第20話 時は止まることを知らず
読んでくださってる方たちがいると思うと、書こうって気になりますね。
見せ場に向けてまっしぐら!…といきたいところですが、どうなることやら(汗
歩みを止めないように頑張りますので、お付き合いください!
荘厳なる建物。
その場所特有の神聖性。
この場所を訪れる者は、全て敬虔なる気持ちになることだろう。
光を取り込むかのように存在する天窓。
正面に配置されている窓はステンドガラスで、その場の雰囲気に一役どころか何役もかっている。
ここはザラウェイで1番大きい教会だった。
今、この教会にはたくさんの人が詰め掛けていた。
男は礼服に身を包み、女は見事なドレス―と言っても、夜会に出て行くような華美なドレスではなく、もう少し抑え気味な色合いのドレスを着て。
彼らが教会を訪れているのは何のためか?
それは神に祈りを捧げるためではない。
では、何のためにここにいるのか?
こたえは、今日この日、急遽決まった大貴族の誓約の儀―婚姻―が行われるためであった。
ザラウェイに住む貴族だけでなく、近隣の町という町に住む貴族たちが詰め掛けているのだ。
それ程に、今回誓約の儀を行おうとしている貴族は、この国ではなかなかの影響力を持った家柄であった。
今日の主役となる貴族の名はファライゲラ。
現当主は、この国の王の側近の1人。
今日の誓約の儀は、そのファライゲラの現当主の息子であるスタンリーのものだった。
実のところ、ファライゲラの現当主は教会にはいない。
この誓約の儀が急遽決まったことが原因であったりする。
しかし、王の側近であるファライゲラという大貴族との繋がりを望む者にとって、この誓約の儀に参加しないという選択肢は存在しなかった。
次期当主はスタンリーの上にいる兄ではあるが、どうにかして縁を繋ぎたい者にとってこれはひとつの顔つなぎの機会であった。
教会に今もなお集まる貴族たちを少し離れた場所から見る者たちがいた。
「凄いですね」
「…」
「本当。昨日の今日なのにね」
「…」
言わずもがなな、フェイたちである。
探索の魔法を行使した後、3人はすぐさまザラウェイに移動した。
しかし、ザラウェイに移動してからも妨害する魔力に邪魔をされ、捜査は難航した。
仕方無しに、町をくまなく移動して情報を集めることに変更すると、ある貴族が急に教会で婚姻―誓約の儀を行うという情報が入ってきたのである。
最初、3人ともその情報を自分たちには関係ないものと無視していたが、詳しく情報が入ってくるごとに考えを改めさせられることとなった。
ファライゲラの次男坊が急に相手を伴って帰ってきたとか。
プリティスで出会って一目で見初められ、次の日には花嫁となる幸運な少女の話だとか。
その少女は、腰まではある焦げ茶色の髪をもち、綺麗な顔をしていただとか。
情報が入ってくるたびに、フェイの気配が重く鋭くなっていくのに、従者であるローとリーの2人は戦々恐々としていたのだ。
誓約の儀は正午に行われるとのことで、慌てて教会のあるこの地区に移動してきたのだった。
「どうするのですか?」
「教会に攻撃魔法でもぶつけてやりますか?」
「…リー」
「冗談だ、ロー」
どうしてもシリアスになりきれない一行である。
そんな2人を無視して、フェイは無言で教会を睨む。
「フェイ様?」
「…攻撃魔法をぶち込んでやりたいところではあるが、罪の無い一般市民を巻き込むわけにはいかないからな」
物騒な台詞にひやりとしながらも、冷静なようだったので、ローは開きかけた自分の口を無理やり閉じた。
「しかし…おかしいと思わないか?」
「何がですか?」
「見てないのか?…教会を包む魔力についてだ」
「え?」
「!」
ジッと教会を見つめるフェイの視線に、リーがハッと息を呑み込み、教会をつぶさに見る。
何かが見えたのか、リーも勢い込んで口を開く。
「おかしいです!確かに」
「…再三、オレが探索の魔法を使っていたからな。妨害などに対しての外に向けた魔法陣が展開されているのは予想の範囲内なんだ。しかし…―」
「はい…外だけではなく、中に向けても魔法陣が展開されています。あれは…」
「そうだ。あれはマリオネット…特定の人物を、魔法をかけた人物が思い通りに動かす魔法だ」
「!それはどういうことですかっ!」
「ロー、静かにしろ。…主、私が中を探ってまいります」
「…」
「私の方がいくらかマシです。今の主なら中で想像通りの状況だったとしたら歯止めが利かず、大事にしてしまうでしょう?」
「…いって来い」
「はっ」
無駄口をそれ以上挟むことなく、リーが群衆にまぎれていった。
「フェイ様…」
「大丈夫だ」
気遣わしげに自分を呼ぶローに力強く返事を返す。
さすがにそんなことは無いはずだとフェイは自分自身に言い聞かせる。
ファライゲラの現当主は、勤勉であり、実直だ。
だからこそ、国王の側近足り得る。
しかし、フェイは知っている。
どんなに素晴らしい当主がその家を治めていようと、同じ血を引いた全ての者が素晴らしい資質を引き継いでいるわけではないということを。
幸い、次期当主たる長兄は、現当主の資質を継いでいる。
だが、その弟は分からないのだ。
この後の展開によっては、ファライゲラ家は大変なことになろう。
無意識に左腕を掴む。
最悪な状況を想像してしまいそうになり、慌てて思考を中断する。
どっちにしろ、全てはリーが帰ってくれば分かることだった。
フェイは気持ちを切り替えて、教会を覆うように展開されている魔法陣に目を向けた。
「――そんなことよりも、あの展開されている魔法陣をどうにかする」
「はっ」
「あれは何人がかりで展開させているんだろうな…手当たりしだいなような気がするが…」
手当たりしだい。
フェイの言葉は、的を得ていた。
魔法陣というものは全て同じではないのだ。
どうしてもその魔法陣を展開する魔法使いのクセというものが出る。
教会を覆う魔法陣たちはそれぞれに違った形をしており、何個ずつかそれぞれの魔法使いが展開させたもので間違い無かった。
「強い魔法使いはいないようだな…つまらん」
「そうそうにフェイ様のおめがねに適う者がいたら大変です」
「…それはオレを褒めているのか?それとも貶しているのか?」
「どっちでもありません。事実を述べているだけです」
「…まぁ、こんなところで魔法合戦は確かにまずいからな」
「はい」
じと目でみやるフェイの視線をなきものとしてスルーする。
「この後の行動を考えると、今壊してしまうには都合が悪いですね?」
「そうだ。どっちにしろ、あいつを連れ出すときに一気に消し去る」
「では、今から仕込んでおくということでいいですか?」
「ああ…これからひとつずつ打ち消しの魔法陣を用意する。お前はそれを指示する魔法陣に重ね合わせろ」
「了解です」
行動が決まってからの動作は速かった。
2人は協力して、作業をしていった。
「フェイ様」
「なんだ?」
「早くお会いしたいですね」
「…ああ」
フェイの前には色々と問題が山積みになっている。
しかしそれを横において、彼女との再会に思いを馳せてしまうのは、いけないことなのだろうか…。
フェイは自分の責務を思いつつ、彼女と再会に胸を騒がせるのであった。
読んでくださった方、ありがとうございます!
前にも書きましたが、活動報告にて更新日について載せてあったりします。
誤字脱字の発見報告。そして感想などいただけたら大変嬉しいです。
よろしくお願いします!