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13話

冒険者になって五日目。



この日のカイルにとって、森を彷徨うスライムたちは、明日という特別な休日を勝ち取るための、最後にして最大の障害だった。



(……あと数体。あと数体仕留めれば、今日のノルマは終わりだ。)



脳裏をよぎるのは、昨夜アルテミスが見せた「デートに誘ってるの?」という茶目っ気のある笑み。



凡才の自分を奮い立たせるのに、ギルドの英雄譚や高額な報酬は必要なかった。ただ一人の少女との約束。それだけで、震える腕に不思議と力が戻った。



夕方、カイルはこれまでよりも早く『角杯亭』に到着し、隅の席に陣取っていた。



四日間の連戦で、体は悲鳴を上げている。だが、エールを一杯だけ注文し、カイルは意識を研ぎ澄ませた。周囲の喧騒は、今の彼にとって貴重な情報の宝庫だった。



「……中央広場の裏のタルト食ったか? 他の店とは一味違う違うよな。」



「西通りの串焼き、酒が進みすぎて困るぜ。」




カイルはそれらの断片的な声を逃さず、忘れないよう手元の紙の端切れに必死に書き留めていた。


(……中央広場の裏のタルト、西通りの串焼き。よし。)



「……あら。今日は一段と早いのね、カイル」



不意に後ろから鈴を転がすような声がした。


振り返ると、そこには少し意外そうな顔をしたアルテミスが立っていた。



「……ああ。体がバキバキで、早めに座って休みたかっただけだ。」



カイルは咄嗟に、情報を書き留めていた端切れをポケットに隠し、何食わぬ顔でジョッキを煽った。



「ふふ、本当かしら。……なんだか、さっきまで凄く真剣な顔をして聞き耳を立てていたみたいに見えたけれど?」



アルテミスが向かいに座り、楽しそうに首をかしげる。



カイルは咄嗟に顔を背け、耳たぶが熱くなるのを自覚しながら、手元のジョッキを無意味に回した。



「……別に、真剣な顔なんてしてねえよ。……明日はエリュシオンの街を巡るだろ。適当な店に入ってハズレを引くのも……その、なんだ。効率が悪りぃだろ。だから、評判のいい店を少し、聞いてただけだ。」



「……ふふ。私のために?」



「……せっかくの休みを、台無しにしたくないだけだ」



嘘が下手ね、とアルテミスはクスクス笑い、テーブルの下で自分の足をカイルの足に軽くコツンと当てた。



「楽しみにしてるわ。……カイルが選んでくれたお店なら、きっとどこでも美味しいと思うから」



その無邪気な信頼が、カイルの胸に重く、けれど心地よいプレッシャーとしてのしかかる。


二人はその夜、明日に備えて早めに店を出た。



「……じゃあ、また明日」



「ああ。……遅れるなよ」



別れ際、夜風に揺れる彼女のプラチナブロンドの髪を見送りながら、カイルはポケットの中の紙を強く握りしめた。

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