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光ある国  作者: 深縁
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第2話 その少年、追われる者なれど






ドォォーン…

バキバキバキッ


大きな破壊音と共に木の倒れる音を背に、11〜12歳くらいの顔立ちのとても整った少年が鬱蒼たる木々の中を走っていた。

その少年の後ろには、190センチ程の身長のがっしりとした体躯を持った青年と、その横を走っているせいで小さく見えるが、170センチ以上はあるだろうしなやかな体躯と釣り目気味な目が印象的な女がつかず離れずの距離を保って、走っていた。

3人は言葉もなく走り、十分な距離を稼いで足を止めた。


「何でこんなことに」


少々荒い息を整えながら、木々の陰に隠れて少年は悪態をつく。


「フェイ様のせいですよ」

「主のせいでしょ」


声をそろえて低い声と高い声が側から応える。

それに顔をしかめながらため息をついた。


「はいはい、どうせオレのせいだよ」


フェイと呼ばれた少年には分が悪かったのか、全面的に自分の非を認める。


「分かっているならいいです」

「リー…」

「ローだって責めたくせに、今さら私に非難の目を向けないでよ」


胸の前で腕を組んで偉そうに頷くつり目な女―リーに、がたいの良い青年―ローは言いすぎだといわんばかりに困った顔をして口を開く。

しかしリーの言い分のほうが正しくて、開いた口を閉じた。


「ロー」

「…はい」

「構わない。オレがこんな時期なのに出てきたのが悪いんだ」


大きな身体を縮こませるローにフェイは目じりを和らげて言った。


「フェイ様…」

「主はローに甘い」

「オレは平等のつもりだが?」

「むう〜」


リーの釣り目ぎみの目がもっと鋭くなる。


「それより今の状況を嘆いたり怒ったりしている暇があったら、どうにかしないとやばいと思うが?」


フェイは冷静に今の状況についていったん和らげた目じりを引き締めて2人の従者に言う。

言われた二人は瞬時に気持ちを切り替えたのか、表情を一変させた。


「オレは魔力が底に近くなってきているんだが」


フェイは今の自分の現状を伝える。


「俺はもう少し大丈夫だと思います」

「私は主と同じです」


2人も自分の魔力の残量について冷静に分析する。


「迂闊だったな。あいつらに会う前に大きな事故にあったのがひびいてる」


悔しそうなフェイを見て、ローとリーは顔を合わせる。


「主」

「先程の事故ですが、奴らの仕業ではないでしょうか?」


2人は追っ手がかかる前に遭遇した事故に人為的なものを感じていた。

何より、タイミングがよすぎる。


「なんだと」


フェイの目が鋭くなる。

それによって、周囲の温度が下がったように感じた。


「私たちの魔力を事前に減らしておこうとことを起こしたのではと」

「何より、魔力を回復するために移動しているところに奴らは現れています」


言葉を紡ぐたびに周囲の温度が下がっていくのを2人はひしひしと感じていた。

気を強く持っていなければ、身体が震えてしまいそうだった。

それほどまでに自分たちの主人の怒気は強いものだったのだ。


「オレを消すためだけに数十人もの人を恐怖に追いやったのか…」


主人の目が怒りに満ちているのを見て、2人は口をつぐんだ。

しかし、2人にしてみれば、数十の人の命より主人の命のほうが尊いと思っているので、追っ手のやり方に振り回されてしまった自分たちに怒りがいっていた。


「…しかし、それを総合しますと、奴らもかなり本気だということではないでしょうか」

「ああ…そうだな」


怒りに目がくらみそうになりながらも、ローの言葉に怒りを無理やり考える力に変換した。


「ということは、奴らはちょっとやそっとじゃ引かないということだな」

「だと思います」

「…」

「主?」

「今回はオレの失態だな」

「フェイ様っ!」

「抜け出してくるのに、膨大な魔力があれば抜け出すのがばれてしまうと思って、半分以上指輪に移して置いてきたからな…」

「それを言いますと私たちも考えず力を使ってしまって」

「お前らはあの事故で死人が出ないように頑張ってくれた。咎める筋なんてない」

「…」


その言葉のままに、フェイの目は澄んでいた。

自分自身に対する怒りはあるものの、自分たちを責めることのない主人に2人は歯がゆくてたまらなかった。



遠く聞こえていた破壊音が止んだ。


「リー」

「はっ」

「偵察を頼めるか?」

「仰せのままに」

「状況が分かり次第、連絡を入れろ。これは必要なことだから魔力の出し惜しみなんてするなよ」

「分かっております」


口元にささやかな笑みを浮かべ頭を下げると、リーは音もなく先程来た道を戻っていった。


「隠密行だからリーに行かせた。すまないな」

「その言葉は必要ありません。俺ら兄妹はフェイ様を守る盾であり矛でもあります」


ローは主人の次の言葉を待つ。


「本当にお前ら双子は…」


ちらりと苦い顔をして、すぐにフェイは頭を切り替えた。


「俺たちは何を?」


ローも次の支持を静かに待つ。


「もう少し行ったところにひらけた場所があったな」

「そうですね。2,3キロほど行ったところに」

「そこに誘き出すか」

「しかしこちらには魔力が」

「罠を張ればなんとかなるだろう」

「ですが…」

「自然の気は変換しにくいが、奴らが来るまでに少しくらいは魔力に変換できるだろう」


もう全てを決めてしまったのか、フェイの瞳は定まっていた。

これ以上は進言しても無駄だと悟り、ローは指示に従うべく、移動を開始した。






読んでくださった方、ありがとうございます!

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