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光ある国  作者: 深縁
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制御できるものとできないもの






リーの報告を聞いた後、オレたちは急いで身だしなみを整え、教会の中に入っていく貴族たちの流れに紛れ込んだ。


この時、リーとローには自分の側から離れているように言った。

2人が異を唱えてきたので、強めに命令した。


2人は目立ちすぎるのだ。

何のために紛れ込んでいるのか分かっているのかと怒りたくなった。

しかし、2人は呆れたような顔をして同じことを言った。


「オレのせいにしないでください」

「私のせいにしないでください」


全くわけがわからない。

オレのどこに問題があるというのだろうか。

悩んでも答えは出そうにないので、早々に考えるのをやめた。


オレがそんなことを考えている間に、2人は顔を寄せて話をしていた。

2人は、確かに自分たちが側にいては問題があるかもという結論に達したのか、しぶしぶ了承して離れていった。


そんなこと考えてないで、オレの意見に従っていればいいものを。

心の中でそう思う。

思う反面、自分の意見に唯々諾々と従わないからこそ自分の従者たりえるのかとも思った。


「大人しくしといてくださいね!」

「何かする前に必ず呼ぶんですよ!」


離れて行き際に残した言葉に血管が切れそうになったが。


オレを子ども扱いするなと常々言っているのにあの2人は…。


ブツブツと文句を垂れ流しにしている間に、招待された貴族たちはあらかた聖堂内に入り終わったようだった。

後は主役の登場を待つばかりだ。

近くの貴族の声がオレの耳に飛び込んでくる。


「―しかし、本当に急なことでしたな」

「そうですなぁ…。聞きましたか?此度の花嫁のことなのですが、昨日会ったばかりの娘なのだとか」

「なんとっ!しかし、それは無いのでは?」

「いやいや、どうも本当のことのようですよ。ファライゲラ家のスタンリー殿の一目惚れだとか」

「ほほう!それは凄い。少しでも顔つなぎになればと今日は来たのですが、予想外に今日はいいものを見られそうですな」


ある貴族の台詞に怒りがこみ上げる。

恰幅がよいと言ったらあれだが、胸の代わりに見事な腹を張りながら、笑うどこぞの貴族たちを睨んでしまった。


(いいものとは何だっ!あいつは『モノ』ではないぞっ!)


怒鳴りつけてしまいたかったが、なんとか我慢する。

きっとこんなところで問題を起こしてしまえば、あの2人に何を言われるのか予想がつく。

それだけは阻止しなければならない。

やっぱり一緒にいますと言われたら困るし、何よりあの生暖かいような視線はいただけない。



しかし、一目惚れ…。


ファライゲラの次男坊のことをオレは笑えない。

オレも一目惚れなのだから。


だからと言って、いい趣味をしているとは褒めてやりたくない。

奴はオレの元からあいつを奪っていったのだから。

それも無理やり婚姻を結ぼうとしている。

あいつはオレの『つがい』だ。

初めて会った時から感じているもの。

そして、日増しにその感覚は強くなる。


(全てが済んだ暁には、髪をむしって丸坊主にしてやろうか…)


物騒な気持ちが湧いてくる。


いつの間に静かになっていたのか、扉が開いて、誰かが歩いてくる靴音がした。


音は祭壇の前で止まる。

なんとか人ごみから抜け出し、誓約の儀のときに使う特別な布を使って作ってあるロードの前に移動する。

祭壇の前には1人の男がいた。


(あれが噂の次男坊か…)


一目見て、すぐに意見が絶対に合わないと確信した。

顔はまあまあ整っている。

しかしあの服装はなんだ。

これでもかと、フリルが使える場所という場所に使われており、見ているだけで頭痛がしてくる。

きっと刺繍も凄いのだろう。

幸いなことに遠めなので見ることは適わないが。

オレにはあんなものは着れない…というか、絶対着たくないぞ。


胸をそらして祭壇に背を向け、扉のほうを向いて立つ。

あの顔に泥団子でもぶつけてやったらさぞ楽しいことだろう。



そうして待ちに待った花嫁の登場。


聖堂にいる者のすべての視線が花嫁に注がれる。

怯んでもおかしくないところだ。

だが、花嫁は怯むことなくひらかれた道を歩む。



息が止まりそうだった。

自分が一生懸命探していた存在が歩いてくる。

誓約の儀で使われる純白のドレスが日の光を受けて輝く。

眩しいはずなのに目を逸らすことは出来ない。

いや、逸らしたくなかった。


豪奢なドレス。

全てを覆い隠しながらも全てをそっと見せるベール。


全身真っ白で、誰も踏んでない初雪を思わせた。

そこには犯すことの出来ない清廉な雰囲気を纏って彼女がいた。


オレには何も聞こえなくなっていた。


横で息を呑んだ音も。

人々がもっとしっかり見ようと動いたせいで発生した衣擦れの音も。


五感の全てが抜け落ちたような気がした。


そして―…感情が戻ってきたときにはオレの中は大嵐だった。



何故、彼女はあそこに居る?


何故、彼女は真っ白なドレスを着ている?


何故、特別なときにだけ使うあのロードを歩いている?


何故…。


何故?


何故!


何故、オレはこんなところで彼女を見ているんだっ!!


彼女があそこに立つのは今日この時じゃないっ!!?


オレの心が悲鳴を上げる。


ギュッと胸の辺りを掴んで押さえる。


目の前が怒りで赤く染まる。


ここ数日、感情の蛇口が壊れてしまっているようにしか思えない。

コントロールできない感情に吹き飛ばされそうになるのを後一歩のところで踏みとどまりながら、彼女を見つめる。



しかし、オレの中で吹き荒れる嵐は、彼女の視線がこっちにきたことで唐突に消える。


彼女はオレを捉えた。



微かに目を見開いたのを見た。


訳の分からない感情が湧いてきて、押さえ込もうとするが、口角が上がるのは抑えることができなかった。


言葉に出さずオレは言う。



『みつけた』



彼女はオレから視線を離さなかった。


オレの音のない言葉が聞こえたのか、瞳が揺れるのを見つける。


そして―…



「遅い」



確かに聞こえた。

きっと他のやつらには聞こえなかっただろうが、オレには聞こえた。

あれはオレだけに向けられた言葉だったのだから。


オレは驚き、我慢できず笑ってしまった。







読んでくださった方、ありがとうございます!

山場に突っ込む前に花嫁聖堂入場前後を別視点にてお送りします。

もうフェイの正体とかってバレバレなのかなぁ~と思いつつ、まだ秘密のベールはかけたままです。

どこかでいい意味で予想を抜けたらいいいなと思いつつ…。

楽しんでいただけたら幸いです。

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