10話
「熱っ……! でも、うめぇ……!」
運ばれてきた厚切りの肉は、野性味溢れる赤身に脂が適度に乗っていた。カイルは口に放り込み、咀嚼する。噛みしめるたびに溢れ出す肉汁と、少し焦げたタレの風味が、泥水ですり減った心に活力を流し込んでいく。
「……本当。こんなに美味しいお肉、初めてかもしれないわ」
アルテミスも、普段の彼女なら絶対にしないような大きな口で肉を頬張っている。プラチナブロンドの髪が少し揺れ、彼女の頬にはうっすらと赤みがさしていた。
「……今日は、本当に死ぬかと思ったんだ」
カイルは二枚目の肉を口に運びながら、ぼそりと漏らした。 空腹が満たされていくにつれ、張り詰めていた緊張が「心地よい疲れ」へと変わっていく。
「ぬかるみでスライムに押し負けそうになった時、酸の臭いが鼻についた瞬間、本気で『ああ、俺はここで終わるんだな』って。……でも、その時に自分が朝言った『またあの居酒屋で会おうぜ!』って言葉が、呪いみたいに頭にこびりついて離れなかった。……自分で言い出した約束を破って、死ぬわけにはいかないって。それだけを考えて、短剣を突き立てたんだ」
カイルは苦笑いしながら、空になったジョッキを置いた。
「バルガスさんはああ言ってくれたけどさ。実際問題、俺が命懸けで掴み取った戦果は、銅貨十枚なんだぜ?宿代払って、鎧を直したら、手元にはほとんど残らない。……はは、正直、もう少し楽に稼げると思ってたんだけどな。冒険者って、思ったよりずっと世知辛いよ」
頭を掻きながらこぼした、小さな弱音。それは今日一日を生き抜いた自分への、ちょっとしたぼやきだった。
アルテミスは肉を食べる手を止め、悪戯っぽく口角を上げてカイルを覗き込んだ。
「いいえ、世知辛くなんてないわ。だって、こうして私と一緒に笑って、美味しいお肉を食べているもの。……それは何枚の硬貨よりも価値のあるものでしょう?」
彼女は少し首を傾げ、茶目っ気たっぷりにそう告げた。カイルは、彼女のそんな表情を初めて見た気がして、思わず肉を飲み込むのを忘れて見入ってしまった。
「私も、あなたの頑張りに負けないように頑張るわ。……だから明日も、ここに集まろうね?」
「……約束するよ。明日も生き抜いてここに戻ってくるよ。」
カイルは照れ隠しに笑い、エールの残りを飲み干した。




