第16話 主と従者は再会する
宿屋の食堂にて朝食を食べているとき、リーは帰ってきた。
ご飯を食べているフェイを見て、リーはほっとした顔をのぞかせる。
その表情を見てフェイは、ひょいっと眉を上げてフォークを下ろす。
フェイの動作に、ローもやっとリーの帰還に気付いたようだった。
「リー」
「遅くなりました」
「本当にな」
「…」
「…」
リーの言葉に憮然とした表情でフェイが答える。
「主っ!可愛いですっ!!」
ぶすくれる姿が何かのつぼにヒットしたのか、リーがガバッと抱きつく。
それに慌てたのはローで、フェイは無言。
抱きつかれるままだ。
「リー!」
「もうちょっと!!」
「…公共施設だぞ」
「ローはうるさいな…」
仕方無しにフェイからしぶしぶ体を離し、空いた席に座る。
周りが注目していたが、全ての視線を無視する。
少しすると、みな自分の食事に戻っていった。
ローが深々とため息を吐く。
リーはちゃっかりローのご飯を横から奪い取り、食べ始める。
それを見ていたのか、ローラがもう一食分持ってあらわれた。
「リーさんてば相変わらずね」
クスクス笑って、テーブルに持ってきた食事をのせる。
ローが弱弱しい笑顔で礼を言うと、頬を染めてローラは去っていった。
「罪つくりなやつ」
「はい?」
「言ってもこいつには分かりませんよ、主」
旺盛な食欲を見せながらリーが述べる。
肩をすくめてそれに同意してフェイも食事を再開した。
取り残されるのはローだ。
疑問符が頭の周りを回っていたが、答えがもらえないことは分かっていたので、疑問を脇に捨ててローラが持ってきてくれた食事に手をつけた。
カチャカチャ
少しの間、フェイたちのテーブルでは食べる音や食器などが擦れた音がその場を占拠していた。
「誰に会った」
唐突にフェイが喋りだす。
「リーン様とセフォイド様にお会いしました」
「…そうか」
「お部屋がとっても斬新に飾られていましたわ」
「ほう」
「主は茨がお好きですか?」
「…よりによって茨か」
差し支えない程度の会話で昨日の状況を聞く。
自分の部屋が茨によってデコレートされていることを聞いて、げっそりとする。
「前回よりはマシなような気もしますが…」
「何を言っている」
「そうだぞ、ロー」
「見たかぎり普通の茨ではなかった。…早く帰ってくるためにそのまま放置してきてしまったがな」
「仕方がない。帰ってから何とかしよう」
「…」
部屋の窮状を思い浮かべながら、3人とも憂いの視線を宙にやった。
その後、黙々と食事を平らげて、部屋に移動する。
フェイが椅子に座ったのを合図に、リーが恭しく指輪を差し出した。
指輪を受け取ったフェイは、少し目を見張った。
「魔力が5分の1程度も残ってるじゃないか。珍しいこともあるものだ」
昨夜冷静になって考えてみれば、指輪に魔力が残ってなくてもおかしくはないと考えていたのだ。
しかし、それはいい意味で裏切られていた。
喜びも束の間、リーの台詞に肩を落とす。
「いえ、魔力は5分の1も残っておりませんでした。ここにくる道中で集めてまいりました」
リーの言葉を訳すなら、「そこらへんにいた人間から奪い取りました」ということだ。
「…ご苦労だった」
リーの道中を思って涙が出そうになる。
リーにではない。
リーに会ってしまった不幸な男たちに対してだ。
リーは子ども女には無体なことはしないから。
「無いよりはマシだな…2人とも手を出せ」
指輪を右の親指に装着して、左手と共に前に突き出す。
その手をローとリーが各々片方ずつ重ね合わせる。
フェイの右の親指にはめられた指輪についた赤い石が輝きだす。
それと共にフェイの手のひらに重ねたローとリーの手にも絡みつくように赤い粒子が漂った。
次々とあらわれる赤い粒子は、2人の手に吸い込まれるように消え、最後の1粒まで2人の手の中に消えたとこで終わりを告げた。
「どうだ?」
「はい、十分です。半分以上は魔力が回復してます」
「こちらもです」
お互いに手をワキワキと閉じたり開いたりしながら、2人が状態を告げる。
「ローが、昨日少しでも多くと魔力を回復させていたからな…半分以上回復したなら上々だ」
満足そうにフェイが言う。
リーが驚いたようにローを見る。
「ローが魔力を回復させに行ったのか?!」
貯蓄力がこの世界による魔法の源のあり方とすると、それに伴い魔力を人に分け与えるのを生業とする組織が存在していたりする。
その組織は大きいものから小さいものまで。
魔力さえあれば誰でも出来る簡単な商売だったりするのである。
リーの驚いたといわんばかりの視線を真っ向から受けて、ローは居心地悪く視線を逃す。
「昨日は楽しんできたのか?」
「リーッ!!慎みってものがお前には無いのかっ!!?というか、魔力を回復させるための場所を花街に絞るのをやめろっ!!!」
悲鳴のように上がるローの言葉に、リーとフェイが揃って耳を押さえた。
接触によって魔力を受け渡すことが出来るこの世界。
何処の社会でもひっそりと存在する夜の花。
その夜の花も本来の仕事に付け合わすように、魔力を回復させることを生業としている者がたくさんいた。
しかし、だからと言って全ての人間が夜の花とされる者たちがいる花街に行って魔力を回復させるわけではないのだ。
そしてローは堅物だった。
ついでに言うと、人との接触を苦手とする。
「ははっ。分かっているよ。我が半身にそんなことは出来るわけがないって」
「半身言うな」
「別に間違ってないだろう?双子なんだから」
「…」
「で、何処で回復してきたんだ?ローのことだから教会辺りか?」
「…ああ」
「そりゃあ、そんなに回復できないわけだ」
「…」
好き勝手に言われてローは黙り込む。
まだ続けそうなリーをフェイが手で止める。
「それ以上言ってやるな。ローにしたら大変な精神的負担だ」
「まぁ…そうですね」
「…」
「結局、その教会でも無駄にべたべたと触られてげっそりとした顔で帰ってきたんだ。労わってやれ」
「フェイ様っ!」
「わっかりました!ロー!よく頑張ったな!!」
フェイの言葉と共にリーがローに抱きつく。
ローが非難の声を上げるが、助けてくれる者はいない。
何とか引っぺがそうとあれこれ努力したが、離すことが出来ず、諦めたローがいたとかなんとか…。
読んでくださった方、ありがとうございます!
楽しんでいただけたら、幸いです。