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光ある国  作者: 深縁
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寄り道の途中で①

続きを書こう書こうと思いながらも、完結させたことにより、筆が止まってしまい、間が空いてしまいました。

嬉しいことに、続きが気になると言って下さった方がおり、ちょっくら頑張ってみるかなというか、現金なものでやる気になり、完結マークを連載に戻させていただきました。何話か続くものになりそうですが、お付き合いいただけたらと思います。





「ねえ」

「どうした、ユキ?」


長閑な街並みを進みつつ、由岐はフェイへと声をかけた。

すぐにも返ってきた声に、なんと返していいのかと一瞬口ごもりながら、由岐は先ほどから気にかかっていたことをフェイに相談することに決めた。


「なんか私、変なのかなぁ?」

「うん?ユキは相も変わらず可愛らしいぞ」

「いや…そんなことを聞いてるんじゃなくて…」

「?」

「さっきから道行く人の視線が痛いというかなんというか…」

「ほう…オレの許しもなくユキを嘗め回すように見る輩がいるとは―」

「ちょっ!その嘗め回すとかおかしいからっ!!」

「どっちにしろ、オレのユキを不快にさせるような輩どもは八つ裂きに」

「待ったっ!ごめんっ私が悪かったからっ!!」


極端から極端に走るフェイの言動に、由岐が早くも白旗を振る。

そんな彼女に救いの手が。



「主っ!あの輩などがとても不愉快な視線を送っておりましたわ!!」



入るはずもない。



「一言お命じ頂けたら、誰に気付かせることなく闇に葬ってみせますわ」



それ以上に酷い。



「リーさ~~~~んっ!!?」

「よし、い―」

「駄目なの~~~~~!」

「…フェイ様それくらいで。リーも悪ふざけをするな」

「ローさん…」


今度こそ本当の救いの手に由岐の目から涙が。

ローの言葉に、フェイとリーがつまらなそうな顔をするも、すぐに元の顔に戻る。


「それで、どういうことだ?もう少し詳しく話せ」

「そうですね。視線が痛いってことだったけど、私たちが街道を歩くときって、それなりに視線は付き物だから、これといって気にしてなかったのだけど、何かそんなに気になるものでもあった?」

「…」


先ほどまでのあれは白昼夢かなんかだといわんばかりに、普通の2人がいた。

そっと肩を叩かれて、視線をやれば、ローの力づけるような視線が落ちてくる。

それに心の中で涙をのみながら、何とか気持ちを切り替える。


「そういう風に言われちゃうと、ちょっと自信なくなるんだけど…なんていうか、私を見た人の視線が唐突に固まって、かなりの時間そのまま動かなくなるというか…」

「ふむ」

「―もうちょっと歩いた先に美味しいお茶を出すところがあります。そこまで様子を見てみてはどうでしょう?」

「そうだな…全員で周囲を警戒しては余計に目立つ。リーとローに任せる」

「「御意」」

「ユキ」

「は、はいっ」

「落ち着け。これといって危ないものは感じない。それこそ、危険なものがあればオレたちが気付いていたはずだ。すぐにでも解決してやるから、お前はオレだけ見ていろ」

「う、うん!…え?…ええ!」

「他に視線をやる暇など与えたつもりはなかったのだがな。俺もまだまだだ」

「うえ?な、なんかち、違う」


幼さを感じさせるはずの大きな目をフッと細めて流し見るその仕草に、ドクンッと胸が大きく鳴る。

思わず胸元を押さえる。

押さえたことで、押さえたところを中心に服に皺が寄った。


由岐の動揺を知ったのか、フェイがフッと口の端が上げて笑った。

またそれを視線に入れて、由岐の頬が染まる。


満足そうなフェイの顔から視線を逸らして歩みを再開させる。


置いていこうという意図は無い。


ただ、それ以上そこでフェイと話をしても、からかわれるだけだと由岐には分かっていたので、話は終わりだと伝えるために動いたのであった。


フェイもそれが分かっているからすぐに由岐の隣に並ぶ。


手を握られて、ピクリと反応しながら、由岐は何も無かったかのように歩く。


手に自分のではない温もりを感じながら。


先ほどまで気にしていた視線も、今は由岐にとって気にするものではなくなった。


先ほどフェイが言った通りに、手の温もりに心を持っていかれてしまったのだから。



















5分ほど歩いたところにあったリーのおススメの店に入った。

そのお店は、お昼時ではなかったがそれなりに人が入っており、賑わっていた。

ちょうど奥まったところにある4人掛けのテーブルが空いていたので、そこに座る。

座ってすぐに水を持った店員が笑顔で近づいてきた。


たまに顔を出すのだろう。

リーが、その店員と親しそうに挨拶をするのが見える。

2,3言葉を交わし、店員は去っていった。


「せっかくなので、私のほうでおススメを何点か選んで注文しました」


にっこりと笑って言われて、否やは無い。

それでなくとも、由岐にはこちらの文字は分からないのだ。


そう、言葉は問題なく話せたのに、文字は読むことが出来なかったのである。

いや、もしかしたら、言葉自体も本当は同じ言葉を喋っているわけではないのかもしれない。

しかし、由岐にはそれを調べるすべは分からなかったので、深く考えるのをやめた。


分かるときには分かる。


そうすっぱりと割り切ることにしたのだった。




「で?」

「はい。確かにユキの言ったとおりです」

「そうですね。最初は私たち全体に視線を向けてくるのですが、ユキを見たところでギョッと目をむいて固まる輩は多々おりました」

「ほお…」

「…」


ローとリーの言葉に目を細めるフェイ。

先ほどとは違って、甘さはない。

目に見えるのは鋭さだけだ。


「結局のところ、どういうことか分かったか?」

「はい」

「え?」


あっさりと頷かれて、声を上げる。

由岐にとっては、歩いている間ずっと見られては驚かれて、通り過ぎるまで見られるということが続いたが、その驚かれることの意味について、全然分からなかったのだ。

なのに、少しの間、周囲を警戒して見ていたリーたちにはそれがどうしてなのか分かった。

少しだけ、由岐の中で不満があがる。


自分には分からなかったのに、どうしてリーたちには分かったのか。


もやもやとするものを感じながら、由岐はリーの次の言葉を待った。


「ユキ」

「リーさん…」


優しい声音で名を呼ばれて、もやもやが薄まる。


机の上に投げ出していた手に、重なる重さと温かさを感じる。

この温かさを知っている。


「フェイ…」

「ユキ、そんな顔するな。ここはお前の生まれた場所とは違うところだ。来たばっかりのユキには分からないことだってある」

「…うん」

「知らないなら、これから知っていけばいいんだ。」


ギュッと手を握られてもやもやは完全に消えた。

気負いかけていた肩の力がフッと抜ける。


いつの間にか落ちてしまっていた視線を上げれば、3方向から優しい笑みが向けられていた。

つられて笑みが上る。


「話を続けてもいいか?」

「うん。リーさん、よろしくお願いします」

「はい。よろしくされます」


由岐の言葉に、リーがにっこりと笑って頷いた。





読んでくださった方、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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