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第二十一話 パンドラの石

神殿の前に現れた神殺しの竜こと、ミドガルズオルムにようやく一矢報いることが出来たセシルたちであったが、目を潰されて怒り狂うミドガルズオルムの反撃が今まさに始まろうとしていた。

セシルたちは無事、神殿に辿り着けるのか、、、


 どんなに硬い鱗を持っていたとしても、眼球を守ることは出来なかった。目から青い血を流すミドガルズオルムの動きが鈍くなり、その隙に麻生は飛び降りてセシルたちと合流し次の手を相談し合う。


「とりあえず負傷した左目の方から攻撃を仕掛ければ反応がワンテンポ遅れるはずだから、そこを集中的に狙っていくとして…ただ、致命傷になりそうな攻撃が僕たちにない。リエリカ、どうしよう?」


「え!?私に聞く?そうね…地道に同じ箇所を斬りつけていって頭を落とせれば御の字だけど、その前に私たちが全滅するかもだし。みんなで注意を逸らして最後はやっぱりセシル君の魔剣で斬り落とすのが正攻法じゃない?」


「私もそれに賛成です。撹乱はお任せ下さい」


「だな!それでいこう!」


 話がまとまったところで再び攻撃態勢に入る4人。しかし、ミドガルズオルムは右目でこちらをじっと見つめていた。


「な、なんだよ…不気味だな。俺たちはカエルじゃないから睨まれても動きは止まらねぇぞ!ヘビ!!」


 次の瞬間、ミドガルズオルムは咆哮を上げ螺旋を描くように上下に橋へと巻き付き始めた。その締め付けの影響か橋が激しく揺れ始め、石畳に亀裂が走る。


「あーマズイわね、これは。橋を壊す気だわ」


「え……」


 橋の下を覗き込むと、いつの間にか橋を支える支柱すべてにミドガルズオルムの身体が巻きついている。全てに巻き付いても余りあるミドガルズオルムの巨大さに改めて青ざめる4人。


「こうなったら倒すことより生き延びることが先決だ。イチかバチか神殿に逃げ込もう!」


 セシルの提案に同意した4人は一斉に駆け出し、今にも崩れ落ちそうな石橋を大蛇の身体を避けつつ走り抜けていく。しかし、その進行を妨害するようにミドガルズオルムは口から濃い紫色の毒液を吐き出してきた。降りかかる毒液を避けながら足場の悪い橋を必死に駆け抜ける。毒液が石を溶かして更に橋の崩壊を加速させ、とうとう橋は手前から崩れ始めた。


「待て待て待て待て!!ヘビてめぇ!!アホか!!」


「黙って走りなさいよ!!舌を噛むわよ!」


「おめぇだって喋ってんじゃねぇか!!」


「喧嘩してる場合じゃないでしょ!走りなさい!!」


 麻生とグレイスは器用に崩れ落ちていく瓦礫を足場にして飛び移りながらも進んでいく。リエリカは魔法で飛行しながら少しでもミドガルズオルムの動きを抑えようと同時詠唱で攻撃魔法も撃ち込んでいる。

 一番先頭を走るセシルはあと僅かで神殿にたどり着くところまで来ていたが、ここで神殿前の足場が崩れ落ちた。そこにミドガルズオルムの巨体が横殴りに波打ちセシルを橋から突き飛ばした。


 ーーえ。


 飛び移れそうな足場も掴めそうな物も何もない。セシルは谷底へと落ちていった。


「セシルぅーーっ!!」


 麻生が叫び、リエリカは急降下してセシルを掴もうと飛んでいくが、またしてもミドガルズオルムの畝る巨体に阻まれている間に落下していくセシルの姿は見えなくなった。


「ふ、不覚……2人は先に神殿に入ってなさい!」


 リエリカは更に底の方へと降下していく。残された麻生とグレイスも悠長に待っていられる状況ではなかったため、リエリカに託して神殿へと飛び込んだ。


「クソがっ!!こんな地底であんな無差別攻撃、ナシだろ…」


 神殿の床を殴って悔しがる麻生にグレイスは掛ける言葉が見つからず、神殿の外をただ見つめていた。完全に崩落していく橋と共にミドガルズオルムも谷底へと落ちていくのが見える。集中が切れ考えがまとまらない。あの大蛇も落ちたということは、リエリカとセシルが谷底で鉢合わせるんじゃないだろうかと、ぼんやり考えながらもそこへ向かう手段がないため動き出せずにいた。


 谷底へと降下していたリエリカは橋からだいぶ離れた場所で岩肌に魔剣を突き刺して落下を免れたセシルを発見した。しかし、安堵する間もなく上からミドガルズオルムが降ってきた。


「まったく…しつこいヤツだ。いい加減にしてほしいものだな!!」


 リエリカはありったけの力と魔力を込め、両手で握った剣を上空に向けて右上から左下、左上から右下へと交互に4回振り抜いた。


「レイジ・オブ・サイクロン!!」


 振り抜かれた剣先から鎌のような衝撃波が交差して次々と飛んでいく。その衝撃波がミドガルズオルムの腹に炸裂すると、大きな十字傷を刻みつけた。しかし、それでも大蛇の落下は止まらない。リエリカは急ぎセシルの手を掴んでミドガルズオルムの身体の隙間を縫うように急上昇した。


「悪いね、リエリカ」


「貸し1つってことにしておくわ」


 底へと姿を消していくミドガルズオルムを見下ろしながら、2人はようやく橋があった位置まで戻ると、そのまま神殿の中へと入った。


「おまたせ」


「セシルてめぇ!!おまたせじゃねぇよ!!心配させやがって!!危うく泣…殴るとこだったぞ!!」


「実際、半泣きでした」


「さすがに疲れたわね。ここで少し休みましょうか」


 死力を尽くした戦いだった。全員の顔に疲労が色濃く出ているのを察してリエリカは提案した。


「さんせーい。俺、もうむり…」


「僕はたいしたことはしてないから問題ないけど…」


「セシルさん…休ませてください」


 ゴール間近とはいえ、グレイスの切実な願いには反対できず一旦休憩をとることにした。


「リエリカ、さっきの技すごかった。あれは魔法と剣技を組み合わせたのかい?」


「ん?ああ、よく気付いたね。そう、あれは風の魔法と同時に袈裟斬りと左袈裟斬りを交互に放ってクロスさせたんだ」


「そんな技、王宮では教えてくれなかった」


「無茶を言わないでくれ。王宮であんな技を出せる訳がないだろう…」


 セシルとリエリカの師弟トークが繰り広げられている少し離れたところでは、少し甘酸っぱい空気が漂っていた。


「あ、あのさ…グレイスって俺にだけタメ口だよな?」


「な!?そ、それはあなた以外は神様だったり神の使いだったりするからで…」


「あ、そっか。人間なの俺だけだもんな」


 沈黙。言われるまで気が付かなかったが、グレイスは無意識に言葉遣いを使い分けていた自分に驚いていた。


「ま、まぁ、あなたは劣等種なので、敬語を使うに値しないってだけよ」


「ちょ、それひどくね?でも、敬語使われるよりはいっか…変なこと聞いたな、わりぃ」


 グレイスの長い耳の先がほんの少し赤みを帯びていることには気付かない麻生であった。


 少しの休憩をはさみ、ミドガルズオルムの脅威を無事切り抜けた4人は神殿の奥に進んだ。ここまでの通路と違い、燭台には火が灯っている。


「この火…魔法で灯されているな…」


 つまりは、何者かがこの神殿を管理しているということになる。ミドガルズオルムという守護獣がいたこともあって4人は警戒を強めてゆっくりと歩いていく。

 やがて、祭壇のようなものが見え始めた。魔力の少ない麻生でも肌で感じるほどに濃い魔力の奔流。しかし、誰かがいるような気配はしない。

 祭壇に辿り着くと、黒光りしている玉石が祭壇に祀られていた。


「これが宝玉…思ってたより地味だね」


「宝玉っていうかピカピカに磨いたドロ団子みたいだよな…」


「や、やめないか…2人とも…」


 そう言いつつもリエリカは笑いを堪えているように見える。この石のために命懸けで大蛇から逃げ切ったというのに、こんなドロ団子に眠れる力を呼び醒ますことが出来るのだろうかと、グレイスは頭を抱えた。


「無礼な奴らよ。見た目で判断するとは器が知れるというものじゃ」


 気配のなかった祭壇から女の声が聞こえ、セシルたちはあたりを見回した。すると、何の気配もなかった祭壇の陰から女が現れた。女は長い黒髪に青白い肌をしており濃いアイラインと黒のシャドー、黒いリップに黒のワンピースというオールブラックの装いをしている。こんな場所にいるだけでも不気味だが、闇に溶け込めそうなほどの黒コーデが更に不気味さを際立たせていた。


「うおーっ!?びっくりしたぁ!!え、いた?!さっきからいた?!」


「煩い童よ。少し黙っておれ」


 敵意は感じないが独特の口調に鋭い眼光は妙な威圧感があった。この女が神殿の外のミドガルズオルムを使役していたのだろうか。


「僕たちはある敵勢力を倒すために強くなりたい。この石を使えば強くなれるのかい?」


「ほう。神ともあろう者がこのようなドロ団子に頼るとはな…世も末じゃ」


 ーー根に持たれてる…


「待ってください。どうして彼が神だということをご存知で?あなた何者なのですか?」


「身体から滲み出る魔力の質を見れば、その者が何者かなどすぐにわかる…ちなみにそなたも人間ではないようじゃのう。妾はパンドラ。創造主から託されこの石を護る者じゃ。この石を使う覚悟はあるのかえ?」


「覚悟…といいますと?」


「なんじゃ、何も知らぬのか。この石に触れれば、石が課す試練が始まる。試練の内容があまりにも過酷…その覚悟ということじゃ」


 修練窟というだけあって、タダで強くなるつもりは毛頭ない。試練など承知の上だ。4人は迷うことなく首を縦に振った。


「よかろう。では、何も考えずにこの石に触れるがよい……死んでも知らぬぞ?」


 ずっと無表情だったパンドラが悪戯っぽい笑みを浮かべて祭壇から距離を取る。ふと見せた笑みに4人は逆に不安を感じながらも、意を決して石に触れた。

 その瞬間、石に吸い込まれるように4人はその場から姿を消した。


「さてさて…何人帰ってくるかのう。久々の挑戦者じゃ…楽しませてもらうぞえ」

パンドラといえば箱ちゃうんかい!

嗚呼、そんなツッコミが聞こえてくるようだよ、アハハ。

だって、箱に吸い込まれるとか葬送のフリー⚫︎ンみたいだし。

(フ⚫︎ーレンも吸い込まれている訳ではないけど)


初登場のパンドラさん。バカでかい蛇しかいない地底で1人、ドロだんご改め宝玉を守っている"ぼっち"なお嬢さん。

娯楽のない地底での彼女の孤独な生活、、、想像しただけで涙を禁じ得ません。

どんな生活なのかは皆さんのご想像にお任せしますが!

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