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光ある国  作者: 深縁
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第9話 目覚めればそこは――…






「悪趣味でしょ…」


重い瞼をなんとか開ける。

視界に入ってくるのは、金、金、金。

上から右を向いても左を向いても黄金色。

これまでこんなに金色で埋められたような部屋を見たことはなかった。


「…金の壺に、金の像―本当にありえなさすぎ」


やっとこじ開けた瞼も一段と重くなる。

つい誘惑に負けて閉じそうな気持ちと瞼に叱咤して、そろりと起き上がる。


「…金の天蓋」


天蓋があるベッドなんて普通のやつでも寝たことなんて無いのに、いろいろすっ飛ばして金が惜しげもなくちりばめられたかのような見事な一品で、由岐は寝ていたのだ。


「夢見がちな私でもこれは嫌だわ…」


どうしたって居心地意度マイナス100パーセントのベッドからそそくさと逃げ出す。

悪趣味なベッドを降りた足をあし毛の長いジュータンが迎える。

これまた言わずもがなな色合いで。


「―」


コメントするのにも疲れ果て、由岐は疲れたため息をついた。


コンコン


「!」


ドアを叩く音。

急なことに体がビクッと揺れる。


「…は、はい」


恐る恐る声を返す。

一瞬後、ゆっくりとドアが開いた。


「失礼いたします」


メイドのお仕着せを着た1人の女性がいた。

身体の前にはワゴンがあり、由岐の返事を待たずして部屋の中に押して入ってくる。

何も言えないまま、その行動を何とはなしに見つめた。

部屋の隅に置かれた、これまた豪華なテーブルに、ワゴンで運んできた物を静かに置いていく。

用意が整ったのか、由岐をしっかりと捉え、手をテーブルに向けて一言。


「どうぞ」


そのまま微動だにせずこちらを見る。

わけが分からないながらも、自分が動かないかぎりかの女性が動かないことに思い当たり、ソロソロとテーブルに近づく。

椅子を引かれて仕方なしに座る。

テーブルの上には焼き菓子が上品に盛られたお皿と、ティーカップが置かれていた。

由岐が見ている前で女性はティーカップにお茶を注ぐ。

途端にお茶の芳醇な香りが広がり、由岐の強張った肩から少し力が抜ける。


「おしぼりを」


目の前に差し出されたおしぼりを勧められるがままに手に取る。

おしぼりは少々熱めの温かさを保っており、由岐はこの時、自分の手が思った以上に冷えていたことに気付いた。


「え、えと…ありがとうございます」


家の教育の賜物か、口から感謝の言葉がこぼれる。

しかし、女性は少し頭を下げてそのまま静かに部屋を退出して行ってしまった。



「ここ何処よ…」


おしぼりを手に途方にくれる。

由岐は、さっぱりわけが分からなかった。


「違うところで寝てたよね…―で、トイレに行きたくなって、部屋に無かったから部屋を出て…?」


思考が止まる。

その後の記憶が由岐には無かった。



「なんでぇ?」



気持ちを落ち着かせようと、メイド?が用意していったお茶を手に取った。

お茶によって温まった茶器に、ほっとため息がこぼれる。

しかし、お茶に口を付けようとは思わなかった。

どうしてこんな場所に居るのか分からなかったから。





「飲まないのかい?お嬢さん」


唐突に声がかかる。

由岐はまたまたビクッと身体を揺らす。

部屋には由岐しかいないはずだった。

そして唯一の出入り口が開いた音はしなかったのである。

驚くなという方が無理な話だ。

恐る恐る声のしたほうに振り向く。


「!?」


由岐はその男を一目見て、確信する。

この部屋はこの男の趣味だと。

由岐の視線の先には惜しげもなく布が使われ、所々に金糸で縫いこまれた刺繍がすみずみを飾っており、極め付けに何カラットあるんだといわんばかりの宝石が加工されて胸元を飾っていたのだ。

才能ある者が作っているようで、素晴らしいといわざるしかないような出来ではあるが、通常的に着るようなものには見えない。

というか、由岐の住む日本…いや、地球ではお目にかかれぬような服装だった。

由岐はそんな場合ではないと思いながら、自分が慣れ親しんだ場所から遠く離れた場所に来てしまったことを認識してしまったのである。




「おはよう―眠り姫」


キラリと歯並びのいい無駄に白い歯を光らせながら男が笑う。

男の台詞に、寒気が走る。


「ね、眠り姫?」


ついつい聞き返してしまった。


「そうさ!僕を一瞬で魅了してしまった麗しの君!!寝ている君はとても美しかった!!!」


とっさに茶器をテーブルに戻して、手で腕をさする。

いっきに鳥肌が立ったのだ。


「プティリスの町で歩いている君を見て、僕は雷に打たれたかのような衝撃を感じたよ!」


決壊したダムから水が勢いよく流れていくように男の言葉は止まらない。

陶然とした表情で、由岐との出会いについて語っていく。

しかし由岐には見に覚えが無い。

口を挟むことも出来ず、ただただ男が自分の世界から帰ってくるのを、腕をさすりながら待つことしか出来なかった。



由岐はそんな中、あの少年を思い出す。

意志をもった紫色の瞳がとても印象に残っている。

どうして少年のことを思い出すのか…。

そして、今この場に少年がいないことに不安を感じている自分に戸惑う。


(なんで居ないのよ…)


そんなことを考える由岐の姿は、母親が側にいないことを哀しんでいる子どものようだった。






読んでくださった方、ありがとうございます!

今回は予約掲載という機能を使いました。

明日更新がうまいこといくか分からなかったので…。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです!


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