第38話 発見!
フッと意識が浮上する。
ゆっくりと瞼を開けると、日の光と共に、見慣れない天井が視界に映る。
(…え?)
頭がうまいこと回らなくて、緩慢に辺りを見回した。
少しずつ頭が回り始める。
「あぁ…そっか」
由岐は思い出した。
今まで生まれ親しんだ世界から、全く違う世界に来てしまったことを。
そして――フェイと出会ったことを。
色々思い出して気付く。
今、部屋には由岐しかいなかった。
寝るときに一緒にいたリーの姿が見えない。
身体を起こし、ベッドから降りる。
何も考えず続き部屋のドアに手をかけた。
「ユキ、起きたのか」
開けたドアの先にはフェイが椅子に座って、紙の束を机に広げ読んでいた。
ドアの閉開音で気付いたようで、手に数枚の紙を持ったまま視線をくれる。
「…」
「ユキ?」
返事をしない由岐に、フェイが首を傾げる。
しかし、由岐にはそれどころではなかった。
視線はフェイの顔にピタリと止まっている。
数秒、無言でお互いを見つめる形になった。
「ユキ、本当にどう――」
「取っちゃ駄目っ!」
言葉だけでは埒が明かないと思って、手に持った用紙の束をテーブルに下ろして眼鏡を外そうとした姿でフェイが固まる。
そう、眼鏡なのだ。
フェイは眼鏡をかけていた。
細い銀フレームのシンプルな眼鏡。
由岐の制止に固まるフェイを由岐はじっくりと見る。
ゆっくり丹念に、熱い視線で。
それはもうフェイが赤くなりそうなほどに。
由岐は眼鏡フェチだった。
「…素敵」
頬をばら色に染めて、潤んだ視線を向けてくる由岐に、フェイのほうも何か忍耐の糸が切れたような気がした。
気付けば身体は動き、本能のままに近づく。
自分を見たままポーッとなっている由岐の腕を掴んで、由岐の出てきた部屋に移動する。
フェイはドアを押す。
勢いのまま、ドアは閉まった。
「主?」
手ぬぐいで汗を拭きながら、リーとローは部屋に戻ってきた。
朝起きて鍛錬。
これが大抵、2人の日課だった。
ここ2,3日はしている暇もなかったので、今日はいつも以上にたっぷりと時間をかけた。
たまに、この鍛錬にフェイが参加してくる。
今日は由岐を1人部屋に置いてくるわけにはいかず、不参加だったが。
部屋の中にはいるはずの人物がいなかった。
部屋の中を見渡すと、テーブルの上の紙の束が散らばっている。
それに眉をしかめる。
紙の束。
それは、報告書類や様々な内容のもので、このようにテーブルに放置してよいものではなかった。
フェイもそれは承知しているはず。
なのに、目の前の状況は、それを裏切っていた。
「フェイ様…おられないのか?」
同じように辺りを見回し、廊下に視線をやるロー。
2人の視線は必然的に隣の部屋へと辿り着く。
お互い顔を見合わせて、アイコンタクトでどうするか語り合う。
ひとまずといった感じで、テーブルに近づき、放置された書類の束をまとめて、整える。
「どうする」
「出てくるまで待つしかないじゃない」
「しかし」
「部屋に入る勇気ある?」
「…」
「まぁ、今の主じゃたいしたこと出来ないから大丈夫よ」
「リーッ!!」
「本当のことじゃない。だって今の主は見た目どおり10代前後の身体だからね」
「…もっと慎みを持ってくれ」
さめざめとローが泣く。
リーにとってそんなものは無視だ。
冷静に言われれば言われるほどにローの精神にはダメージが来るのだが、リーには分からない。
分かろうとする気持ちもない。
キィ…
ドアの開く音。
2人はハッと視線をドアに向ける。
そこには満足げなフェイの姿。
それだけ。
「ユキは?」
「寝た」
「『気絶した』の間違いでは?」
「そうとも言うかもしれない」
「フェ、フェイ様…」
「どんな想像がお前の中では繰り広げられているのかある程度想像はつくが、キスしかしてないから安心しろ」
「そ、そうですか~~~」
へたり込むローを見て、リーは鼻で笑う。
近くまで移動してきたフェイの顔につと手を伸ばす。
そして眼鏡を外した。
フェイもそれを当たり前のこととしてされるがまま。
「眼鏡を外す余裕もなかったのですか?」
「ふ」
リーの言葉にフェイが笑う。
その笑みは少々―いや、かなり今の幼い顔には似合わない艶のあるものだった。
「ユキは眼鏡が好きらしい」
フェイの台詞に、リーは合点がいったようだった。
クスリと笑いを零す。
フェイの満足そうな顔を見て嬉しそうな顔をする。
「では、違う種類の眼鏡を数点見繕っておきます」
「ああ」
「…」
2人の台詞を聞いてローは思う。
(ユキ、2人を止めるすべを持たないオレを許してくれ)
100パーセント企んでいる顔の2人に分からぬように合掌する。
しかし、夢の中を彷徨う由岐には、どっちも意識の外の出来事だった。
読んでくださった方、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
今回、由岐の眼鏡フェチが知られてしまいました…。
どうなることやら、私にも分からぬことのようです。