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光ある国  作者: 深縁
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第3話 ファーストコンタクト






十数分が経ち、リーからの連絡が来た。

罠を張りながら、草地に向かう。


「予想以上に人数が多いようです」


リーからの連絡が終わったのか、ローが深刻な顔をして近づいてくる。

たった今作った罠から離れて報告を受ける。


「そうか」

「それに…あの」

「とっとと言え」

「…どうも無関係の者が混じっているようだと」

「なんだとっ!」

「あちらも色々と仕組んでいるようです。自警団らしき者たちだと思います」

「凶悪犯でも逃げ込んだなどと言って、協力させているのだろう…」


壮絶な笑みを口元にのぼらせ、フェイの周辺がまた冷気を帯びていく。

顔が整っている分、その顔が怖い。


「フェ、フェイ様っ」


若干青ざめながら、ローはフェイの周りを世話しなく動いた。


「落ち着け」


しかし、フェイの一言にビシッと止まる。


「ククク…どうしてくれようか…―?」


不穏な気を撒き散らしながら笑っていたフェイが何かに気付いてピタッと止まって後ろを振り向く。


「フェイ様?」

「草地のほうに人が…いる?」

「え!?」


フェイの言葉に後数メートルとなった草地のほうの気配を探る。

確かに先程は気付かなかったが、人の気配がする。


「待ち伏せですかっ?!」

「いや…それにしてはこの気配は1人分だ」


怒りに我を忘れていたわけではないようで、しっかりとした返事が返ってくる。

ローはそれに密かに吐息を零す。

「関係ない者をこれ以上巻き込むわけにはいかん」

「はっ」


慌てて2人は草地に向かった。




鬱蒼とした林を抜けると、草花が生い茂る草地が広がっていた。

その草地の中に、ひときわ大きな岩が存在感を持って鎮座していた。


(あ…)


岩の陰に隠れるように投げ出された足が見える。

フェイは慎重にその岩に近付いていった。

気配を消して近づいたわけではないのに、投げ出された足はピクリとも動かない。

訝しげにフェイは前に回りこむ。


「!」


フェイは大きく目を見張った。

岩の側に居たのは、15歳位の少女だった。

少女は暢気にというか、気持ちよさそうに岩に背を預けて寝ていた。

フェイが驚いたのは寝ていたことだけではなく、少女の美しさのせいでもあった。

腰まであるこげ茶の髪に、肌理の細かそうなしみ一つない肌。

見飽きることのなさそうな伸び伸びとした若木のような美しさを少女は持っていた。

残念なことに少女の瞳は閉じられて見えないが、さぞ綺麗な瞳が隠されているだろうと無意識にフェイは手を伸ばす。

ローの静止が口をついて出る前に、フェイは少女の頬に触れた。

ピクリと少女が反応する。

ジッと少女の様子を見ていると、ゆっくりと瞼が上がり、想像していた以上の黒ともこげ茶色ともいえる深い色合いの瞳が現れた。





フェイが少女の瞳に魅入られるように見ている時、これまた少女―由岐も目を開けたら目の前に現れたとても整った顔立ちの、しかしまだ幼さの残る少年のアップに驚いていた。

空を見ているうちに、のどかな日差しに誘われてついつい転寝をしてしまっていたらしい。

起きたばかりの頭で、今のこの状況がうまく飲み込めなかった。


「あ、あの―」


何とか口を開く。

しかし続きを喋ることは出来なかった。

少年に口を塞がれたから―――…口で。


「ンッ!」


最初、由岐には状況が分からなかった。

目の前に少年のアップがあって、それがもっと近くにきて、視界全部が覆われて、口にやわらかい感触が降ってきた。

ふにゃっとした感触を唇に感じながら、少しずつ眠気で覆われていた脳が動き出した。

そしてこの感触が何であるかをとうとう悟ってしまった。


「○▼×ッ!!!?」


悟って、固まって、やっと抵抗らしきものをしようと動こうとしたとき、口の中にヌルッとした異物が入ってきたことによって、由岐は更にパニックに陥った。


「っ…ん、うん…んっ」


口の中を異物が動き回ることで息もまともに吸えなくて酸欠で頭がクラクラしていく。

藁にもすがる気持ちで目の前にある何かを鷲づかみにした。

十数分にも、数秒にも感じた時間が唐突に終わった。

口の中から異物が出ていき、やっと新鮮な空気を取り込むことに成功する。


「はっ、はっ…はぁ――」


苦しさとショックで潤んでいた瞼をそっと開く。

由岐の目の前には、さっきと同じ少年の顔。

心なしか頬が上気している。

整った顔が上気していらぬ色気があり、ドキッとしながら、由岐は少年を力ない腕で押した。

意外とあっさり少年が由岐から離れる。

ゆっくりと自分の身体を起こして、落ち着こうとするが、今だ、パニックは続いているようで、由岐の身体は思うように動かなかった。

由岐の目の前に、しなやかな手が差し出される。

少年の手だった。

もう抵抗する気力もなく、その手にすがって立ち上がる。




「すまん」


少年は、由岐と視線を合わせて言った。


「…え?」

「止まらなかった」


(何が…?…!!!)


首をかしげ、固まって、肌という肌が真っ赤に染まっていく。

みるみるうちに瞳に涙がたまっていくのを少年―フェイは痛々しく、申し訳ないと思いながらも、また手を伸ばしてしまいそうになる自分の不謹慎な感情に戸惑っていた。

由岐の手がゆっくりと上がっていくのをなかばどうなるかを理解しながら甘んじて受けるため、囚人のようなおももちで待った。



パシィィィィィンッ!!



なかなかの音を立てて、フェイの頬が鳴った。


「ファーストキスを返せ〜〜〜〜」


真っ赤な顔で、涙をぼろぼろ零しながら由岐は叫んだ。





これが、由岐とフェイの初めての出会いであった。







読んでくださった方、ありがとうございます!

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