ある男の言い分として
載せようか載せまいか悩んだのですが、載せることにしました。
読んでいただけたら幸いです。
彼女が僕を魅了した。
まず、あの風が戯れるように揺らす柔らかな髪が視界に入った。
ついで、光を吸い込んだかのようにキラキラと光る瞳に視線を奪われた。
細い首も手も足も―…全てが僕を魅了する。
彼女はこの世界で僕に存在を知らしめるようにそこに居た。
プリティスにその日出かけたのは偶然。
最近気に入った服飾の本舗がプリティスにあり、この日は新しいものはないかと気まぐれを起こし寄った。
普段だったら店の者を屋敷に呼んでいるところだったが、この日は何故か店に足を運ぶ気きになって行った。
しかし、だからこそ、彼女との出会いは運命なのだと分かるのだ。
ここに来たからこそ彼女に…―ユーキに出会えたのだから。
「ぼっ…スタンリー様」
いまだに僕のことを坊ちゃまと呼んでしまいそうになって、慌てて言い直すのは執事のセイドだ。
小さいころから僕に仕えている。
「セイドか。何だ?」
「はい…実は、カマスター殿からの連絡が入りました」
「それで?」
「やはりユーキ様を探す者の力を感じるそうです。…今のところはカマスター殿のお力で妨害して下さっているようですが」
「そうか…やはりさっさと誓いを済ませてしまわねばな」
「はい…しかし、少し強引ではないかと思うのでございますが」
「僕に逆らうのかい?」
「いえ…」
「セイド、お前の言いたいことは分かる。しかし、事は急を要する。僕はユーキと出会ってしまったんだ。僕を一瞬で魅了してしまった彼女を狙うやつはたくさんいる筈だ。僕は彼女を誰にも譲るつもりがない。ではどうしたらよいか?」
「…」
「それは名実共に僕のものにしてしまうしかないということだよ。絶対ユーキは僕のことが好きになる。いや、好きにしてみせる!」
話すうちに力がこもってしまった。
そのままセイドを見る。
セイドは何もいわず僕を見る。
「僕を好きになるのは確実だ。しかし時間がない。―だから、先に周囲を固めてしまう。ユーキを手に入れるために」
スッとセイドが頭を下げる。
「スタンリー様の仰せのままに」
セイドの台詞に僕は満足する。
状況が変わったのは数刻後。
彼女の部屋を訪れて、その姿を目におさめる。
彼女が着ていたのは彼女のために急遽取り寄せたドレスの中のひとつ。
自分的には少々シンプルな形のドレスだと思っていたものを彼女は着ていた。
しかしどうだろう。
シンプルなドレスが予想外に彼女を惹き立たせており、更に僕を魅了した。
本能の赴くままに彼女の前に膝を下ろし、手の甲に口を寄せる。
熱っぽい視線で彼女を下から覗き込むように見た。
どの角度で見ても彼女は美しかった。
意識せずとも出てくる言葉に、残念ながら彼女の表情はかわらない。
それは仕方がない。
彼女には悪いと思ってはいるが、魔法を施させてもらっているのだ。
彼女が分かってくれることは確信しているが、その為には誠意を持って言葉を言い募る時間が必要なのだ。
しかし、今その為の時間はない。
忌々しいことに。
表情はかわらないとはいえ、彼女の微笑を見るだけで今は満足だ。
美しい彼女の横に相応しい姿で立つために、彼女と居る時間を惜しみつつ、僕は部屋を後にした。
「スタンリー様っ!」
僕の高揚とした気分をかき消すようにセイドが慌てたようにやってくる。
珍しいことだ。
セイドという男は、いつも執事長として皆のお手本となるようにこんな慌てた姿など見せないのだ。
そんなセイドが慌てていることで、何か不測の事態が起こったことを知る。
「どうした」
「カマスター殿が重症を負いました」
「何?!」
「どうやらユーキ様を探している人物は、カマスター殿よりも力のある魔法使いか、魔法使いを雇っているようです。再三探る力に対抗したらしいのですが、相手方がもっと強力な魔法を使ってきたようで…」
「ということは、場所を知られたということか」
「はい。…幸い、詳細な場所までは知られてないと思いますが、時間の問題かと」
「分かった。式を早めるように手配しろ」
「はい」
「招待客にも他の魔法使いを使って連絡を入れろ」
「分かりました」
指示を聞いてセイドが足早に去っていく。
ギリリと手を握る。
「ユーキを渡してなるものかっ!」
早く準備をしなければならない。
自分の部屋に向かいながら、彼女の先ほどの姿を思い出す。
絶対に誰にも渡すものか。
彼女は僕のものだ!
読んでくださった方、ありがとうございます!
第○○話とつけようかと思ったのですが、やめました。
勝手な男の言い分ですが、少しでも話の内容が広がればなと思い載せてあります。
…意味無いかもと冷や汗をかきつつ。