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光ある国  作者: 深縁
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第21話 不安的中






(不安は的中か…やはり私が来て正解だったな)


自分の存在を限りなく薄くする魔法を施して、リーは教会の内部にいた。

人に見えなくなる程のものではないので、慎重に動く必要はあり、ところどころで身を影に寄せる。

姿を見せなくする方法もあったりするのだが、存在を薄くする魔法に比べて、そこそこの魔力を使うのだ。

教会にはたくさんの術式が展開されており、その網に引っかかる可能性が高かった。



リーは何人かの魔法使いと警備の者を見た。

それぞれに周囲を警戒しており、厳重に守られている方に向かって足を運ぶ。

なにごとも大切な『もの』は厳重に守られているものだから。

人の心理は大抵一緒。

たまに逆を突く者がいたりもするが、この場面でそうする利点は多くはない。

リーは確信を持って奥へ進んでいった。


警備する者たちを上手いことやり過ごしながら奥に進んでいくと、同じお仕着せを着た女が数人立っているのを見つけた。


(侍女たち…か?)


そっと近づく。

ちょうど近くの部屋から出てきたところだったのだろう、手に荷物を持ち、奥へと進んでいく。


(ちょうどよい。紛れ込ませてもらおう)


口元にかすかな笑みを浮かべ、侍女たちの後ろをそっとついていく。

今は存在が薄くなっているので、そっと後ろをついて行く分にはこれといって支障がなかった。


少し進んだところで、1人の侍女が口を開いて喋りだす。

声を潜めて。


「…ねぇ」

「何?」

「…ちょっとおかしくない?」

「何がよ?」

「ユーキ様よ。…朝から口元に笑みを浮かべて何も喋らないし」

「…私たちがお願いする時以外は身じろぎひとつしないとか?」

「そうなの?」

「!しっ!声が大きいわっ」

「ごめん…」


1人の侍女が、わけが分かってない風に普通の声で喋ると、声が廊下に響いて他の侍女が咎めるように言う。

咎められた侍女は首をすくめて謝る。

辺りをそっと見回して、周囲に自分たち以外がいないことを確認してまた喋り始める。


「…なんというか、執事長も機嫌が良かったと思ったら、今はすごいピリピリしてるし」

「それは誓約の儀の準備で気を張っているからではないの?」

「違うわ。執事長なら大きな行事が急に入ろうと、いつもの顔でやり遂げてしまうわ」

「確かに…それに今回は、きっと喜び勇みはしても、ここまで緊張した顔はしてないでしょうね」

「スタンリー様の婚姻を強く望んでいたしね」


同意する侍女たち。


「やっぱりこれって…―」


「それ以上は言わない方がいいわ」


「!?」


前方から飛び込んできた声。

話をすることに夢中になっていた侍女たちは、一様にびっくりした顔をして進むべき道に視線を向けた。

そこには、同じお仕着せを着た女が1人立っていた。


「エリザ…」

「口にしない方がいいことは色々あるものよ…これからもここで働きたいのなら」

「ッ!分かったわ。…これ以上は何も言わないわ」

「ええ!」


おしゃべりをしていた侍女たちは慌てて謝る。

エリザと呼ばれた女は表情を変えず、微かに顎を引く。


「さぁ、もうすぐ時間だわ。最後の仕上げをしてしまわねばならないわ」

「ええ」

「そうね!来賓の方々が目を見張るほどに飾り立てなければいけないわ」

「ユーキ様は今のままでも美しいけど?」

「ファライゲラ家の婚姻式ですもの。それに見合った格好というものがあるのよ」

「そうそう。早く行きましょう」


エリザを先頭に、侍女たちが歩いていく。

ついて行くことをやめて、リーはその侍女たちの一団の姿が小さくなっていくのを見ていた。

必要な情報は今の侍女たちのおしゃべりで得ることが出来たのだから。

今日の花嫁の姿を確認する必要はない。

『ユーキ』という名前の少女が自分たちの探し人だと確信できる。


「それに…私が先に彼女を見つけてしまったら、絶対主が怒ってしまう」


ふっと肩をすくめて、踵を返す。

フェイの元へ帰るのだ。


「あのエリザって娘…他の侍女たちとは違う…」


思い出すは赤毛の髪を結い上げた女。

顔はわりと整っていたが無表情に近く、それが彼女に冷たい印象をもたらしていた。

侍女たちの中でも別格なのが分かる。


(主人に忠実?しかしそれにしては…―)


リーは何か得体の知れない雰囲気をエリザに感じていた。







場所は変わって教会の外。

早々とやるべき下準備が終わり、フェイとローは少々手持ち無沙汰だった。


「フェイ様」

「…なんだ?」

「これが終わった後はどうするのでしょうか?…お帰りになるのでしょうか?」


ローの心配事は全てが終わった後のことであった。

フェイは空を眺めていて、ローには何を考えているのかいまひとつ分からない。


「…―どうするかなぁ…」

「フェイ様っ!」

「騒ぐな。…一度帰るしかないだろうな」

「…」

「一応退けたとはいえ、オレを狙った奴の動向を把握せねばならん」

「はい」

「兄上と弟の仕出かした後始末もせねばならん」

「…はい」


ローの眉が八の字になる。


「これが一番の重要な件だが…」

「?」

「父上と母上に結婚の了解を得ねばならんしな!」

「フェイ様っ!?今教会に居るファライゲラ家の次男坊と同じことしかけてますよっ!同意っ!まずは彼女の同意を得ることが先決です!!分かってらっしゃるんですか?!」

「分かっている。ちゃんとあいつの同意は得るぞ。お前はオレを何だと思っているのだ?」

「…」


何かを言いかけるが、ローは無理やり口を閉じた。

両手で。

それを見たフェイの雰囲気が黒くなる。


「ほお?どうやらお前とは話をきっちりとつけなければならないようだ」

「!!?」


ローは慄いて、うしろに後ずさる。

フェイはその分、前に足を進める。

しかしそれも数秒のことだ。

フェイの雰囲気が元に戻る。


「フェ…フェイ様?」

「遊びはここまでだ。リーが帰ってきた」


ローが教会の通りに視線を戻すと、何食わぬ顔でリーが帰ってくる姿を捉えた。

合流したリーはフェイに頭を下げ、次いでローを見やる。

そして―…



「また主に遊ばれていたのか?」

「!」


ひどい台詞を吐いた。







読んでくださった方、ありがとうございます!

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