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6話

「……う、あたまが、割れる……」


翌朝、カイルを揺り起こしたのは、脳内を直接金槌で叩かれるような鈍痛だった。安宿の固いベッドの上で、カイルは自分の喉が砂漠のように乾ききっていることに気づく。


這いずるように一階へ降り、樽の水をがぶ飲みする。冷たさが喉を通るたび、昨夜の酒場での出来事が断片的に蘇ってきた。


『角杯亭』で最も度数の強いお酒である「火竜の息吹」の殺人的な熱さ。アルテミスの石鹸の香り。そして、深夜の街で約束した、あの夢のような時間。


「……夢じゃ、なかったんだよな」


カイルは顔を洗い、冒険者ギルド「エリュシオン支部」へと向かった。


ギルドの重い扉を開けた瞬間、熱を帯びた喧騒が耳に飛び込んできた。

その中心にいたのは、やはり彼女だった。


「おはよう、カイル……あ、あの、昨日は……」


ロビーに佇むアルテミスが、朝日を浴びて輝いている。カイルを見つけるなり、彼女はぱっと表情を明るくした。しかし、彼女の周りには新人とは思えないほどの手練れたちが群がり、壁を作っていた。


「おい嬢ちゃん、俺たちとパーティを組もう。同じEランクの依頼を受けるにしても、うちなら一番効率のいい狩場の場所を教えてやれるぜ」


「うちにしろ。装備も貸してやるし、戦い方も教えてやる。君みたいな天才は早くランクを上げないともったいないんだ」


同じレベル1、同じEランクの依頼しか受けられなくても、誰が彼女を囲い、誰が彼女に恩を売るか。ベテランたちは、将来のAランクへの投資として彼女を奪い合っているのだ。


「カイル、行きましょう。一緒に……」


アルテミスが、包囲網を抜けてカイルの手を取ろうとする。

しかし、彼女を勧誘していた大男が、露骨に嫌そうな顔をしてカイルを遮った。


「おいおい嬢ちゃん、そいつはやめとけ。装備も立ち振る舞いも、見るからに持たざる側の人間じゃねぇか。足手まといを連れて行けば、君の安全が脅かされるだけだぞ」


男は、カイルのステータスを知っているわけではない。だが、長年修羅場を潜ってきた冒険者の眼力は、カイルから漂う凡人の気配を正確に嗅ぎ取っていた。


「そんなこと、関係ありません! 私が決めることです!」


「……関係、あるんだよ、アルテミス」


カイルは静かに、アルテミスの手を離した。

彼女のサファイアの瞳が、驚きに揺れる。


「ギルドの規定で、俺たちは同じEランクの依頼しか受けられない。それは確かだ。……でも、中身が違う。君が彼らと行けば、今日一日で十の経験を得られる。でも、俺と一緒にいたら……俺の足並みに合わせて、一か二で終わっちまう」


カイルは掲示板の隅に歩み寄り、一枚の依頼書を無造作に剥がした。


『スライムの駆除依頼』。


もっとも基本的で、もっとも報酬が低く、もっとも一人で完結しやすい仕事だ。


「夜に居酒屋で最高のお疲れ様を言うために、今は別々に頑張ろうぜ。」


カイルは、無理に作った笑みを彼女に向けた。


「じゃあな。初仕事、お互い生きて帰って、またあの居酒屋で会おうぜ!」


「……絶対よ! 」


カイルは受付へと歩き出した。

アルテミスは、手練れたちに囲まれ、草原の狩場へ。

カイルは、短剣を握りしめ、誰の助けもない独りのスライ厶討伐へ。

同じランクながら、二人の間には、昨日よりもずっと高く残酷な壁がそびえ立っていた。

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