれぞれに謝罪の言葉を口にする。
謝罪の声にも顔を上げずにいれば、優しい手に頭を撫でられる。
一定のリズムで撫でられて、由岐の揺れに揺れていた心はゆっくりと落ち着いていく。
そろりと顔を上げると、笑い顔(×2)と沈痛な顔に迎えられた。
言わずもがなではあるが、沈痛な顔はローだ。
「さあ、今後のことについて話そうか」
「今後?」
「そうだ。このまま魔法で違和感を消して、周囲に存在を馴染ませているわけにもいかん」
「駄目なの?」
「ああ。こういった外でなら、まあ…構わないが、城に行くなら問題だ」
「お城…」
「そうなのよ。お城では下手に魔法使ってたら反対に目を付けられちゃうわ。ほら、王様や王妃様とか御住まいおられる場所だから、色々と魔法が掛かっているわけよ。そこに別の魔法が紛れたら―」
「ま、紛れたら?」
言葉を切って、意味ありげにリーが見てくる。
ドキドキしながら続きを促す。
「そこらに配置されている騎士たちに捕まって、牢に放り込まれるでしょうね」
「…」
「それだけでなく、暗殺とかを疑われて、尋問されるかもな」
「じ、尋問…」
「フェイ様もリーもそこまでユキを脅さなくても」
「間違ったことを言っているか?」
「…いえ、言ってはいませんが」
「…」
残念ながら、奇異の目で見られながら過ごすことになるのは決定のようだった。
活動報告に、③と④の間の主従の会話を少し載せてあります。よければお読みください。
読んでくださった方、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




